遠い昔に君達と巡った世界を、再び私は歩いていた。
あてのない旅、自由気ままなひとり旅だ。
あの頃とは違い、キレイに整備された街道。
魔物も盗賊も居ないのは少しだけ寂しく感じるが、これも時代の流れだろう。
魔王を倒して訪れた束の間の平和の後。
共通の敵を失った人類は、国家間で戦争を始めた。
大地は割け、空が燃え、雄大な山々は木っ端微塵に吹き飛ばされた。
何年も続いた戦争は、疫病と大飢饉によって終わりを迎えた。
今や人類は絶滅寸前の種族となり、何処かの山奥に隠れ住んでいるらしく、滅多に見ることはない。
私はそれを嬉しく思った、もう私を恨めしげに睨みつけてくる奴等が居なくなったのだから。
ひんやりと気持ち良い風が背に生えた翼や尾を掠めていく。
嗚呼……、君にもこんなふうに擽られたことがあったな。
君達との懐かしい記憶を思い出しながら、今日もひとり、旅をする。
テーマ「もう一つの物語」
押入れの中、布団と布団の間に挟まって、君が横切るのを待ち伏せ。
まだかな、はやく来ないかな、飛び上がって驚く君を想像してニヤニヤする。
しばらく待ったが、君がやって来る気配はなかった。
なんだツマンナイの、と欠伸をして目を閉じる。
パチっと目を開けて、もう一度欠伸をした。
よく寝たー、と身体を伸ばしながら押入れから出た瞬間、襖の陰から君が飛びかかってきた。
ビックリしたな、もう〜!!
テーマ「暗がりの中で」
君に出会うまで紅茶といったら、ティーバッグかペットボトル。
それか刑事ドラマのビチャチャチャチャ〜っと盛大に飛沫を撒き散らすものしか知らなかった。
キュウリサンドを噛りながらそう言ったら、目の前で優雅にティーカップを傾けていた君がキョトンとした顔。
そういえばテレビをあまり見ない人だったな、と小首を傾げた君に、ドラマで見た刑事が紅茶を淹れるシーンのマネをする。
顔の直ぐ側まで持ち上げたポットから手元のティーカップ目掛けて勢い良く注ぐ。
びちゃちゃちゃちゃー、と紅茶が跳ねる音は口で再現。
それはマナー違反ですね、半分に割ったスコーンにクリームとジャムをたっぷり塗りつけながら君が言う。
正確にはポットに湯を注ぐ時にすると良いと君に聞かされて、また一つ私は賢くなった気がした。
テーマ「紅茶の香り」
日頃の感謝を込めて、みんなに贈るよ。
でも面と向かって言うのは、なんだか照れくさいから。
くっだらないダジャレに込めてみた。
嘘偽りない僕の思い。
これからもみんなに届きますように。
あいことばは、アリが十匹。
ありがとう!
テーマ「愛言葉」
おはよう、ご機嫌いかが?
窓辺に座って、目の前の君に一声かけた。
灰色の長い毛をした少し透けてる君が真ん丸な目を僕に向けている。
返事はない。
いつも無言で僕を眺めている君、君の声を聞きいてみたいな。
ねえ、一緒に遊ぼうよ。
チュン、と合わせた鼻先は飛び上がるほど冷たかった。
テーマ「友達」