みんな、それぞれの道を行くから。
バイバイと手を振って、私も選んだ道を行く。
悩みながら迷いながら、一歩一歩慎重に進んで。
私の望んだ未来を掴み取るために。
いつか、みんなに会ったときに誇れるように。
私は、こんなに頑張ったよ、と。
だから、バイバイ。
そう言って、追い縋る君の手を振り払った。
テーマ「行かないで」
吹き抜けていく風に、干したばかりのYシャツがクルクル踊るように靡く。
そのままハンガーごと飛んでいってしまいそうになったので、慌てて引き戻したハンガーのフックの所に大きい洗濯ばさみで留めた。
今日は風が強いから角ハンガーのほうが良いな、と洗面所に引き返して角ハンガーを二つ小脇に抱えて帰ってくると。
物干し竿に等間隔に付けた洗濯ばさみの上に赤トンボが三匹。
同じ方を向いて、仲良く並んでいた。
テーマ「どこまでも続く青い空」
お酒を呑んでゴキゲンな君がグラス片手に、椅子からフラフラと立ち上がるやいなや歌を歌いだす。
母国の言葉なのだろう、淀みのない流れるような歌声を聞いている内に「ああ、あの曲か」と把握。
気持ち良さそうに、高らかに歌い続ける君を肴にして、私はグラスを傾けた。
……だいぶ音を外しているようだが。
酔っ払いは音の外れなど気にすることもなく、一番を歌い上げるとすかさず二番目に突入。
歌詞がうろ覚えなのか酔いが回ったのか、途中から意味の無さげな音の羅列になって、しだいに呂律まで回らなくなっていき、かくりこくりと舟まで漕ぎだした。
立ったまま寝てしまいそうだったので椅子に座らせてやると、そのまま横になって寝入ってしまった君。
ブランケットを掛けてやり、君が歌っていた歌を繋ぐように歌う。
君を起こしてしまわないように、声量を抑えた声で。
for__auld__lang__syne__.
遠い日の思い出を再会した旧友と懐古する歌を。
テーマ「声が枯れるまで」
君はもう、私のことなんか覚えてないだろう。
雑踏のなか、スーツ姿の君とすれ違う。
歩を緩めた私のことなんて目もくれず、さっさと君は人混みに紛れていった。
私は後ろを振り返ろうとして、止めた。
そうして何事もなかったかのように点滅し始めた信号機に急かされるように歩きだす。
君は、私のことなんて覚えていないだろう。
すれ違った君は昔と変わらずに綺麗だった。
少し歩いてから振り返った私は、雑踏に消えていく君の小さな背を目で追った。
君はもう私のことを覚えていないだろう。
だから、私も、もう忘れよう。
テーマ「すれ違い」
観葉植物の植え替え時期。
大物になった子を植え替えるのは結構な重労働で、「よっこいせっ」ではないけども、気合を入れないと出来ない。
あっという間に冬になってしまうから、さっさと終わらせて室内に入れてやりたい。
赤玉土、腐葉土、川砂をせっせと混ぜ合わせて、休憩を挟みつつポトスやらゴムやらを植え替えていく。
親株から引き離した赤いBB弾みたいな実生シクラメンを優しく植え付けてやって、流石に疲れたので今日はもうお終い。
ぐいーっと伸ばした背中がバキバキと鳴った。
テーマ「秋晴れ」