重たい毛皮を脱ぎ捨てて、虹の橋を渡る。
灰色の針山は眼下に、抜けるような青空の下、誰に縛られることもなく翔けた。
もう痛くない、苦しくない、疲れることもない。
こんなに走り回れる、目も良く見える。
風が気持ち良い、空が綺麗だ。
果てしなく続いていく虹の橋、一つ嘶いて駆けていく。
何処までも広がる蒼穹。
君と最後に見た空の色と、似てる気がして。
虹の橋を渡った先で、ただ君だけを臨む。
テーマ「また会いましょう」
たまに君が読んでいる、小難しそうな専門誌。
君が席を外している隙に、興味本位で頁をパラパラと捲ってみた。
英語の長文、専門用語と読めない知らない漢字に申し訳程度のてにをは。 当然ルビはない。
頭がクラクラしてきた、本から離した手をそのまま額に押し当てて、テーブルの上をぼんやりと眺めた。
通話の邪魔と外されたタッチペンが転がってる。
片側がボールペンになっているタイプのヤツ、とても便利と君が重宝している物。
なんとはなしに手にとって、ボールペン側のキャップを取った。
そして、再び専門誌の頁をパラパラと捲って、幾つかの文字を丸で囲んでいく。
君は栞を使わないから、どこまで読んだのか分からない。
けど、気づいてくれると嬉しいな。
丸を描き終えて、テーブルの上、寸分違わぬ位置に専門誌を戻して。
君が戻ってくるのをドキドキしながら、ソファに座って待った。
テーマ「スリル」
諦めることを知らない君は、また羽ばたこうとするのだろう。
天へと手を伸ばし、折れた翼を広げて。
君はもう飛べないのに、無数の鎖に雁字搦めで。
藻掻く度に翼が赤く傷ついていくのに。
それでも足掻く君に、何故だか心惹かれている。
テーマ「飛べない翼」
適当に描いた木のイラストで、いったい何が解るというのだろうか。
分厚い本とイラストを交互に見やる医療従事者を鼻で笑った。
占いに毛の生えたようなその鑑定に何の意味があるのか、聞いてみたかったが止めた。
どうせマトモな回答など返ってこない。
自分が何をしているのかすら理解していないのだから。
占い好きのこの医療従事者の気の済むまで。
否、飽きるまで。
この無為な時間を過ごすことになるのだろう。
嗚呼、早く帰りたい。
テーマ「脳裏」
真白の紙に、世界を写す。
黒と白と灰色で構成された、空想の世界を。
風景を、人物を、物語を、少量の言葉とオノマトペを用いて描いていく。
登場人物の怒りや悲しみ、喜び、絶望、様々な感情の変化を、体のありとあらゆるパーツを使って表現する。
紙の中の登場人物と同じように、私も生きていけたらな。
病院のベッドの上で、そんなことを考えながら。
今日も私はペンを走らせ、世界を描く。
テーマ「意味がないこと」