陸奥守吉行の瞳には太陽の輝きが宿っている。甘く、温かみを感じさせる目だ。
誰かの目を仔細に覗く機会なんてそうそうないが、訳あって私は彼に添い寝を頼んでいる。
理由は色々あるが、彼の目を間近で堪能できるのは嬉しい。
彼が亡くなって、生きる楽しみを失った。
それでも私はドクターとして、皆の命を預かっていたから、それを生きる理由にしていた。
裏切られ、胸を貫かれて、ようやく楽になれたと思っていた。
死ぬのなんて怖くなかったはずなのに。
待宵の光
(※刀剣乱舞×アークナイツ)
琥珀に対する所感
【その眩しさに身を焼かれようとも、人はその光に手を伸ばし続ける】
【光が強ければ影も深まる】
「この世界はわしが知らんことがよけある。ほんじゃあきに、おまさんと一緒に知りたいんじゃ」
真っ直ぐに見つめられ、指を絡められた。熱く滾る好奇心を包むその目は、夜の闇の中でよく映えていた。
「……うん」
私もこの世界のことを知らない。
死んでしまったはずなのに、まだ心臓は鼓動を打ち鳴らし、脳は常に思考を走らせる。
握られた手が温かい。長くて少し硬い指をしている。骨が太くて、武器を扱う人のそれだ。
「わしはおまさんに選ばれて幸せちや。ここじゃない、また別の世界を知ることもできるき」
苦い顔をしているだろう。口元は隠しているが、眉や目に感情が出やすい身では意味を成さない。
それに、私はテラの大地が怖くて仕方ないから。
「大丈夫か?わしがそばにおるき……」
彼の指が、そっと目元を拭う。
いつの間にか泣いていたらしい。
「ありがと」
頬に添えられた手を包み込む。
そこには仄暗い感情はなくて、季節外れな温かみを感じた。
「潰えた夢の続きを」
(※刀剣乱舞×アークナイツ)
2024/01/16
甲板へ向かう。伸びる影と響く足音に怯えながら、足を進める。
ここに来るのは嫌だが、執務室にいれば誰かしら訪ねてくる。今日は一人で居たかったから、ここまで上がってきた。
寒々しくて乾いているはずの空気が、重く生暖かく感じる。潮の香りはいつしか恐怖の象徴に変わっていた。
手すりを握れば、冷たさが指先を包み込む。布一枚を隔てたところで、夜の寒さは凌げない。
ここはテラではない。月は一つであり、海は凪いでいる。争いこそあれど、比べれば優しい世界のはずなのに。
呼ばれている。腹の傷が痛む。
いないはずなのに、空から、海から、私を呼ぶ声が聞こえてくる。
「違う、私はもう」
その先の言葉もあるのに、絞め上げられた喉首からは掠れた音しか出ない。
立つことすらままならず、柵に寄りかかり、そしてへたりこむ。
「ここにおったがか」
聞き覚えのある声。痛みは走るが、顔を上げる。
「無理せいでえい。大丈夫ちや。わしがおるき」
※未完
2024/01/14
二次(刀剣乱舞)
皇室の女性陣のティアラが四年ぶりに解禁となり、年新たにして誰も彼もが祝いに興じると思っていた。
「は?!地震?津波!?」
数時間前までは、お笑い番組で笑っていたはずなのに。少し移動している間に、テレビの画面は何度も見かけた災害の知らせに変わっていた。
けたたましい警告音が何度も部屋に響き渡った。
「フォロワーさん、大丈夫かな」
料理の片手間にSNSを開くと、激しく揺れたと書き込みがあった。
幸いなことに、連絡は取れた。
帰りに見上げた夜空は、私達のことなど知らぬかのようにオリオンを引き連れて輝いていた。
※被災者の方の一刻も早い救助、被災地の復興をお祈り申しあげます。余震等まだ油断はできません。
できる限りの防寒と防災対策をし、安全に夜をお過ごしください。
「おそば……」
ふにゃふにゃと曖昧な寝言から、蕎麦という言葉は聞き取れた。今日は大晦日、年越し蕎麦を食べて夜を明かそうではないか。
蕎麦を湯がき、かき揚げを作った。そして、いなり寿司を握って。
こたつでスヤスヤ寝ている彼女を起こした。
「んぅ……おじさん?おはよ……」
「あぁ、おはよう。晩飯ができた。一緒に食べよう」
「……うん」
テレビをつけるわけでもなく、啜る音だけが響く。食べる姿も可愛い。
「おいしい」
「それはよかった」
食べ終わった皿を片付け、何をするでもなくこたつへ潜る。積まれたみかんの皮を剥きつつ、彼女と食べる。
「動物の餌やりみたいだな」
「にゃーん」
「っ、ふふ」
突然の猫に驚きつつも、彼女の口にみかんを放り込む。だいぶ心を許してくれたみたいで、喜ばしい限りだ。
「おわっ……急にどうした」
「なんとなく」
「そうか、まぁ、お前の行動は自由だもんな」
「んふふ」
そのうち本当にゴロゴロと喉を鳴らしそうだ。猫として生まれてたら、間違いなく俺のもとで飼ってた。
「おじさんに会えて、本当に良かった。ありがとう」
「それは俺もだ。こちらこそな」
家族に疎まれ、亡くしてからは親戚に狙われ、心休まるときは無かったと聞いている。俺の側にいるときは、リラックスできてるといいんだが。
「おじさん、あと十秒で年越すよ」
「お〜、一緒に年越せるな」
カチカチと時計の音がして、十二時を指す鐘の音が響いた。
「あけましておめでとうございます」
「今年もよろしくお願いします」
そう、俺と彼女の関係はこれからも続く。
「これからも」・葬儀屋と少女
(2023/12/31)
(Morrisからの一言)
あけましておめでとうございます。
昨年からこちらのアプリで作品を投稿し、おかげさまで♡を418個もいただきました。
本年度も時間の許す限り、作品執筆に取り組んでまいります。