寒さか厳しい季節。乾燥も相まって肌も弱くなる。というわけで、彼女に手袋をあげた。
「よく似合ってるぞ」
柔らかな黒が、彼女の細い指に映える。
布一枚を隔てるだけでも、冷たさは和らぐのだから。
「黒のベルベット」・葬儀屋と少女
(2023/12/28)
24と25のちょうど境目のロドス艦内。
男達は武器ではなく、大袋を抱えて艦内を縫うように動いていた。
揺らめく炎に浮かぶ影は彼らを象徴する尻尾だけ。合図するように軽く揺らせば、彼らは足音も立てずに去る。
「では、作戦通りに」
案内役に扮したベスタは、ランタンに火を灯して見回りに行く。
サンタを一目見ようとする子供たちを諭し、残業が片付かないからと抵抗する大人たちにはアーツをお見舞いした。
尻尾に紛れて翼が見える。
今年は更に人数が増えたらしい。例の彼なら、素早くプレゼントを届け終えるだろう。新人ではあるが、要領がいい。
7人に増えたサンタクロースのおかげか、例年の半分程度の時間で配達が終わった。
「遅くまでご協力ありがとうございました。皆様のプレゼントも後日お届けします。それでは、おやすみなさい」
各自解散の後、ベスタはへラグと一緒に部屋へ戻った。
「へラグ様もお疲れさまでした」
「あぁ、ベスタもな。子供たちが夜更かしをしていないかと心配していたが、杞憂に終わった」
「ええ。大人たちのほうが手強かったですわ」
「ははは、そうだな。今年も無事に成功した、しかし、神経を張っていただろう。ホットミルクでも飲んで、ゆっくり休んでくれ」
「ありがとうございます」
湯気立つホットミルクで身体が温まる。絶妙な眠気に誘われ、ベスタは先にベッドへと向かう。
「おやすみなさい、へラグ様」
「あぁ、おやすみ」
ベスタが完全に眠ったことを確認したへラグは、棚に隠しておいたプレゼントを彼女の枕元に忍ばせた。
「任務完了、全員にプレゼントを届けた」
そう端末に打ち込み、へラグも眠りについた。
「オペレーション・プレゼントラッシュ」
イブの夜
※明日方舟(二次創作)
アインホルツ帝国の首都ドルトファン。
自然溢れる街の中で、人々は日々の生活を営んでいた。それは夜も変わりなく、柔らかな光がドルトファンを照らしている。
皇帝ロレンツは、妻のロレンスと共に散歩に出ていた。彼女の国を巡る混乱も収まり、二人は晴れて夫婦になれた。
彼女の婚約者の蒔いた火種が、レクステリア王国──現ルリスリアン公国への国難として襲い掛かった。
周辺国に包囲され、国内も不安定な中で彼女は周囲の支持を得て指揮を取った。
そして、名実ともにルリスリアンの指導者となった。
それはさておき、今日はお忍びデートなのだ。買い物と解説を交えながら、ドルトファン城まで歩く。
「ロランス、行こうか。案内するよ」
「えぇ、ロレンツ様」
二人の正体がバレて騒ぎになるまで、あと少し。
「手を繋いで」
気高き理想も今は在りし日の夢の中。
時代に取り残されたこの身は、何も成すことなく等しく大地へ還る。
本当に?何故、私は剣を握り続ける?
答えは未だ見つからず。
「夢と現実」2023/12/05
すう、すう、と規則正しい寝息を立てて眠る彼女。眠りについていながらも、触れれば温かく滑らかなのは、生きている人間という証拠。
「……」
家族も、愛する人も随分前に亡くした。
それから、仕事も相まって精神は強くなった。だが、壊れているとも指摘された。そうかもしれない。
だけどまだ、彼女がいる限りは。
歳は離れているし、半ば拐ってきたようなものだけど、彼女を幸せにしたい。
「……おじさん」
可愛らしい寝言だ。嬉しいことに、想いは通じている。だけど今は、彼女の行く末が定まるまで見守ることにしている。
この気持ちを伝えるにはまだ早いのだから。
「おやすみ。いい夢を」
『葬儀屋が生きている理由』
「光と闇の狭間で」2023/12/02