「おそば……」
ふにゃふにゃと曖昧な寝言から、蕎麦という言葉は聞き取れた。今日は大晦日、年越し蕎麦を食べて夜を明かそうではないか。
蕎麦を湯がき、かき揚げを作った。そして、いなり寿司を握って。
こたつでスヤスヤ寝ている彼女を起こした。
「んぅ……おじさん?おはよ……」
「あぁ、おはよう。晩飯ができた。一緒に食べよう」
「……うん」
テレビをつけるわけでもなく、啜る音だけが響く。食べる姿も可愛い。
「おいしい」
「それはよかった」
食べ終わった皿を片付け、何をするでもなくこたつへ潜る。積まれたみかんの皮を剥きつつ、彼女と食べる。
「動物の餌やりみたいだな」
「にゃーん」
「っ、ふふ」
突然の猫に驚きつつも、彼女の口にみかんを放り込む。だいぶ心を許してくれたみたいで、喜ばしい限りだ。
「おわっ……急にどうした」
「なんとなく」
「そうか、まぁ、お前の行動は自由だもんな」
「んふふ」
そのうち本当にゴロゴロと喉を鳴らしそうだ。猫として生まれてたら、間違いなく俺のもとで飼ってた。
「おじさんに会えて、本当に良かった。ありがとう」
「それは俺もだ。こちらこそな」
家族に疎まれ、亡くしてからは親戚に狙われ、心休まるときは無かったと聞いている。俺の側にいるときは、リラックスできてるといいんだが。
「おじさん、あと十秒で年越すよ」
「お〜、一緒に年越せるな」
カチカチと時計の音がして、十二時を指す鐘の音が響いた。
「あけましておめでとうございます」
「今年もよろしくお願いします」
そう、俺と彼女の関係はこれからも続く。
「これからも」・葬儀屋と少女
(2023/12/31)
(Morrisからの一言)
あけましておめでとうございます。
昨年からこちらのアプリで作品を投稿し、おかげさまで♡を418個もいただきました。
本年度も時間の許す限り、作品執筆に取り組んでまいります。
1/1/2024, 6:31:18 AM