甲板へ向かう。伸びる影と響く足音に怯えながら、足を進める。
ここに来るのは嫌だが、執務室にいれば誰かしら訪ねてくる。今日は一人で居たかったから、ここまで上がってきた。
寒々しくて乾いているはずの空気が、重く生暖かく感じる。潮の香りはいつしか恐怖の象徴に変わっていた。
手すりを握れば、冷たさが指先を包み込む。布一枚を隔てたところで、夜の寒さは凌げない。
ここはテラではない。月は一つであり、海は凪いでいる。争いこそあれど、比べれば優しい世界のはずなのに。
呼ばれている。腹の傷が痛む。
いないはずなのに、空から、海から、私を呼ぶ声が聞こえてくる。
「違う、私はもう」
その先の言葉もあるのに、絞め上げられた喉首からは掠れた音しか出ない。
立つことすらままならず、柵に寄りかかり、そしてへたりこむ。
「ここにおったがか」
聞き覚えのある声。痛みは走るが、顔を上げる。
「無理せいでえい。大丈夫ちや。わしがおるき」
※未完
2024/01/14
二次(刀剣乱舞)
1/15/2024, 9:59:45 AM