月が凪ぐ夜

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4/4/2024, 1:45:26 PM

鳥かごの中のその鳥の鮮やかな翅は赤く美しく、その翅をもぎ取って二度と羽ばたけないようにした。
逃げ出さぬようにその翅を手折って、手枷と足枷で縛り付け、その鳥は痛みと恐怖でその身を竦ませる。
もはや飛ぶことすら忘れた鳥は、この手のひらの上でただ愛玩されるだけのものとなった。

…欲しかったのはそうじゃない。
ただひたすら大空を羽ばたく姿に惹かれたはずなのに、けれど鳥は自由でいつかはここから飛び立っていくのだろう。

だから――これでいい。
逃すくらいならば、手放すくらいならば、すべてを奪い去って、翅を散らして地に堕とし、怒りと恨みの視線に刺されても、お前が私を愛することがなくとも、

お前が傍にいるならば…

「―――…それでいい」

【それでいい/Ēlusion】

4/3/2024, 1:48:25 PM

あなたと付き合う前に、私は1つだけ言ったね。

「私はあなたが好きだけれど、私の一番はもう決まっていて、それはたぶんこれからもずっと変わらない」

なんて卑怯でわがままな言葉だろうか。
けれどそれを隠すことができないくらいには、私はあなたのことが好きだった。…それは本当のこと。
一番にはできないけれど、それが何が障害なのかと問われれば――別に何もない。
あの人を追いかけるわけでもなく、この想いを告げるわけでもなく、あなたとあの人を比べるわけでも、ましてあなたへの気持ちがなくなるわけでもない。
だからあなたはそれでもいいと言ってくれた。

………結果は誰もが予想した通りだけれど。

愛する人の一番になれない。
その痛みを私は知っているはずなのに、それを押し付ける私はなんて酷い人間なのだろうか。
それでも私はこの事実を覆すことはできない。
もしもその事実をなくしてしまえば、私は私でいられなくなってしまうから。私はあの人なしでは「私」たり得ないものだったから…。

泣かないで、私の愛するあなた。
あなたは何も悪くない。すべての責は私にある。
それでもあなたに愛されたかった私の愚かさが、あなたを傷つけ、そして壊してしまった。

だから私は誰かを愛することを、
あなたで最後にすると誓うわ。

【1つだけ】

4/2/2024, 11:55:17 AM

心というものはどこまで壊れていくものでしょうか。
バラバラになって、粉々に砕け散って、目に見えないほどの微粒子になったのなら、すべてを無かったことにしてくれるのでしょうか?
それならばいっそのことそうなってくれればいいけれど、残念ながら心というものは人の目に触れるものではなく、その形状も分からなければ、どんな状態であるのかも人が知る術はないのでしょう。

その言葉は、初めて彼女が「彼女」として私に投げかけた最初で最期の言葉だった。
そしてその瞬間、私は彼女がその腕に抱えていた大切なものを壊してしまったのだと知った。

美しき氷の花。…私の妻。――我が王妃。

誰も彼女の微笑みを知らない。怒りを知らない。
嘆きを知らない。涙を、知らない…。
そしてその本心を知ろうともしなかった。

彼女に心はなかった。長い年月の間に氷漬けにされてしまった感情は粉々に砕かれ、二度と戻ることはなく風花の中に紛れて消えていってしまったからだ。

そしてそれを知るものもまたいなかったことも事実で、私は今もそれを悔やんでいる。

【大切なもの/氷花】

4/1/2024, 10:30:20 AM

今日はエイプリルフールだと言うけれど、
私はあなたにいつも嘘をついている。

あなたに会えなくても、「寂しくない」と。
あなたの声が聞こえなくても、「大丈夫だ」と。
電話の向こうで笑うあなたに、
まるで息を吐くように嘘を吐く。

あなたはそれに果たして気づいているのかしら?

今日がエイプリルフールだと言うのなら、
たまにはあなたに言ってみてもいいのかな。

「あなたに会えなくて寂しいの。
だから、今すぐ私に会いに来て」

さあ、あなたは私にどんな嘘を返すのでしょう。


【エイプリルフール】

2/17/2024, 3:13:46 AM

僕の方が誰よりも君を愛している。
それは君もよく知っているでしょう。

君のために為すことならなんでもできる。
楽しんでいるのなら共に笑い、
悲しんでいるのなら君を慰め、
君の進む道の障害を取り除いてあげる。

君のために惜しむことなど何もなかった。
慣れない家事にも一生懸命で、
君が帰る家でひたすら待った。
そうして君を迎えるのが好きだったから。


開かない玄関。静かな居室。ただひとり。
僕は今でも君をここで待ち続けている。

君はもうここに帰ってこないと知りつつも、
いつか君が帰ってくることを夢見ながら…。


【誰よりも】

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