いつもの如く君んちに遊びに来てるわけだけど、今日はいまいち気が乗らなくて、配信の映画も見る気にならないし、音楽聴くのもちょっとなぁ。
缶の酒をちびちび呑みながら、君がこまごまとなんかしてるのをぼんやり見てた。
ご飯の洗い物終わってから君はソファの前の床に直前座って、なんとトランプなんかを取り出した。
「これねー、こないだご飯食べたお店でもらったの。ほら、お店の名前」
「変わったノベルティだな。ゲームでもする気か?」
「しても良いけど…」
俺があんまりやる気ないのを感じたのか、君はテーブルに広げたトランプを立たせはじめた。2枚セットで並べて、4組作ってその上に蓋をする。
「それじゃ高くできなくない?」
「崩れちゃうもん」
「どうせなら高くしようぜ、高く高く」
「無茶言うなー自分じゃできないのにー」
実際下4組でも、君は2段目で崩した。もーほらちゃちゃ入れるからー!って君はわざと頬を膨らませ、俺はそんな君を後ろから抱きしめて、そのままトランプはやめさせた。
そのあとは、内緒。
▼高く高く
「こないだタクシー乗ってたらさー」
「うん」
「こーこーせーがガッコ終わっていっぱい歩いててさー。なんか懐かしいって思っちゃった」
君がニコニコしながら遠い目をする。あの頃のことを思い出してるんだろう、同じ高校に通ってた俺たち。俺が1年先輩で、君が後輩。
俺だって簡単にあの頃の情景を思い出せるよ。
「俺たちもつるんで良く一緒に帰ってたよな」
「そーだねー…。俺よくひとりでクラスに残ってたなー。一緒に帰ろって誘ってくるくせに放課後になっても全然来ないでさー」
「そうだっけ?」
「グランドでさー、楽しそうにクラスの子たちとサッカーとかしちゃってさー。俺は窓からこっそりさーそれをひとりで眺めてさー」
あれ?これは墓穴を掘ったか?
さっきまでニコニコ遠い目をしてた君は真顔になり、唇はとんがって。
俺は思わずニヤニヤ笑い。
「…なんだよ」
「いや、それで俺が教室行くとさ、まさにその顔してお前俺を待ってたなって。その顔が結構好きだった」
「…過去形?」
「バカ言うな」
今もだよ。
▼放課後
君は夜、カーテンを閉めたがる。
「高層マンションじゃん。気にすんなよ」
「やーなの。だって夜は…」
「夜は?」
「…おれらだけが良いから」
夜さえも邪魔者だって? お前ホントに…
「俺のこと好きすぎるな」
うるさいなー!!
君は照れまくって顔を真っ赤にして、そんな君を俺はケラケラ笑いながら抱きしめて。
わかったよ、朝までこうしていよう?
そして朝になったらさ、カーテンを音を立てて思いっきり開けて、そしてベランダでコーヒーを飲もう。君が俺のためだけに淹れてくれたコーヒーを。
それまで幕開けはお預け。
▼カーテン
君は泣かない。泣かないと思われていた。どんなに辛くても泣いた顔を見せたことなかったから。
だけど俺は知ってた。君が誰にも見られないところでひとりぼろぼろに泣いていたこと。いつからかその肩を慰める役を、俺に任せてくれるようになったこと。
「バーカ。お互い様だろ」
ぐずぐず鼻を啜りながら俺の隣で泣き顔を見せる君が言う。
「お前が泣く時は俺がいつも隣にいるんだから」
「…まぁそう」
涙の理由が別でも同じでも、涙を見せる時俺たちは互いの存在を必要としている。
まさに、病める時も健やかなる時も、だな…
▼涙の理由
なんでそんな話になったか覚えてないが、君と腕相撲することになった。
君はにやにやしながら腕をぶんぶん振り回して、秒で倒すぞぉなんて言っちゃって楽しそう。
「お手柔らかに」
俺は肩をすくめて怪我しないように祈りつつ手首を回す。
そう…可愛いものきれいなものが好きな君は、実は格闘技や身体を鍛えることなんかも大好きで、ほぼ毎日楽器を弾いてもいることもあってはっきり言って俺より力は強い。
だから正直腕相撲なんて君が勝つこと間違いなしなわけなんだが、いやマジでなんでやろうってことになったんだっけ。
テーブルに肘をついて、君と鼻がくっつくほど顔を寄せて、手を合わせる。
ぎゅーと力を込めて握り合って、さて勝負。
…さっき君の方が力が強いって言ったけど、でもこの腕相撲は俺が勝ちそうだな。
手を握るくらいで顔を赤くする君にはね。
(腕相撲やろうと言った時点でそれに気づかない可愛い君)
▼力を込めて