S.Arendt

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11/10/2024, 3:09:11 PM

ゆらり、目の前を歩く人物の髪を見ながらついて歩く

 “ねぇ、君はどうしてそんなに髪を伸ばしてるの?
 三つ編みまでして、重そうに見えるけれど?”

僕の質問に金の穂を揺らしてその人は振り返り、
淡い栗色の瞳で目を合わせて答える

「これは願いですよ。私の民が幸せでありますように、
 その幸せを私が守れますように、という。
 確かに重たくって肩が凝ったりもしますが、
 それが私の責任を実感させてくれる枷でもあるんです。」

民の命を言葉一つで生かし、殺せてしまう人は優しく…されど凛とした佇まいで覚悟を語った



それはなんとも輝かしいものに見えるが同時に重圧がのしかかり、常に民の命を手に握る存在でもある

そんな重圧でも挫けず民草を生かし、王侯貴族を率い国を護るため懸命に働いている彼は良い王だろう

“君はえらいね。そうやって願掛けのように覚悟の根を貼っ
 て自分を奮い立たせるものにしてるんだ。”

「グランローヴァ様にそう仰っていただくと、なんともむず
 がゆく嬉しいものですね。日々の努力が報われているよう
 な心地です。」

くしゃりと照れ笑いをしながら嬉しそうにする彼が足を止める

ふわん

一挙一動で金の穂が揺れるその様が綺麗だと目で追っていたら、顔を覗き込まれた
でかいからって目を合わせるために腰を曲げるたぁ、家臣が見たら卒倒もんだなぁ

「貴方様は、かつてこの地に降りた際に私と似たような髪型
 をしていたと絵物語で見ました。
 髪を切ってしまわれた理由がおありなのでしょうか?」

“...別に、僕は初めから誰かを護るためにいたわけではないも
 の。ただ……ただ、僕の髪に込められていった願いや想
 い、呪いで救えるものがあったから使っただけ。”

魔法使いの髪には魔力が宿ると誰かが言っていた

それに倣って髪を伸ばして我が王を助けたいと思っていた

そんな王の治めた世界が滅びたから使い道を失い、偶然困っていた人間たちのために使っただけだ

「…実は、貴方様の絵物語を見て、髪を伸ばし始めたので
 す。この世界を救った方と同じような髪型をすれば勇気が
 湧くと思って……実際にお会いできて、お話を聞くことが
 できて、更に力をもらったように思えます。
 ありがとうございます、アーレント様。」

“いいよ、そんな礼は。君の努力で、君の力だ。
 自分自身を誇ると良い。それにこの世界を救った訳じゃな 
 い。光をなくし、泣いていたものに杖を与えただけ。
 それで皆が勝手に歩きだしただけなんだよ。”

建国記とはいつも大げさに描かれているな
大層なことはしていないのに勝手に英雄のようにされてしまう
人間の努力を上位存在のおかげと記す、もったいない
僕ががんばったんだよ!なんて胸を張って描いていいだろうに…

“まあ、とにもかくにも!
 僕は君を、君の愛する民を祝福しよう。これからも自分達  
 の足で歩けるように、光があるようにと”
 
“Eanul nemul ”

最近のお気に入りの魔法の言葉に合わせて祝福を注ぐ

この世界の金の穂を持つ王よ
その金の光を絶やさずに
民達を照らし続けておくれ

玉座の前で僕に跪く彼の額に口付けをした

とある秋の話




ここで書いた物語達に、挿絵を描いていきたい
ちょっとずつ描いていつか物語と合わせてアップしたいな

11/9/2024, 3:50:51 PM

月を見た時、思い浮かぶのはムーンストーンの指輪をつけた
月に恋をしている彼だ。

うっとりと恋焦がれる瞳で月を見つめ、口説き、
夜の時間を楽しそうに過ごす。
そんな彼の隣を温かな飲み物を用意して過ごす旅の時間が好きだった。

今の彼は猫のように気まぐれに無邪気に見えて、以前と変わらず月を口説く。
そんな彼を見て、脳裏に浮かぶ以前の落ち着きを纏った人。

彼との旅を終えて100年と少しした再会の時は変わりように驚いたが、核心は変わらずにいる姿にほんのり安堵する。

「外は冷えるよ。ブランケットとホットココアを持ってきたから、彼女を心配させないためにも暖まってくれ。」

言う通りにしてもらうために言い回しを考えて、用意したものを手渡す。その後は彼等の逢瀬を邪魔しないよう、食堂に戻り様子を見るだけ。

この世界では忌み嫌われる月。
されど彼は愛を囁き、僕は他の世界と等しく美しいと思う。
月がこの世界を滅ぼす時、魔法使いとしてここにいる僕は何ができるだろう…なんて考えながらあまりもので作ったウイスキー入りココアを飲む。

“ Eanul nemul ”
イーヌル ネムル

彼等への祝福を込めて魔法を唱える
どうか美しい光が 幸せへと向かえますように

11/9/2024, 5:27:04 AM

花を咲かせた

作物も育てた

動物も、残っているものを育ててみた

育った木を使って小屋も建ててみた

「    」

名前を呼ぶ

仕えている王の名を

ただ

ただ虚しく声が響く

滅んでしまったこの世界で影は一つ

アーレントが為すことは全て意味がない

王もとうに民を救うため自身を代償にし、いない

もう誰もいない世界で一つ一つ遺体を埋葬して

彼らが寂しくないように花を咲かせる

アーレントはただ一人 空間を開き世界を移動する

足跡は一人分 ずっとずっと 続いていく

11/8/2024, 6:31:31 AM

かららん…
扉が開いてベルが客人の来訪を報せる。

ここはHeart Of Rover(ハートオブローヴァ),
魔法使いの青年が営むカフェだ。

「こんにちは、アーレント。いつものコーヒーにミルクと…シュガーを入れてくれるかな。」

きらりと光を反射する錦糸のような柔らかい髪をした店主に注文を伝える。

「ああ、こんにちは。今日は珍しい注文だね。」

いつもと違う注文に気付いてくれた彼の瞳はしっかりと私を捉える。それは冬の早朝の朝焼けみたいな美しい空色だ。
薄く紫や青のかかった銀髪は瞳と同じように儚げに輝く。


支払いを済ませてドリンクが出来上がるまでが、私の一番楽しみにしていた時間だ。
何気ない日常で起きたことの会話、彼の持つ知識を聞いてみたり…
話している間に彼のまつ毛が長いことに気を向けたり…

もう分かるかもしれないけれど、私は彼に恋をしている。


人間の私と魔法使いの彼。
どうしたって同じ時を生きることができない人。
この心を自覚した時には隣に立てないことを理解して、少しでも私の人生に彼を残したいと考えた。

だから、週に3・4回もコーヒーを買いに来てしまう。
愛しくて美しい彼と少しでも長く過ごしたくて、休日にも足を運びケーキを食べながら彼を見つめている。

きっと彼も私の心に気づいてる。それでも何も言わないのは、人生の短い小娘への心配りなのかもしれない。
私はそれに甘えて、ほろ苦くあまいコーヒーを飲む。

「いつもありがとうね、“ ”ちゃん。
疲れた日はいつでもおいで、ケーキも用意して待ってるから。」


……どこまでも…どこまでも優しい魔法使い。
魔法なんて使わずに私を宙へと舞い上がらせる。
私を見て、名前を呼んで、優しい言葉を私にくれる。



それでも私は貴方の横に立てない。
貴方を置いて行った人間の話を聞いたから。
それがいつも嬉しそうに語る過去だから。
この世界でない、別の場所で貴方が世界で一番愛した人。

寿命だけじゃない。
貴方が愛した人に並ぶことなんて私はできないの。

悔しい
寂しい
恋しい

狂おしい…


愛してるものを語る貴方が好き。
他の魔法使いと無邪気に話す貴方が好き。
人間たちと話す時、人に合わせて声色や表情を変える、気配りを忘れない貴方が好き。
懲りもせず店に足を運んだ私を見て、目尻を下げて優しく微笑んでくれる貴方が好き。


本当に好きなの。



でも貴方が持つ、愛の前では些細なことね。
とっても大事に持っている貴方の愛を崩すことは、私の好きな貴方を崩すのと変わりないものね。

しわしわのおばあちゃんになっても、変わらず美しい貴方を見たいわ。
杖をついてでも通ってやるんだから。
貴方のことを愛する物好きな人間がいるってこと、しぬまで教えてあげるんだから!


だから貴方の中の、短い時間を少し…
私に分けてちょうだいね、魔法使いさん。

                ーとある人間の日記より


あなたとわたし
魔法使いと人間

11/6/2024, 2:06:50 PM

顔が曇っていた

暖かな暖炉のはぜる音とカチャ、カチャと虚しく響くガラスの音

僕の執事は言った
「昔の仲間と飲む約束をしていたワインボトルを不注意で割ってしまった」と

よく晴れた星空を背に彼からはぽたぽたと雨が降る

拭ってあげられたならいいのに、それができない
僕の前で気丈に振る舞う人に出来ることは微笑んでそばにいることだけだから

僕の大事な人、温もりを分つ人
貴方から降る雨をいつか止ませることが出来ればいいのに

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