S.Arendt

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月を見た時、思い浮かぶのはムーンストーンの指輪をつけた
月に恋をしている彼だ。

うっとりと恋焦がれる瞳で月を見つめ、口説き、
夜の時間を楽しそうに過ごす。
そんな彼の隣を温かな飲み物を用意して過ごす旅の時間が好きだった。

今の彼は猫のように気まぐれに無邪気に見えて、以前と変わらず月を口説く。
そんな彼を見て、脳裏に浮かぶ以前の落ち着きを纏った人。

彼との旅を終えて100年と少しした再会の時は変わりように驚いたが、核心は変わらずにいる姿にほんのり安堵する。

「外は冷えるよ。ブランケットとホットココアを持ってきたから、彼女を心配させないためにも暖まってくれ。」

言う通りにしてもらうために言い回しを考えて、用意したものを手渡す。その後は彼等の逢瀬を邪魔しないよう、食堂に戻り様子を見るだけ。

この世界では忌み嫌われる月。
されど彼は愛を囁き、僕は他の世界と等しく美しいと思う。
月がこの世界を滅ぼす時、魔法使いとしてここにいる僕は何ができるだろう…なんて考えながらあまりもので作ったウイスキー入りココアを飲む。

“ Eanul nemul ”
イーヌル ネムル

彼等への祝福を込めて魔法を唱える
どうか美しい光が 幸せへと向かえますように

11/9/2024, 3:50:51 PM