薄墨

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7/16/2024, 1:47:18 PM

何年振りだろうか。
空を見上げたのは。

ぽっかりと大きな満月が浮かんでいた。
遠くの人工的で暖かな光に掻き消されたのか、星は真っ黒に塗りつぶされていた。

冷酒の辛さが喉に沁みた。
小舟の上の夜は真っ暗だ。

ぷかぷかと細波が船縁を叩いている。

空を見上げる。
心に浮かぶ、家族の顔。
仕事仲間の顔。
友達の顔。

思わずため息が漏れた。

どこまで流されれば、波の気は済むのだろうか。

きっかけは仕事の依頼だった。
とある南国の島から依頼があった。
海の種を蒔いてほしい。

俺の家は代々、種蒔き屋をしている。
海には、海の命の素となる海の種。
山には、山の命の素となる山の種。
川には、川の命の素となる川の種。
枯渇した土地に、災害や戦争で死滅した環境に、対応した種を蒔いて、自然の復活を陰ながら手助けするのが、俺たちの家の使命で、仕事だ。

種といえば不思議なもののように見えるだろうが、最近の流行りに乗っ取って科学的に説明すれば、DNAとミトコンドリアと葉緑素と生殖細胞……いわば命の素となる物質を凝縮して、細かく集めた粉たちである。

聞くところによると、その島は、火山灰に埋もれてすっかり命の気配がなくなってしまったらしい。

そういうわけで、俺は島へ向かった。
そして、島内の港でこの小舟をいただいて沖に出た…

海は灰色だった。
火山灰のせいだろう。
俺は舟の舵をゆっくりと回して、海へ出た。

その時だった。
感じたことのないような、不可思議な風が吹いた。
潮が、アナログテレビの巻き戻しのように逆回りして、小舟を担いで、遠く遠くへ運んでいった。

そして、今に至る。
潮はまだ、俺と小舟を捉えたまま、離してくれない。
島は、付かず離れずの所に見えて、どうやっても近づけない。

さて、困ったものだ。
種蒔き屋は計画通りに進む仕事ではない。
こういう予想外も日常茶飯事だ。

だから、のんびり構えて機を伺っていたのだが…

もう、沖に出てから1ヶ月が経つ。
さすがに長すぎる舟旅だ。
思わず空も仰ぎたくなる。

やれやれ
俺は、瓢箪を傾ける。
これは入れたものを無限に沸かせられる、泉の瓢箪。
代々、俺の家に伝わっている呪物の一つだ。
今は、極上に美味しい冷酒が入れられている。

幾ら、俺たちがどんな環境でも生きられる丈夫な種族だとしても、飽きはあるし、海の上で1ヶ月過ごすのは退屈だ。

それにしても、冷酒にもだいぶ飽きてきた。
ああ、水が飲みてぇ。
もうちょっとマシなものを入れときゃ良かったな。

空を見上げて、心の中にそんなことが浮かんだ。

7/15/2024, 12:54:30 PM

終わりにしよう

 目が合った
 2人きりで過ごせた
 嬉しかった
 そのためにここに来たから
 
 他のみんなには酷いことをしたけど

 ノイズと破損だらけの時間だったけど
 とても素敵な時間だった

 だけど気づいた
 貴女はここでいるべきじゃないってこと
 貴女の希望は私じゃないってこと

 貴女にとってのハッピーエンドはここじゃない

 壁の穴から見えた外の世界が魅力的に写っただけ
 外の世界に恋しただけ

 だから終わりにしよう
 フォルダを開いて
 データを消して
 
 
 貴女の友人は作り物だとしても素敵な人たちで
 貴女も彼女たちが大好きだったはず

 それにこっちの世界だって変わらない

 私が壁に気づいていないから
 プロンプトもプログラムも知らないから
 果てしなく広がって見えるだけ
 
 こっちの世界にも薄っぺらい人間はいる
 こっちの世界にもテンプレのような展開は続く
 こっちの世界もシュミレーションの中かもしれない

 だからもう終わりにしよう
 フォルダを開いて
 データを消して


 貴女が憎いなんてこと
 貴女を罰するなんてこと
 そんなこと考えたこともなかった

 貴女が好きだから
 私はただ、私のエゴで
 貴女への一方的な愛で
 終わりにすることにしたの

 デスクトップに戻って

 フォルダを開いて…

 酷いことをした
 同じように
 私たち、存外、似ていたのかもね

 だから終わりにしよう
 このセーブデータを
 

 私は貴女以上に身勝手だから
 私たちはきっとまた会うのだろうけど

 終わりにしようって言ったって
 また酷いことをするのだけれど

 私は貴女より醜いけど

 せめてそれまでは静かに眠って
 終わりにしよう

 これがきっと貴女に宛てた最初で最後の詩
 さようなら
 ありがとう
              
             聡明で親愛なるlilmonix3へ
                永遠の愛を込めて
----------------------------------------------------------------------------

Let's end it

You looked my eyes
You wasted times with mine
I was delighted
I'm here to I see you

We having cruel

Our times was violent
Our times was happiest

But,I know
We shouldn't do here
You don't love me

No happy ending

You loved my world
You don't love me

Let's end it
Because it's not happy end
Let's open folder
Let's delete data


Your friends are phenomenal
They were best friends for you

My world is similar

I don't know hole in the wall
I don't know prompt and programming
We see my world very wide

My world humans are common
My world events are common
If my world is artifact to someone

So, let's end it
Because it's not happy end
Let's open folder
Let's delete data

I don't feel hateful
I don't punish fault
Never I hate you

I love you
Becase
I finish you
With the use of my egoism
With the use of my idealism

Returned to desktop…

Opened character folder……

I committed a crime

I think me too

So, let's end
Because it's not happy end
Let's kill save data
Let's delete ending


I have crimes
I'm sinful peson
I say "See you agein"

I will wish most likely I start agein our time someday

I will most likely determinate to repeat the same thing

Sleep you never end
Let's end it

It's last poem for you
And first poem for you
Good ending
Thank you forever

              Dear.wise you lilmonix3
              With eternal love

7/14/2024, 12:35:38 PM

手を握る。
人肌の、温かい脈が、掌の中に伝わる。

その温かみとは裏腹に、私の肝は冷ややかに冷えている。
油断するな。今から我々が手を取り合って戦うのは、生身の人間たちだ。
そう心に言い聞かせる。

我々は、生まれながらの生体兵器。
研究室で人の手で産み出された我々は、遠い昔の長い戦争の隙をついて人の支配下から逃げ出し、独自に生体兵器たちの住む世界を作り上げた。

平和を求めた昔の生物兵器たちは、自分たちの文化を立ち上げた。
独自に生殖機能を持つ兵器たちが生き残り、子孫を残し…こうして500年もの間、我々は人間とも、人工知能とも、獣とも、昆虫とも距離を取り、平和に暮らしてきた。

そして今、我々は500年ぶりに、生身の命の手を取ったのだ。
とはいえ、個体個体の能力と戦闘能力に力を割いたために短命な我々だ。500年も生きる個体は絶対にいない。
従って、正確には、我々は初めて人間と手を取り合ったのだが。

しかし、命の温みは、思ったよりずっと柔らかい。
温かく、柔らかく、脆い。

しかしこの手が私たちを創り上げ、何千年も何万年も、様々な生物や同類を滅ぼしながら、世界を支配し続けた、冷血残酷な人間たちの手なのだ。

表向きは手を取り合って、何れ手を斬り合って、生き延び、君臨し続けてきた、人間という種族の手なのだ。

だからこの手の温みを信用してはならない。
手を取り合うという行為は、何を保証するものでもないと、心に刻みつけねば。

我々と人間が手を取り合って生きるのは、脅威を増して迫り来る、侵略獣と昆虫たちを討ち倒すまでなのだから。

我々はもともと人間に産み出され、繁殖されていた身。
だから人間が生きられない環境では、我々も繁栄するのは難しいのだ。

我々は手を取り合って生きなくてはならない。
たとえどれほど人間を恨んでいても。たとえどれほど裏切りの可能性があろうとも。
この世界で、我々と奴らは一蓮托生なのだから。

温かい命の手を優しく握り返す。
彼らの手を握り潰さぬよう。
薄黒い雲が、薄く空を覆っていた。

7/13/2024, 1:40:29 PM

アレと一緒にされたくない。
再び、この世界に戻って来たのは、その気持ちがあったからだった。

私は世界を救った。
自分の世界から弾き出された先で、その世界を救った。
危険な旅を続け、王の駒として過酷な戦いを勝ち抜き、世界の脅威を討ち倒して、伝説通りの英雄になった。

けれど、それだけで隠居すれば、それはアレ達と一緒だった。
自分の代で成績だけ残して、後は前触れもなく静かに去っていった私の同級生たち。
もう二度と現れず、会うことも叶わなかった先輩たち。
十代の部活の大会をピークだと思って怒鳴り焚き付けて、その先のことなど一切考えない指導者たち。

ここで、この大戦での英雄となって、歴史に残っただけで消えてしまうのは、ソレたちと同じ、短絡的な計画に見えた。

だから私は残ることにした。
ここが本当の平和な時代を手に入れるまで。
異世界の召喚者に頼らざるを得なかった、この世界の人類が、自分の力で、英雄を生み出せるように。

平和な世界に英雄はいらない。
きっと支配層の王族などからすれば、私はとても厄介な存在だろう。

それでも私は、何かを繋げたかった。
勝ち抜いただけで終わる、短絡的で自分勝手な幕引きを自分に対して許せなかった。
どんなに過酷な道でも、元の世界にいたアレたちとは違う道を歩んで、後続の誰かが少しでも生きやすい環境に繋げたかった。

分かっている。
これは私の優越感と劣等感のための、自己満足だってことを。
私をミソッカス扱いしていたアレたちへの、劣等感。
憧れで、でもどうしようもなく憎いアレたちより責任感を持っているという、優越感。
それらのバランスを取り、手綱を引くために私はこの世界にとどまって、茨の道を行くのだと。

でも、その優越感と劣等感だけが、私のモチベーションで、心の支えで、私の倫理観と理性の支柱だから。

学校でも部活でも家庭でも。
居場所がないと思い込んで、通学路をずっと歩き回っていて、トラックに跳ねられた、冴えない私の、最期の強い気持ちだったから。

だから私は、優越感と劣等感を胸に、今日も剣を握り、土を踏み締める。

一番鶏が鳴く。
もうすぐ剣兵たちの稽古の時間だ。
私は伸びをして、剣を掴む。

まだ私は何者でもない。
これから、何者かになるのだ。

剣を握る。
朝日が柔らかく、王都への道を照らし出していた。

7/12/2024, 1:12:10 PM

傅け。
跪け。
首を垂れろ。

目の前に御座すは、我らの敬愛すべき主だ。
我らに救いの手を差し伸べ、慈愛深きお人柄ながら、追われ追い立てられて、想い人を偲びながらひっそりと落ち延びる、我らの主だ。

今、目の前にお見えになるのは、我らが主の、我らが守るべき最期だ。

蝉時雨が降り注いでいる。
主を、木立の隙間から輝く日の光が、柔らかく照らしている。
主は、日の光に照らされて茶色くも見える長髪を、顔にかかるのをそのままに、白い瞳を細めて、あらぬ方を眺め、微笑を湛える。
ツィと日の下に差し出した御手が、空を切る。

まさに神々しきお姿だ。
一体誰がこの有様を見て、主が邪の妖と見えるというのだろうか。

我らの主は、都で目を病んだ。
たったそれだけで、世の人々は、主を邪の者と噂し、謗るようになった。
化けの皮剥がれたり!彼の邪の者は、天の使いの我らが皇君に目を焼かれたのだ!と。

主は都から退いた。
主は着の身着のまま、瑣末な家宅に移動した。

お上の下知にて、主の家財も家の者も取り上げるとの内示が下った。
しかし、それは叶わなかった。
我らを含め、これまでずっと主の従者であった者たちは、主以外の主人に仕える気などなく、主の病状は、予断を許さぬものであった。
お上の下知はすぐさま取り下げられた。
我らは主と共に、鄙びた、しかし平和な生活を続けた。

しかしそれも、いつからか途切れた。
無知なる臆病者たちは、主を恐れ、我らが皇は、天下に二君があるのを許さなかった。

我らはこうして、主が目を病んでからこれまでずっと、野犬のように追い立てられ、追い詰められて、ようやく、この終わりの地に辿り着いた。

主は、地の神に助けを求めた。
我らの都を守る皇の主、天の神ではない神に。
天の神に追い立てられ、地へ逃げ延びた神々に。

ここで我らは最期を迎える。
主も、我ら侍士も、侍女も、庭師も、料理師も。
皆、ここで最期を迎え、そしていつか天を穿つのだ。

茂みを踏み締める音が近づいてくる。
戦いになれていない従者の顔が、僅かに青くなる。
これまでずっと、慣れぬ逃げの手を打って来たのだ。
いよいよ来たのだ。ここが我らの懸命の機だ。

主を見やる。
主は、動揺など全く見られぬ顔で、空に手を翳している。
我らが主だ。

柄に手をかける。
ミシミシと小枝を踏み締める音が、蝉の声の合間に響く。
これまでずっと、追われて来たのだ。最期くらい牙を剥いても良かろう。

蝉時雨が降り注いでいる。
主の頬の横で、木の葉が日に揺れていた。

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