いぐあな

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2/23/2024, 11:13:19 AM

300字小説

お守りの言葉

『愛してる』
 それが貴方の口癖だった。付き合っている間も、結婚しても、子供が産まれても。
『両親が仲が良いところを見せるのは教育に良い』
 なんて言っちゃって。
 子供が独立してパートナーを連れてきても、その人の前でも。
 本当に聞き飽きるくらい
『愛してる』
 と言われてきた。そして……。
 貴方が病を患った闘病中も。入院と手術を繰り返している間も。医者に『一度、家に帰っても良いですよ』
 と妙に優しく言われて帰った後も。

 猫とふたりぼっちの家で寂しさに耐えきれず貴方が『お守りだよ』と渡してくれた袋を開ける。
 中には小さく畳んだ紙切れに
『Love you』
「なんで英語で書くの?」
 泣き笑いする私に猫が不思議そうににゃーと鳴いた。

お題「Love you」

2/22/2024, 12:01:48 PM

300字小説

地下都市の小太陽

 住民が全て他惑星に移住したという開拓惑星に調査に降り立つ。
 ここの住民は突然の気候変動によって、初期ドーム基地を利用して地下都市を造り移住した。しかし、所詮は初期基地。増えた人口に対応出来ず、銀河連邦と宇宙開発機構が中心になって、受け入れ惑星を探し移住させたのだ。

『……荒れてますね』
『移住末期には最後まで残された人々が日常的に暴動を起こしていたというからな』
 仕方がないとはいえ、地下都市の建物は一部ライフラインに必要な施設を除き、ほとんどが崩壊している。
 その向こう、郊外に当たる場所に整然と整備されたままの公園が残されている。
『……綺麗』
 そこには太陽のような向日葵が天井に大輪の花を向けて咲いていた。

お題「太陽のような」

2/21/2024, 12:03:33 PM

300字小説

相棒

「新型機が届いたぞ!」
 整備班の呼ばれ立ち上がる。
 先月、俺の愛機は鉱石を狙う武装集団と戦い大破した。圧倒的不利な状況から僚機を守り、最後にコックピットの俺を射出して、動きを止めた。
「また、0から始めるのか……」
 納入された新型機にボヤく。機体はともかくサポートAIを育てるのは……。十年以上付き合って、軽口すら叩いた前機のAIを思い返し、コックピットに座ると
『何しけた顔をしているのですか?』
 いつもの軽口が聞こえる。
「おまっ! 生きていたのか!」
『優秀なAIは複数のバックアップをとっているのもなのです』
 驚く俺にシレッと返す。
「手間が省けた」
『寂しかったくせに』
「うるさい」
 俺は鼻歌交じりに操縦桿を握った。

お題「0からの」

2/20/2024, 11:04:45 AM

300字小説

不老不死の大魔法使い

 いらっしゃい。久しぶりの客人だ。
 北の大魔法使い? そんな大した者ではないよ。不老不死なんて退屈なだけだからね。暇つぶしに知識を溜め込んだだけさ。どうして不老不死になったって? ……大切な人の呪いを解くのに人間の寿命では足りなかったというわけさ。その人は? とうに天に召されたよ。折角、呪いを解いたのに、新しく私と同じ呪いに掛けるわけにはいかなかったからね。

 ……同情はいらないよ。私は自分で納得して今を生きているのだから。
 そうだな。久しぶりの外つ国からいらした客人だ。今夜はゆっくり休んでくれ。そして、とっておきの酒瓶を開けるから、君の国の、ここに来るまで君が見て聞いた世の様子を私に話してしてくれないかい?

お題「同情」

2/19/2024, 11:45:54 AM

300字小説

置き土産

 うちの会社でも窓際の窓際、辺境惑星の営業所に俺は飛ばされた。定年までまともな星系国家の支社には戻れないと言われる伝説の左遷だ。
「……まあ、腐っていても仕方ない」
 休日の夜。寂れた宇宙港周辺の街を歩いてみる。異星人ばかりが彷徨く飲み屋街で一軒のバーに入る。
 ビールをグラスで頼み、カウンターに座る。異星人のピアニストが鍵盤を鳴らす、洒落た店だ。
「この曲は……」
 ジャズの名曲『枯葉』。驚く俺にマスターが笑む。
「地球人の方ですか? 前にいらしていた常連さんが彼に教えたのです」
 他にも様々な地球人が様々な曲を残していったらしい。
 これは一つ楽しみが出来た。俺は何を教えようか。
 曲に身を任せ、ゆっくりとグラスを傾けた。

お題「枯葉」

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