300字小説
神様のおふるまい
冬休みの晦日の日。村の裏山にあるお社の煤払いに行く。石段をを登りながら、俺達はワクワクしていた。
「何が起きるのかな?」
掃除していた子供の数が一人多くなる等、いつも、この煤払いは不思議な事が起きると言う。皆で蜘蛛の巣を払い、縁を拭き、ドキドキしながら手を動かしているうちに社の掃除は、あっという間に終わってしまう。
「綺麗になったなぁ」
世話役のおじさんが目を細めて、焼き芋をくれた。
何も起こらなかった。ガッカリして石段を降りて戻ると、おじさんが
「ぜんざいが出来ているから食ってけ」
家に誘ってくれる。
「おじさん、さっき焼き芋くれたじゃん」
「えっ? 今年はこのとおり、俺は足を挫いたから、お社には登ってないぞ」
お題「冬休み」
300字小説
雪夜の迷子
「肩まで浸かって、しっかり暖まるのよ!」
この雪の中、雪だるまの影でびしょ濡れで
『……双子のお兄ちゃんと離れ離れになったの……』
泣いていた子どもを風呂に入れる。
着ていた白いボンボンの着いた、真っ赤なセーターを洗い、乾かす。裾が引っ掛けたのか、ほどけ掛けている。私は家にあったピンクの毛糸を出すとほつれた箇所を繕った。
翌朝、ベッドに寝かせおいたはずの子どもが消えていた。慌てて捜す私の前を、小学生の女の子が走っていく。
雪遊びか、コートに手には白いボンボンの着いた真っ赤な手ぶくろ。
「今度は無くしてはダメよ!」
お母さんの声が追い掛ける。
「はーい!」
手ぶくろの端は、ほつれたのかピンクの毛糸で繕ろわれていた。
お題「手ぶくろ」
300字小説
心変わり
世の中に変わらないものはない。
天気や四季の移ろいはもちろん、気候も、環境も変わる。
街も流行り廃りで、恐ろしいくらいのスピードで変わっていく。だから。
「俺の心変わりも仕方ないことなんだ」
彼女の写真を手に呟く。
もう視線も合わさない彼女に比べ、あの子は俺に笑い掛けてくれた
「いらっしゃいませ!」
と。
壁に貼った彼女の写真を、生活行動を書き込んだ地図ごと剥がし、丸めてゴミ袋に放り込む。
新しく真っ白な地図を貼り、撮ったあの子の写真を上に重ねていく。
「先ずは、あの子をよく知ることから始めないと」
自治体のサイトを見る。あの子の住んでいる地区のゴミ回収日は火曜日と金曜日。
俺はその愛らしい横顔にニンマリと笑った。
お題「変わらないものはない」
300字小説
サンタへのプレゼント
平日、単身赴任のサラリーマンのクリスマスの過ごし方なんて決まってる。
年始年末の休暇に間に合うように、昼休みまでずれ込んだ仕事をひとまず終え、はしゃぐ冬休みの学生達を脇目に定食屋に駆け込む。
テレビの左上の時刻を気にしつつ、運ばれてきた食事をかきこみ……。
ピロン……。スマホが鳴る。妻からの動画付きメッセージ。再生すると
『サンタさんが来たぁぁぁ!!』
起きてすぐ枕元に置かれた、俺が送ったプレゼントの包装を破り捨て、高々と欲しかったおもちゃの箱を掲げる今朝の息子の姿。
途端に生姜焼き定食が、宮廷料理もかくやという味に変わる。
次いで妻からのVサインのスタンプ。
俺も同じスタンプを送ると動画をもう一度再生した。
お題「クリスマスの過ごし方」
300字小説
声のプレゼント
イブの日、私は幾つもの舞台に立つ。目の前の幸せそうなカップルに愛の唄を高らかに歌い上げる。
夜、私は一人行きつけのバーで酒を啜る。マネージャーとしてパートナーとして支えてくれた貴方がいた頃は、炬燵で貴方の作るおでんを肴に熱燗を飲んで笑い合っていたけど。
貴方が天に召されてからは、毎年、一人になりたくなくて、朝まで飲んでいる。
カウンターに置いたスマホが震える。画面には貴方の名前。息を飲んで耳に当てると
「もしもし」
貴方の声が聞こえる。
「イブの夜にいつも寂しそうな君を気にして、ある人が電話をさせてくれたんだ」
「いつも見ている。いつも側にいるから悲しまないで」
貴方の声の向こう、澄んだ鈴の音が流れていった。
お題「イブの夜」