異世界転生
300字小説
青い空の下で
どこまでも続く青い空の下、いつかは出会えると思っていたが、こんな再会になるとは思わなかった。
彼は魔族に担がれた魔王で、俺は人々に押し付けられた勇者。彼は血を流し地に倒れ、俺の剣は赤く染まり。
彼の目尻のホクロが映る。
「もう一度、今度は普通の人間として俺達を出会わせてくれ」
「……という二人が異世界に転生して、今度は一緒に夢を目指して生きる、というストーリーはどうだ?」
漫画のストーリー担当の俺のアイデアに、作画担当の彼が露骨に顔を顰める。
「却下。異世界転生モノなら、もう少し捻れよ」
呆れた視線を送る彼の目元にはホクロが一つ。
「そうかなぁ」
窓の外を見上げる。どこまでも続く青い空に、俺はひっそりと笑った。
お題「どこまでも続く青い空」
300字小説
幽霊は幽霊なりに
まあ、一番季節感を気に掛けているのは学校にいる子よね。夏服と冬服。アレ、ちゃんと衣替えしてるの。
後はタクシーに乗る子かな? だって真冬に半袖なんて、あからさまにおかしな格好してたら警戒されて、乗せて貰えないじゃない。私達は人に関わって、認知されることで存在しているんだから、季節の演出を忘れずに、派手過ぎす、地味過ぎず、それでいて違和感が出るように、結構工夫してるのよ。
だからさ、アンタみたいなトロい子が早く私達、幽霊の仲間になろうなんて、はっきり言って無理無理。
アンタみたいな子は無理せず、周りに助けて貰って、ぼちぼちと生きているのがお似合いなの。
……だから、思い直して……もう少し生きてみなさいな。
お題「衣替え」
300字小説
迷い鳥
登山遠足の昼休憩。山の奥からぎゃあぎゃあと鳥が鳴くような声がする。
「アレには昔、口減らしにこの山に捨てられた子が声が枯れるまで親を呼んで鳥に変わった、という伝承がありましてね。あの声を聞くと迷うと言われています」
捨てられたのに怖い話をつけられるなんて可哀想。私はリュックの、のど飴を山頂の祠に供えた。
中高年登山ツアーの昼休憩。山の奥から可愛らしい鳥の鳴き声が聞こえる。
「昔は人を迷わせるなんて怖い伝承のある鳴き声だったんですけど、最近では迷い人を麓に案内してくれる、なんて言われているんですよ」
秋晴れの下、紅葉に彩られた木々の奥から鳴き声が響く。
「のど飴が聞いたのかな?」
楽しげな声に私は耳を傾けた。
お題「声が枯れるまで」
300字小説
願いの言葉
「はじめまして。君のこれからの時間が素晴らしいものでありますように」
始まりはいつもこの言葉を掛けることにしている。
家庭用ロボットの試験部門。彼らは、ここで一度起動し、確認テストを受けて、初期化され、購入家庭に届けられる。
最初の有償アップデートを受けるのは出荷された機体の半分。次のアップデート、その次とパーセンテージは下がり、機体交換してまでして使って貰えるのは、ほんのひと握りだ。
それでも。
「うちのロボットがここのメーカーので、私も彼のようなロボットが作りたいな、と」
何年かに一度、そんな新入社員がやってくる。
だから、今日も。
「はじめまして。君のこれからの時間が素晴らしいものでありますように」
お題「始まりはいつも」
300字小説
ひと目だけ
昼休みの会社員で溢れる通りを歩く。
『会いたい』と言えるほどの仲だったわけではない。ただ、ほぼ職場と家を往復する毎日で、斜め前の席に座る憧れの彼を見ることだけが楽しみだった。その彼をもう一度、ひと目だけ。
彼が向こうから歩いてくる。顔を伏せ、すれ違う。
「あれ? 花村さん、お休みですか?」
「……えっ!? ええ、やっとゆっくり出来そうなので、出掛けようかと」
「そうですか。いえ、最近、顔色があまり良くなかったですから、ちょっと気になっていたんです。ゆっくり休んで下さい」
彼が微笑んで去っていく。
「……気にしていてくれたんだ」
道路を走る救急車とすれ違う。
『ありがとう。さようなら』
花村さんの声が聞こえた気がした。
お題「すれ違い」