SF
200字
さよならの燈
「夜景を見に行こう」
そう誘われて住宅区画の向こうの、高台になっている広場に向かう。
転落防止の柵から下を見下ろせば、住人が移転し、少なくなった家の灯りがぽつりぽつりと広がっていた。
このコロニーはもうすぐ老朽化により、廃棄され、太陽に投棄される。
頭上……反対面にも虫食いのように広がる闇。
いつもは街の灯りに埋もれて見えない内壁の裏を走るインフララインの灯りが『さようなら』を告げるように静かに瞬いていた。
お題「夜景」
ファンタジー
300字小説
魔の領域
それを見つけたのは開拓団の子供達だった。出来上がったばかりの村のはずれにあった紅い花。幾重にも薄い花びらが重なった美しい花を気に入った子供達は村に持ち帰り、畑の隅に植えた。
打ち滅ぼした魔族の領域を開拓する為、向かった開拓団から連絡が途絶えた。その報告に勇者一行は開拓村を訪れた。村一面に広がる紅い花畑。その中で村人達は全員、死に絶えていた。
「これは……毒花です」
葉が根が花びらが蜜が、風に舞う花粉まで全て猛毒なのだという。
『いや違う。ここは魔族だからこそ住める土地なのだ』
魔王の最後の自分達を嘲るような言葉を思い出す。
僧侶と魔道士の唱える浄化の呪文を笑うように、風が無人の村を吹き抜けていった。
お題「花畑」
300字小説
秋祭り
秋祭りが始まる。
ノボリが立ち、スーツ姿の男衆が神社に集まる。
黄金色の田んぼの農道を
『わっしょい! わっしょい!』
スピーカーから流れる録音テープの掛け声と共に軽トラックに乗った神輿が回る。
「すっかり人も少なくなって……」
煮染めと寿司を作る女衆。それでも近隣の町から、この日の為に村に人が帰ってくる。
さあ――。
奉納舞が始まると、空がにわかに曇り、時雨が境内の人々を濡らす。
「ここの神様は寂しがり屋の感激屋だから」
今年も集まった人々の無事な顔に感極まって嬉し泣きをしているのだろうか。
泣いた空に秋の柔らかな陽の光が戻り、虹が掛かる。
舞もたけなわ。
秋風にキラキラと雫の乗った稲穂が、畦道のすすきの穂が輝いた。
お題「空が泣く」
オカルト。
300字小説。
メッセージ
今日も君からのLINEが届く。初めていく場所だ。心細いのだろう。
『今日は一日、石ころだらけの河原を歩きました(´;ω;`)』
のメッセージに
『( o≧д≦)o頑張れ!』
と返して、好きな花の写真を送る。
『優しいおばあさんに会ったよ。服を脱がしてくれた後、綺麗な着物を着せてくれたヽ(*゚∀゚*)ノ』
『良かった(*^_^*)』
『川の渡し守さん、とっても歌が上手でいっぱい歌ってくれた٩(>ω<*)و』
『いいねo(*゚▽゚*)o』
こちらで寂しかった君に向こうの人達が親切にしてくれているようだ。
『お父さんとお母さんに会えた(,,> <,,)♪』
君がいなくなって四十九日。途絶えたメッセージに僕は空に手を振った。
お題「君からのLINE」
オカルト
300字小説。
山道の幽霊
「……坊主、しっかりしろ」
力の入らない身体をがっしりと抱える腕。耳元で太い声が聞こえる。
「……無理です。目の前が真っ暗で何も見えません……」
「大丈夫だ。必ず助かる。暗いのは、その先に光があるからだ。言うだろ。夜明け前が一番暗いって」
「……そうですね。だから、今度は二人で光を……」
山肌が崩落する。あの時は彼が身をていして、動けない僕を突き飛ばしてくれた。でも今度は……。僕は彼の腰に手を回すと、一緒に走り出した。
『主人が『ただいま』と夢枕に立ってくれました』
スマホから彼の奥さんの涙声が聞こえる。三年前、崩落事故を起こした山道。僕は改めて現場に花を供えると
「ありがとうございました」
深々と頭を下げた。
お題「夜明け前」