私はもうすぐで死ぬ。現代の医療では治せない難病に 子供の頃からかかり、学校にも行けなかった。
私にとっての世界はこの無機質で白しかない病室。
窓から見える青空だけが私の心を癒やしてくれた。
でも、もうそれも終わる。意識が朦朧として少しずつ死が近づいているのが分かりひどく安心した。
だって一人はもう嫌だった。誰とも会えない、静かで私しかいない病室はうんざりだ。
巡回していた看護師の声が聞こえる。
次に生まれてくる時は健康体だったらいいな。
ああでも、最後に。
「────空、見たかったな。」
『病室』
帰ってくると彼が疲れたようにソファで座っていた。
最近、仕事が忙しかったのだろうか目に隈がある。
どうしようかと思っていると、ある考えが浮かんだ。
「ただいま、今日もお疲れ様。」
「ああ、お帰り。いやここずっと忙しくて休む暇もなくてさ。」
「じゃあ明日、晴れたらどこかあなたの好きな所へデートしに行きましょう。」
「……いいのか。君だって疲れてるんじゃ。」
「最近あなたすごく頑張ってたでしょ? ご褒美くらいないと割に合わないじゃない。」
「───ありがとう。」
嬉しそうに彼が笑う。なんだか久しぶりに明日が楽しみになってしまった。
『明日、もし晴れたら』
「お願いだから、一人にして。」
いつも、そういって彼女は人を遠ざける。
自分の身を守るように、冷たい言葉を他人に浴びせて。
けれど僕は知っている。彼女の瞳が苦しんでいることを。本当は誰かと居たいことを。だって僕は君の幼馴染みなんだから。
「また、ここにいたんだ。」
「何。一人にしてくれる。」
「素直じゃないね。本当は一人が嫌なんだろ?」
「何も知らないくせに!」
「うん、知らない。でも寂しがってるのは顔を見ればわかる。君と何年一緒にいると思ってるのさ。」
「………」
「どうして君は一人になりたがるの。」
「み、皆私を利用するの。勉強が出来るからって教えてもらおうとしてくるの。それは別にいいけど。係の仕事とか押し付けて来て。結局私なんて誰も見てくれない。だから、一人でいたい。」
涙を流しながら震えた声で彼女は言う。
「大丈夫。大丈夫だよ。僕は君のそばにいる。」
「信じていいの?」
「僕が約束破ったことなんてないだろ。それにもうずっと僕らは友達だろ。」
「かっこいいこと言っちゃって。」
どうか君に僕の覚悟が伝わりますように。
そして君がいつか一人になりたいと言わなくなりますように。笑い声を聞きながらそう思った。
『だから、一人でいたい』
美しく澄んだ瞳でいつも君は私を見る。
その瞳が硝子細工のようで私は少しだけ怖く感じる。
だけど、目を逸らすことは出来ない。
だってその美しさに私は恋をしているのだから。
ああ、また君が私を見る。
ねえその瞳に私はどんな風に映っているの?
知りたい。けれど知るのが怖い。
でもそんなことは言えずに、今日もただ君の瞳を逸らすこともできず見つめ返す。
願わくば、少しでも綺麗に君の瞳に私が映っています
ように。
『澄んだ瞳』
今日は彼女と夏祭りに来た。
射的に金魚すくいにとたくさん遊んで時が経つのを忘れて楽しんだ。
幸せそうに笑う彼女を見ていると、人でごった返すこの
お祭りも悪くないなと思う。
そして、一番のメインである打ち上げ花火を見るために
あまり人がいなく、かつ花火が見やすい場所へ彼女を
案内すると同時に打ち上げが始まった。
「ねえ、もうそろそろでお祭り終わっちゃうね。」
「ああ、そうだね。」
「なんだか毎年花火を見ると楽しいはずなのに、寂しくなるんだ。」
「なんとなく分かるよ、その気持ち。」
そう、楽しくて仕方がない時間もいつか終わりが来る。
切なくなるけれど、僕たちはその時間を思い出にして
また明日を過ごしていく。
彼女を元気づけるように明るく言った。
「────また、また来年も一緒にお祭り行けたらいいな。」
「……うん!」
最後の花火を見る。
夜空に咲く大輪はとても美しかった。
『お祭り』