「あんたなんていらない。」
初めてその言葉を親に言われた時、とても悲しかった。
そして、私は見捨てられて今を生きている。
もう、必要とされないのは嫌だ。
だったら、どんなに辛くても誰かのために尽くそうとしてやりたくないことを押し付けられても笑った。
こんな私が誰かのためになるなら、とても嬉しいから。
「そんなの、ただの自己犠牲だ。」
あなたが怒ったように言う。どうして? 私はこんなにも
幸せで満たされているのに。
「だってこのままだったら、君は壊れてしまう。
人に何もかも押し付けられて幸せな訳ない。本当に君を必要としている人間がここにいるよ。だから、もうそんなことしなくていい。」
あなたが泣きながら言う。本音が零れ出す。
本当は辛くてやめたかった。でもそんなことを言ったら
見捨てられると思った。ねえ、いいの。やめていいの。
誰かのためならばと生きなくていいの。自分のために
生きていいの。彼が頷く。涙が溢れて止まらない。私には必要としてくれる人がずっといてくれた。
「────ありがとう。」
差し伸べられた手に掴まる。その手は暖かかった。
『誰かのためならば』
外の世界を見てみたかった。
美しい青空、緑豊かな森、そして、何処までも広い海。
けれどこの鳥かごのような城にいる限り、私は自由に
見ることも叶わない。
私は、いわゆる貴族の娘で両親に外は危ないといわれてずっとここに閉じ込められている。
きっと両親は、私の事を閉じ込めて支配したいのだろう。だから、この本しかない部屋に私を入れた。
逆らうこともできず、毎日本を読んで夢想している。
本は好きだ。いろいろな世界へ私を連れて行ってくれるから。
例えば、一人の少年がハラハラする冒険をしたり、運命の相手に出会う恋物語。
なかでも私が一番好きなのが───
鳥かごの中で生きていたお姫様が幼い頃から好きだった王子様によって救けられて自由になる話だ。
まるで、自分の事のように感じて何度でも読める。
「私にも、こんな王子様が現れないかな。」
決して叶わないと分かっていても呟いてしまう。
自分の未練がましさに笑ったその時。
「なら、僕が君の王子様になろう。」
急な声に驚いて振り返ると、そこには美しい青年がこちらに手を伸ばしていた。
「あなた、誰?」
「君を自由にするための王子だよ。さあ、行こう。ここから出なければ君は一人きりだ。そんなの嫌だろう?」
「────うん!」
例えこれが夢だとしても、私は行きたい。
こんな暗い場所で生きるのはうんざりだから。
────そして、新たな物語が始まる。
『鳥かご』
友情は決して脆く、すぐに崩れることはないとずっと思っていた。あの日までは。
私には付き合っている彼がいる。私なんかじゃ釣り合わないくらいのかっこよくて素敵な人だ。
なぜ付き合えたのかというと、私の親友のおかげだ。
親友が仲を取り持ってくれたから、今こうして一緒に
いる事ができてとても幸せだった。
だけど、最近は約束をドタキャンされる日が多くなって
だんだん嫌な予感がして、後を付けてみた。
そこで見た光景を私は一生忘れられないだろう。
ホテルの前でキスをする男女。そして中へ入っていく。
キスをしていたのは彼と親友だった。
その後、どうやって帰ったのかは覚えていない。
私は信じていた。あの子との間に友情があることを。
けど、あの子の中に私との友情は存在しない。
それが分かってしまった絶望から私は泣くしかなかった。
「あぁ、ああああ!!」
友情はまやかし。それを実感しながら、叫び続けた。
『友情』
もしもタイムマシンがあったなら。
君に伝えたい事がある。あの頃、勇気を出せずに言えなかった言葉。君は僕が「それ」を言うのを待ってくれていたというのに。
もう、君は僕の隣にはいない。
君は優柔不断な僕にきっと嫌気が差したんだろう。
こんな妄想は意味がないと分かっているのだ。
だけど。それでも。僕は─────
「好き。」
この言葉を君に伝えられたなら、といつも思ってしまう。ああ、タイムマシンがあったらいいのに。
『もしもタイムマシンがあったなら』
私の名前を呼んでくれる人なんていない。
だって皆は私を無視して空気のように扱うから。
どれだけ、私が頑張ってここにいるよと訴えてもクラスメイトも家族も軽蔑するように見て去っていく。
分かっている。 私が愚図でのろまで何もできないから、名前を呼んでくれないのだ。いつも迷惑ばかりかけるから見捨てられたんだ。
でも、寂しいよ。 どれだけ気にしないようにしても辛いものは辛いんだよ。だから────
「誰か、私の名前を呼んで。ここにいていいって言ってよ。」
誰にもこの叫びが届かないと分かっていても、私はいつまでも叫び続ける。心が死んでしまうまで。
『私の名前』