私だけがみんなから置いていかれる。
最近の流行りとか、何して遊ぶとか、そんな話題を楽しそうに話す彼女たちを見ていると嫌になる。
私は何も知らない。どんな話をすれば皆が笑ってくれるのかを。だから、いない者のように扱われる。
彼女たちのように明るく可愛くなりたい。
もう、私だけが可愛くないなんて言われたくない。
だけど、簡単にはなれないから今日も私だけが仲間外れのまま日々が終わる。
『私だけ』
あなたと過ごした遠い日の記憶。
決して忘れることはできない美しいままの思い出。
たくさん笑ったり、泣いたり、喧嘩もしたよね。
だけど、最後には仲直りをして終わる。そんな風にあなたとこれからも過ごせると思ってた。
でもそんな日々が毎日続くなんて保証はない。
私が甘えてしまっていたから、終わりが来てしまった。何度後悔しても遅いのにいつだって思い出してしまう。
あなたを失った日から、私は一歩も前へ進めない。
いつまでも遠い日の記憶に逃げ込んでしまっている。
いつか前に進めるだろうか。そう思いながら私は今日も
記憶の中で淡い夢を見続ける。
『遠い日の記憶』
空を見上げると雲一つない青空だった。
それを見ると、ため息をついてしまう。恋心を抱いているあの人を思い浮かべながら。
もう何年想い続けているのだろう。近づきたいけれど、
拒否されるのが怖くていつもあと一歩が踏み出せない。
ああ、私の心はいつだって曇り空なのにこの空はいつ
見上げても晴天で情けない私を嘲笑っているように感じてならない。
いつか、私のこの心もこんな風に晴れるのだろうか。
そんなことを考えながら、私は歩き出した。
『空を見上げて心に浮かんだこと』
もう、なにもかもが嫌になっていた。
人から期待されるのも、なにもできなくて失望されて
憐憫の視線を向けられるのも。
何よりその期待に答えられない自分自身にも。
「だったら、全部終わりにしようか。」
あなたが私に向かって言う。
今まで考えたこともなかった選択肢だった。
「もし君が今ここから逃げたいって言うなら連れて行ってあげる。もう誰も追ってこれない所まで。」
差し伸べられた手を摑んだ時、とても暖かいと思った。
二人でなけなしの金を使って電車に乗り、遠くへ行く。
誰にも言う事なく、電車に乗るのは初めてでどこか楽しかった。そして、適当な場所で降りた。
「ここは?」
「海がきれいな所。さあ、行こう。」
誘われるがまま、二人で着の身着のまま浸かった。
秋だからか海の中はとても冷たく、二人でくっついていないととても動けそうにはなかった。
もう肩くらいまで浸かった時、急に抱きしめられる。
そういえば死ぬ前に聞きたかったことがあった。
「どうして、一緒に死んでくれるの?」
「君を一人で死なせたくなかった。だって一人で死ぬなんてすごく寂しいだろう? それに───」
「それに?」
「君のいない世界で生きるくらいなら、全部終わりにしたほうがいいと思ったから。」
まさか、そんなに好かれているなんて思わなくて死ぬ間際だというのに笑ってしまった。
「ありがとう。ごめんね、巻き込んで。
でも、一人じゃないのはすごく嬉しい。」
「そっか。それは良かったな。」
最後の瞬間、ようやく誰かと一緒に笑うことが出来た様な気がして嬉しかった。
意識が少しずつ寒さで遠のいていく。けれど繋いだ手は決して離さない。
お互い、温もりを感じ合うように唇を重ねながら意識を
手放した。
『終わりにしよう』
あの日、君と手を取り合って帰った帰り道。
今思い返すと懐かしさが込み上げてくる。
二人で笑い合いながら、きっとこの幸せはいつまでも続くと思っていた。でもそれは一瞬の夢だった。
もう君はここにはいない。今ここにいるのは過去を捨てられないまま大人になった僕だけだ。
あの日手を取り合えても、君が苦しんでいた時に僕は君の手を取って逃げ出すことはできなかった。
言い訳をして見捨てた。君はこんな僕を許さないだろう。何があっても一緒に助け合おうといったのに。
「ごめん、ごめんなさい。」
後悔の言葉を呟く。君はいないというのに。
今、僕の世界に手を取り合って一緒に生きようと言ってくれる人はいない。当たり前だ、だってこれは罰なんだから。そうやって、今日も僕はたった一人で生きていく。過去の夢に縋りつきながら。
『手を取り合って』