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もう、なにもかもが嫌になっていた。
人から期待されるのも、なにもできなくて失望されて
憐憫の視線を向けられるのも。
何よりその期待に答えられない自分自身にも。
「だったら、全部終わりにしようか。」
あなたが私に向かって言う。
今まで考えたこともなかった選択肢だった。
「もし君が今ここから逃げたいって言うなら連れて行ってあげる。もう誰も追ってこれない所まで。」
差し伸べられた手を摑んだ時、とても暖かいと思った。
二人でなけなしの金を使って電車に乗り、遠くへ行く。
誰にも言う事なく、電車に乗るのは初めてでどこか楽しかった。そして、適当な場所で降りた。
「ここは?」
「海がきれいな所。さあ、行こう。」
誘われるがまま、二人で着の身着のまま浸かった。
秋だからか海の中はとても冷たく、二人でくっついていないととても動けそうにはなかった。
もう肩くらいまで浸かった時、急に抱きしめられる。
そういえば死ぬ前に聞きたかったことがあった。
「どうして、一緒に死んでくれるの?」
「君を一人で死なせたくなかった。だって一人で死ぬなんてすごく寂しいだろう? それに───」
「それに?」
「君のいない世界で生きるくらいなら、全部終わりにしたほうがいいと思ったから。」
まさか、そんなに好かれているなんて思わなくて死ぬ間際だというのに笑ってしまった。
「ありがとう。ごめんね、巻き込んで。
でも、一人じゃないのはすごく嬉しい。」
「そっか。それは良かったな。」
最後の瞬間、ようやく誰かと一緒に笑うことが出来た様な気がして嬉しかった。
意識が少しずつ寒さで遠のいていく。けれど繋いだ手は決して離さない。
お互い、温もりを感じ合うように唇を重ねながら意識を
手放した。


『終わりにしよう』

7/16/2023, 8:08:08 AM