九至 さら

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10/23/2024, 3:13:03 PM

『どこまでも続く青い空』



目を細めながら、空を見上げる。

雲ひとつない晴天に、吸い込まれてしまいそうだった。

ふと、目線を下ろすと全身に鳥肌が立っていた。

波に揺られて、優雅に浮かんでいたはずが

気づけば、ずいぶん遠くまで来てしまっていた。

僕は慌てて砂浜の方に戻る。

振り返ると地平線が真っ直ぐ伸びていて、

空と海の青さの違いに気づく。

海と空に囲まれて、孤独を感じたあの体験も

直射日光に肌を焼かれている中で感じたあの寒気も

僕は忘れることが出来ないだろう。

10/21/2024, 1:55:47 PM

『声が枯れるまで』


周りの声に紛れて、口だけを動かす。
顧問に怒られたくないし、
あいつを応援してない奴になりたくないから。

たった0.1秒の差だった。
学校の練習で負けたことがあっても、
大会では全て勝っていた。
当日のコンデションだって悪くなかったのに
それなのに、なんで…。
よりによって3年最後の大会で

わかってる。最後だからたくさん練習したんだろうなってことも、少し油断してた俺も。

あいつの勝ったと分かった時の顔が忘れられない。
咄嗟に見た顧問の顔、横で喜ぶ部員達。


観客席からあいつを見るのは始めてだ。
いつも俺がいたはずのスタート位置にあいつが立つ。

途中


10/17/2024, 2:34:25 PM

『忘れたくても、忘れられない』


君のことを思い浮かべるだけで、
あの時の感情と後悔をそのまま連れてくる。

「いつか笑える日が来るよ」
なんていう慰めの言葉も、
聞かなくなって何年経つだろう。

この想いも風化するときが来るのだろうか。

出口の見えないトンネルを、
私はいつまでも歩き続けている。

10/16/2024, 1:32:24 PM

『やわらかな光』


鼻に抜けるこの香りを、私は知っている。

唯一知っている花の香り。

刺すようだったあの光は、
緩やかに変化していたみたいだ。
どことなく、
太陽が優しくなったように感じる。

いつも煩く鳴いていた蝉の音を、
私はもう思い出せない。

隣で目を擦っている君は、
瞳が潤んで、瞼が少し赤い。

季節の変わり目を、
私たちは知っているようで知らない。

10/15/2024, 10:50:28 AM

『鋭い眼差し』

佳奈ちゃん。
僕は、4年前のあの日から君が好きだ。
囚われて、見世物にされてたあの場所から、僕を連れ出してくれた。
君の、おはようと笑いかけてくれる顔が、名前を呼ぶ声が、僕は大好きなんだ。
君の幸せを誰よりも願っている。
君の泣いてる顔なんて見たくない。
涙を拭ってあげたい。
なんて、無理な話だよね。
僕は、君のことをずっと見てるよ。
君の話をずっと聞くよ。
それしか僕には出来ないから。
だから、笑って。

「おはよう〜、きょんちゃん」

良かった、昨日の顔が嘘みたいに元気な顔だ。

「昨日も、話聞いてくれてありがとね。」
「私、切り替えて頑張るよ。」

そうやって今日も、僕のために餌を入れてくれる。
ガラス越しの君が少しぼやけて見える。

「いっぱい食べてね〜、きょんちゃん。」

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