『どうすればいいの?』
私は分からないのでございます。なんのために生きているのでしょう、わたしたちは、どうして生きているのでしょうか。このことを考えているだけで、体内をミミズが這いずり回るような気分になるのです。私たちではなく、私の間違いでしたかもしれません。目に映る人達は、それはもう酷く輝いておられて、湯を沸かすほどの時間も見ることが出来ないのであります。哀れで可愛らしい私をどうかお救いくださいませ。
『冬になったら』
同じポケットに手を入れて
枯れた落ち葉のうえを歩いて
白い息を吐きながら
君の赤くなった耳を見ていたかったのに
君は決まって言う
「ぜっっったいに、冬の方がいい季節だよ!!」
冬信者のセリフに少し戸惑いつつも、
夏信者の私も言い返す
「いや、違うね。ぜっっっったい!夏!」
言い返した時の、わかってないなぁという顔が好きだった。むしろそれを見るために、言い返してたのかもしれない。
それから君は毎回、冬のプレゼンをする。
ここがこうで〜、これが良くて〜、だんだんプレゼンの内容もまとまりが出て、分かりやすくなっている。
ひとつ変わらないところは、決して夏を貶さないところ。そんな君が好きだった。
君に出会ったのは秋で、一度目の冬は少し会話するくらいの仲だった。
二度目の冬は、お互い意識してたと思う。
クリスマスに部活があると聞かなければ、多分遊びに誘っていた。
三度目の冬は、お互い受験で大変だったからあまり連絡が出来なかった。
四度目の冬は、君の冬が好きな理由にあがってるもの全てをしようと、クリスマスマーケットにもイルミネーションにも行った。
五度目の冬は、さすがに2人でいるのにも慣れてきて、距離も大分縮まった。君の好きな物も嫌いな物も、ほとんど全部分かるようになっていた。
六度目の冬は来なかった。
来年は、冬の夜道を星を見ながら散歩しよう。
そう言った君は、蝉の声に包まれながら死んだ。
信じられないほど暑くて、身体の水分が全部蒸発するんじゃないかって気温の日だった。
あのとき私のことを優先しなくてよかったのに。
右腕を強く握りながら、今でもそう考える。
私の方に向かって一直線にトラックが突っ込んできた。
足が震えて、何も出来ない私の腕を引っ張った代わりに君はトラックの前に投げ出された。
目の前が真っ赤になって、気がついたら病院にいた。
はっきりした意識もないまま、辺りを見渡すと
君が亡くなったらしいということだけは伝わってきた。
君によく似た男性と女性が、声を上げて泣いていた。
私はそれを見ても泣けなかったし、むしろ憐れで情けなくて見てられなかった。
窓の外に笑って歩いてる人が見えた。
君がいなくても、変わらず回り続ける世界が憎い。
アクセルとブレーキを間違えたなんて言うやつが憎い。
それでも、君がいない世界で笑ってる想像ができてしまう。そんな私が憎い。
君が最後に触った腕を握る。あの時と同じ強さで、
君が強く握ったときの痕が、だんだん薄れてしまうのが耐えられなかった。
君がいた証が無くなってしまうみたいで嫌だった。
あれだけ冬が好きだと言っていた君が、暑苦しい太陽に照らされる中、蝉の合唱とともに灰になった。
私は夏も冬も嫌いになったし、トラックを見るだけで吐き気がする。
「君のおかげで不幸せな毎日だよ」
そう言ってビンタでもしてやりたい。
寒くて寂しい冬に、私をひとりぼっちにした君を、絶対に許したりなんかしない。
これが初めての喧嘩だね。
絶対仲直りしようね。
『子猫』
いつもの通学路には無いチラシが1枚
探していますの文字の下に、猫の写真が貼られていた。
『意味がないこと』
意味って意味を調べてみよう。
『柔らかい雨』
「今日も可愛いね〜」
弧を描くように、水が葉や土の上に落ちる。
毎朝の習慣にもなっている、植物達に水をあげ、コーヒーの匂いがベランダにまで届いてくる。
葉につく水滴が、光を反射して少し眩しい。
生物を飼う余裕がなく、代わりに育て始めた植物達には愛着が湧き、毎朝話しかけている。
今ではすっかり、雨降らし職人だ。
部屋に置いている、観葉植物にも水を与え、優雅にモーニングタイムとしよう。
テレビを付け、チャンネルを適当に回し、気になるニュースをやっていた番組で止める。
コーヒーを1口すすると、少し目が冴えた気がした。