九至 さら

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11/2/2025, 12:55:40 AM

『凍える朝』

愛していないと言うのなら、どうかお願いです。
私に布団なんてかけないでください。
あなたの1番になれないのなら、私に優しくしないで欲しいのです。中途半端な愛情を受け止め続けられる程に、時間も余裕も持ち合わせていないのです。あなたがいなくても、私は寒くないのです。凍える朝など来ないのです。カーテンの隙間から漏れる朝日が、私を暖めてくれるのですから。弱い女と思わないでください。

それでも、隣で眠るあなたにひとことだけ


おまえなんか、

おまえなんか私の涙に溺れて死んでしまえばいい

10/4/2025, 8:01:31 AM

『誰か』

泣く父の横で、無邪気に笑う私がいた。
「これが最後かもしれない」そう言って渡されたスマホには、祖母が映し出されていた。父のセリフの意味も理解できなかった当時の私。慣れないビデオ通話に、少し戸惑いながらも、元気に祖母と話す。名前を聞かれた。知ってるいるはずなのに。「可愛い子だね」と言ってくれた祖母の笑顔は、いつもみたいにしわしわでそんな顔が大好きだった。それでも苦しそうに言葉を紡ぐ祖母は、いつもと違っていた。祖母のむせるような仕草を何故か見ていたくなくて、私は父に代わってと頼んだ。泣いている父を見たのはこの時が初めてだったと思う。
祖母ともう二度と話せないと分かったのは、祖母が骨に変わってからだ。寝ている祖母をなぜその箱に閉じこめるのだろうと思っていた。花に囲まれた祖母は骨に変わり、両手で持てるほどの大きさになってしまった。ようやくそこで、死というものを理解した。私の事を撫でてくれることも、お菓子をこっそりくれることももうないのだ。だからあのとき父は泣いていたのだと。箱に入った祖母を前に、真っ黒な服に包まれながら、鼻をすする音が聞こえたのだと。
今になって思う。きっと最後の会話は孫の私ではなく、可愛い知らない子だったのだろう。認知症を患っていた祖母は、父のことも私のことも最後には忘れてしまったそうだ。あとから父に聞いた話だが、ビデオ通話越しに「その子にこのお菓子をあげて欲しい」と言っていたらしい。そう看護師さんが伝えてくれたのだと。そのお菓子はいつも私にくれていたものだった。誰にでも優しいおばあちゃんを私は忘れない。

10/1/2025, 7:15:21 AM

『旅は続く』

後悔していることがある。
考えない日はないくらい、ずっと胸に巣くっている。

あいつが勧めてくれた漫画はまだ読めてないし、
あいつが好きだった音楽はもう聞けない。

夏が好きだったあいつを
夏に置いていこう

振り返っても、足跡はない。

どれだけ迷っても、立ち止まったとしても
過去を過去だと認識しよう

あいつが死んでも気づけない「今」をどうか受け止めて

俯いたままでいい。
まだ前を向かなくてもいいから
やり直したいあの日々に終止符を打とう。

9/29/2025, 11:31:47 PM

『モノクロ』

白黒はっきりさせたがる君の性格は、はっきり言って嫌いだ。君にグラデーションという概念はなかったのか?この世の中には、好きと嫌いだけでは表せない関係が存在することに気づいているのか。嫌いだけど好き、好きだけど嫌い、相反する感情を人は持ち合わせている。君にもいつか分かる日が来るといいね。そのときまでわたしのことを忘れないで。私の事を「嫌い」という枠に閉じ込めたことを、どうか忘れないでいて。大好きで大嫌いだったあなたが…幸せなことを祈ってるよ。なんて嘘!一生後悔してろ!

「君はしまうまでも、パンダでもバクでもなくコアラにでもなった方がいいんじゃない?」

走り書きにも程があるメッセージを、冷蔵庫に貼り付けた。

君が読むのはいつになるだろうだろか。今週中にはきっと読まないだろうな。目玉焼きも焼けない君が冷蔵庫の前に立つそのときまで、見つかることの無い置き手紙。
ばーーーかって書いてやれば良かったかな。手紙を前に「?」を浮かべる君を見たいと思う私がいる。そんな私も情も思い出もこの空間に置いていこう。持っていくには少し重すぎる。

そろそろ君が起きてくるね。


うん、それじゃあ……さよなら。



ガチャ、    ……バタンッ

1/22/2025, 5:46:02 AM

『羅針盤』

私は海になりたい。
これが世間での言葉でいうならば、自殺なのかもしれない。部屋のベッドに寝っ転がりながらそう考えた。
右手に持ってたバケツが横に倒れて海水が流れ出す。
透明な海水が部屋の中に広がっていく。
ずっと海水は青色だと思っていた。
海水と淡水の境目を探しに行った小4の夏。
部屋の壁全面を青で塗りつぶした中1。
そして、部屋を海水で埋めつくそうとする高1の私。
成長するのはこういうものなのだろうか。
小3の頃には確かにあった、両手を塞ぐものが、確かな絶対が。
こんなに捻くれた思考をするようになったのも、それがきっかけだろう。
私には足りないものが多すぎた。周りの人が当たり前に持ってるものを、持ってなかったのではない。手に余るほどあったものを根こそぎ、腕ごと奪われてしまったようなものなのだ。愛情を際限なく分け与えてくれる親、言葉の通じる同級生、綺麗事以外の言葉をかけてくれる先生。嫌味を知らない叔母。誰か一人でもひてくれればこうなることもなかったはずだ。
そんな私を支えてくれたのは、海だった。
ろくでなしの私を包み込むような優しさ、そして、決して底を見せてはくれない不気味さ。
この二面性を持ち合わせた海に酷く惹かれてしまう。
あの日以降、さらに海への興味が湧いた。
不順な動機だったのかもしれないが、私には海が全てだった。
海の1部になれる方法をずっと探している。
┈┈┈┈┈大好きなものに大好きな人が奪われた。
絶望した。私が好きじゃなければ、きっと海には来ていない。私が殺した。私が両親を海に沈めたのだ。
ライフセーバーが駆けつけた時には、もう遅かった。私が犯人ですと、私のせいなんですと、その言葉が喉に引っかかったまま、私は震えて泣いていた。

空を欺くことは出来ないし、空だって私たちを欺けない。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈途中

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