「新年(創作)」
来年こそは、今年できなかった事をする!心の大きな人になるんだと意気込んでいたのもつかの間、仕事始めに失敗をしてしまった。
目の前に、5人くらいの男性が立っていたので、ぺこりと頭を下げて横を通った。
その瞬間、直属の上司が眉毛を吊り上げながら私の腕を掴んで数歩後ろに引っ張った。
「あなた今、素通りしたよね? 取引先の方なの!あなたの前を歩いてる人挨拶してたけど、あなたはしてなかった。私は見てたわ。挨拶してきなさい。早く!」
みんなのいる前で大きな声で、言われてしまった。言われるまま、先程通ってきた道をもどり挨拶をした。
戻ってきた時は、上司の顔が見れる、だんだんと腹が立ってきた。これは、パワハラでは無いのだろうか…。
もちろん私への教育というのは分かっているけど、私ならあんな言い方は絶対にしない。相手の自尊心が崩れてしまうような、あんな言い方は絶対にしたくない。
それでいてその後、普通に笑って話しかけてくる神経も良くんからない。どうしても腹の虫が治まらなかった。何やってても、そう言われた時の上司の、目つき、言い方が脳裏に浮かんでしまう。
「はぁ…だめだ」
自分の小ささにガッカリした。そんなことでイライラする自分が情けないとさえ思う。
こうなると負のスパイラルに陥ってしまうのが怖かったから、今年の1年の悪いものを落としてもらったと思おう…思おう…思えるか?
「はぁ…ダメだ」
そんな日は、早く寝てしまおう。
明日は、いい日になぁれ。
「1年間を振り返る」
脳内にある言葉たちを、画面に自由に流し込む。
どこに住んでいるのか、何をされているのか存じ上げないけれど、おひとりおひとりの大切な時間を使って、自分の文章を読んで頂けている瞬間に感謝しています。
拙い文章でも、大切な言葉たち。
読んでくれる人がいると言うだけで、頑張れるという事実。
どんなお話が出てくるか自分と向き合う時間が、私の大切な現実逃避でもある。そんな時間を作ってくださって、ありがとうございます。
大変なことは沢山あるけれど、皆さんの作品を通して、小さな幸せをたくさん見つけられた1年でもあり、楽しい時間を共に過ごす事が出来ました。
皆様、良いお年をお迎えください。
「みかん(創作)」
目覚ましをとめて、布団の中で背伸びをする。手を出した瞬間、ひんやりとした空気で、今日の寒さを感じ取る。
体が温かいうちに着替えて、コタツに電気を入れて再度温まる。
そういえば、実家のこたつの上には当たり前のようにみかんが置いてあったなぁ。
姉と一緒によく、みかんを食べていた…
「みかん1個とって」
姉に言われて何気なくひとつを手渡した。みかんを受け取った姉は、みかんを手の中で転がらせる。コロコロ、コロコロと。
「何してるの?」
「こうすると、みかんが甘くなるんだって」
純粋な私は、姉の真似をしてコロコロと転がした後、皮をむいて1粒口に放り込んだ。
「え!酸っぱいじゃん!!」
私が食べたみかんは、かなりの酸っぱさだった。姉は、甘いのが当たったのか、ニヤニヤしながらみかんを食べていたっけ。
【なつかしい…たまにはみかん買ってみよう】
スマホを手に取り、検索をした。
~甘いみかんの見分け方~
「てぶくろ(創作)」
落とし物の片方の手袋に動物たちが「わたしもいれて」「ぼくもいれて」と次々にやってきて手袋の中で暮らす物語…
私の小さな手袋には、どれだけの人が入るだろう。いつも人に対して壁を作って、中に入ろうとしない私は、ずっと独りだと思っている。
楽しそうに話している中に入ることは、もちろんしない。子どもの頃、母子家庭で忙しかった母を煩わせてはいけはいと我慢してきたのが、原因なんだろうか。ただの、嫉妬なんだろうか。私の知らない事をみんなは知っていて、共通の話題で笑い合える姿を見て、羨ましいと思ってるんだろうか。楽しいことがない訳では無いの。
雲がハート型に見える時も、小さな幸せを見つけたように嬉しく感じるし、信号に引っかからず歩ける時もラッキーなんて思える自分もいる。
あ、そうか…
それは、独りの世界だからなんだ。
あのてぶくろのお話の動物たちも、前に入っている動物が幸せそうだから、楽しそうだから、あったかそうだから、入りたいと思ったに違いない。
私の手袋には、誰も「わたしもいれて」なんて言ってこないだろうと確信を持って言える。
この手袋に入っている私が、まずは楽しそうにしなくてはならないのだ。誰かと一緒にいたいと求めないといけないんだ。
かなり私にとって難関ではあるけれど、できることからやってみよう。
白い息を吐きながら、ムートンの手袋をはめて、自分の頬をおさえた。
「ゆずの香り(創作)」
陶芸の道に進みたくて、大学を卒業したあと愛知県にある窯元に就職した。
陶芸家は「土こね3年、ろくろ8年」といわれるほど、技術を獲得して1人前になるまでに時間のかかる。初任給だけでは到底食べては行けなかった。
「今日の土はどんな感じ?」
ひょっこり顔を出したのは、近所に住む東さんという人だった。東さんはずっとサラリーマンをしていたけど、50歳を過ぎた頃から、どうしてもやりたかった造園業の勉強をして、一人親方で夢を叶えた人だ。夢を叶えたと言うだけで、私にとっては目標となる人だった。
東さんは、籠いっぱいの柚を持ってきてくれた。
「これ、お客さんからもらったの。良かったらもらって。腹の足しにはならないけど」
「嬉しい。いただきます!」
「いつか僕にお皿作ってよ、酒も美味しくなるような皿だぞ」
「まだまだ先だけど、約束する」
受け取った柚を1つ手に持つと、ふかふかで柔らかい。ジューシーなジャムを作るにはちょうどいい。
「お皿はまだ作れないけど、ジャム作って今度持っていくね!」
柚の皮を細かく切る度に、東さんに背中を押された気分になってくる。フレッシュな爽やかな香りに包まれて、私はまた明日へ向かっていく。