美しい(創作)
私は人の目をとても気にする。
【意外に他人は人の事を見ていないよ、だから大丈夫】なんて言葉もかけてもらったけど、私にはその言葉は通じない。
とにかく綺麗に美しくなりたい一心で、美容系YouTubeも見まくり、カフェのバイトで稼いだお金は、流行りの服や化粧につぎ込んだ。
多分見た目は、そこら辺の人よりかはイケてると思うし、見た目の自信はある。なのに、聞こえてくる噂は
『外見ばかり気にして』
『自分のことばっかりだよね』
『可愛いけど、心がないんだよね』
その噂を耳にするたび、私はますます外見だけを整えた。心の声を隠し、いつも笑顔を貼りつけた。
ある日、バイト先に目の見えない青年がアイスコーヒーを注文した。
「…お待たせしました」
「ありがとう…」
私はそのまま立ち去ろうとしたけど気になって足を止めた。
「あの、、よろしければストローさしてもよろしいですか?ここに、コーヒーがあります」
彼の手をとり、アイスコーヒーの入ったグラスを触らせ位置を確認させた。
「ありがとう…あの…大きなお世話かもですが、あなたの行動はとても優しいけど、声に苦しみを感じられる…大丈夫ですか?」
その人は言った。人の声から、「心の響き」を感じてしまうんだと。
恥ずかしさと、驚きで戸惑った。
「今仕事中なので…すみません」
そんな言葉で逃げきれたかと思っていたけど、彼は私がバイトが終わるまでずっと居続けた。
「すみません、とても気になって…これじゃあ、ストーカーですよね…」
「あ…いえ…なんか…すみません」
「なんで謝るの?」
「あーいや…なんだか…」
しばらく沈黙した空気が流れたが耐えきれず私から口を開いた。
「人に嫌われるのが怖いんです。だから、必死に外側を綺麗に誤魔化して友達を作ってる。だけど、綺麗に着飾ることばかり考えてしまって、人の話なんてどうでもいいと言うか頭に入らない…だから気がついたら本当の友達がいない…だから綺麗にして…って悪循環に疲れてます」
それがこの人に、声だけで悩んでるってわかったって言うの?
彼は静かに微笑んだ。
「誰でも美しいものは好きだと思います。だけど、その人の心がわかって助けたい、側にいたいと思うものです。本当の自分を隠して、本当の友達なんてできないかと…自分を出せば耳を傾けてくれる人が必ずいますよ」
そう言って、彼は音もなく去っていった。
次の日から、化粧もナチュラルにし、露出の多い服も控え、嬉しい時は嬉しい。悲しい時は悲しい。悩みを相談されたら、なんでも聞く。そして、自分の悩みを打ち明ける…そんな簡単ではなかったけど努力を続けた。
「なんだ…早く言ってくれたら良かったに。そんなに着飾らなくても、あなたは美しい!!」
友達は私の肩をポンポン叩いて、笑った。
私が無理している事は知っていた。だけどそれに自分で気が付かないと、何を言っても頭に入らないから、様子を見ていたと…目の前の1人も信じることが出来ず繕っていたのに、私の事を見守っててくれる人がいたことに気がついた…。
今まで感じていた周りの冷たい視線は溶けてなくなり、温かい微笑みに包まれて行った。
もしかしたら、最初からこの、微笑みはあったのかもしれない。見えてなかっただけで。誰か分からないあの青年にまた会えたらお礼を言おう。
私は鏡の中の自分に微笑みかけた。
「私、本当の意味で美しいものを見つけました」
6/11/2025, 1:00:03 AM