《My Heart》#22 2026/03/29
※『リコリス・リコイル』二次創作小説
"Heart"は心臓であり、感情であり、そして…愛情。
私の"愛情"は、千束がくれたものだ。
私のこの胸にぽっかりと空いていた空洞を、自分では認識すらしていなかった真っ暗な穴を、千束が埋めてくれた。
千束が持っていた底抜けな明るさと、人を愛するという温もりで。
私には、千束にあげられるものが、何も、無かった。
千束は、私がかろうじて持っていたもの、全てを持っていたから。
唯一……唯一、心臓だけは……
千束になら、あげても良かった。
私がこの世から消え去ることになっても。
でも、それを果たす方法は無かった。
だから。
その"心臓"があると知った時。
私は、どんな手段を用いても、どんな犠牲を払っても、例え、千束に止められても。
それを、手に入れなければならなかった。
私が、手に入れなければならなかった。
千束に、あげなければならなかった。
「たきな!もういい!」
「離して!!」
心臓が!千束の心臓が!
私の!大切な!想いが!
「心臓が!逃げる!」
千束が、死ぬのは……
私が、私自身より、大切なものを喪失するのは。
嫌だ……
《好きじゃないのに》#21 2026/03/26
※『超かぐや姫』二次創作小説
別に、なんとも、思ってなんか。
ノイズカット機能をオンにしたイヤホンを耳に突っ込み、参考書を開くために机にかじりつくその背後で、確かに何かがせわしなく動き回るその気配を肌越しに感じながら…
その存在を無視し続けようとして、失敗していることを悟って、彩葉は深いため息をついた。
あえて伏せていたスマホを手に取り、時刻を確かめる。まあ、確かめるまでもなかった。鼻腔から刺激してくる、食欲をそそる何かの匂い。夕食の時間だ。私が定めたものではないけれど。
ああ、今日は食費がいくら飛んだのだろう。
この先の遠い未来のことは分からない。けれども、この東京で一人で生きていく。誰にも文句を言わせず、完璧に。
私が築き上げてきた、その完璧が、ある日出会った異物によって、少しずつ綻びかけようとしていて。その綻びを、今までの倍の努力で繕っていく。
いつかは分からないけど、この奇妙な同居生活が終わるまで。努力して、努力して、努力して…いつまで、続くの、これ?
そんな私の心配をよそに、我が家の炊事担当(自任)が夕食を知らせる為にか、私の肩を叩いた。
その、手のひらから伝わる人肌に、私はハッとした。
あの日、確かにこの手で抱いた、赤ん坊の温もり。
この災難の始まりであるところの、いと小さき存在は、確かに何かを私に求めていた。
救い?ううん、そんなんじゃない、深い、何か。
私しかいなかった。私だけに求めていた。私だけを、求めていた。
だから、ミルクをやり、オムツを替え、あやして、寝かしつかせて。
好きとか、嫌いとかじゃない。
ただ、愛しい。そう、思ってしまって……
イヤホンを、外す。
「いーろーはー、ごーはーんー」
「はいはい、今行く。今日は、何?」
「ハンバーグ!」
「ハンバーグ?」
「そう!フレッシュラムハンバーグ」
知ってるハンバーグだと思ったら、また知らないハンバーグだった。でも、味は保証出来るはずだ。だから。
「あり、がとう……」
この狭いプライベート空間で、誰かに伝えるはずが無かった、言葉。
「どういたしまして!」
デヘヘ〜と照れ笑いをするかぐやの笑顔を見て、思う。
好きなんかじゃない。
でも……
この私をもってしても、言語化出来ない、想い。
いつか、それを伝えるべき言葉を。
理解する時が、来るのだろうか。
《ところにより雨》#20 2026/03/24
「春雨じゃ、濡れてまいろう」
「何それ?真希」
「知らん」
即レスに、樹里は目を丸くする。
「知らんって」
「こんな時にさ、おやじ殿が良く言ってたからさ」
今どき珍しい、時代劇とかが好きだったおやじ殿。
放課後、にわか雨。見上げると、桜並木。この程度の柔らかな雨なら、散ることもないかな。
「まあ、超よゆーってことじゃない」
「そか」
折りたたみを広げかけた樹里が、それをしまう。ああ、相合傘も悪く無かったけど。
「そいえば、この時期だったっけ」
樹里が手を繋いできた。
「うん」
命日。
「今度の休み、行ってくるからさ」
「うん、気にしないで」
デート日和だけどな…あ!
「樹里も一緒に行こ」
「いや、でも…」
「全然、気にしないで。おやじ殿も会いたがってるよ、きっと」
幼稚園からの友達の中で、樹里だけは妙におやじ殿と馬があって。樹里んちとは、家族ぐるみの付き合いってやつだ。
「じゃあ、お母さんに聞いてみる」
「うん、母上も喜ぶよ」
張り切ってお弁当を余分に作る姿が目に浮かんだ。
「お墓参りついでにお花見しよ」
「うん」
「あとさ…」
ニヤっと付け加えた。
「娘さんを私に下さいって、伝えてあげてよ」
樹里の手の、握る力が一瞬強くなった。
「いやいやいや」
「いや?」
樹里の横顔は、赤い。
「嫌、じゃ…ない…」
「やった!助かるよ」
「助かる?」
「うん」
こんな日でも、あの日のことを思い出すような、こんな、にわか雨の日でも。
「樹里がいてくれたら、あたし、超よゆーだから」
樹里の目が、私を見て、ニカッと微笑んでくれた。
「分かった。真希が嫌って言っても、この手は放さんから」
「うん」
いつの間にか、雨は上がっていた。
きっと、来年の今頃も、私の心は雨模様だけど。
でも、樹里がいてくれたら、平気だ。
春雨じゃ、濡れてまいろう。
《安らかな瞳》#19 2026/03/15
※『ぼっち・ざ・ろっく!』二次創作
「どうした、喜多」
「ううん、何でもないの」
「そう?おどおどした目のアイツの事考えてたんじゃないの」
そんなんじゃないったら、したり顔のさっつーにアカンベーってしながら、そう誤魔化した。
私、そんなに顔に出やすかったかしら。
実際のところ、ひとりちゃんの瞳は。
泳いでいるか、眠そうにしてるか、何かをやらかしたかのように淀んでいるか、学校だとそんな感じ。
一緒にバンドを始めてギターを教えて貰うようになってから暫く経つけど、滅多に目が合わないし、たまに目を合わせると眩しそうに逸らされる。
でも、時に真剣で、力強くて、私の心臓をギュッと掴む。
高一の秋、文化祭二日目、体育館ステージ袖。
リョウ先輩にお願いして、伊地知先輩にも付き合って貰って、いつも以上に練習して、リハーサルも完璧だった。
それでも私は、緊張していた。満員に思える体育館のフロアを見て、あのファーストライブの時とは違う身体の震えが私を襲う。
深呼吸して、発声練習して、誰かがかけてくれている声もどこか遠くて、心が闇に囚われたような、そんな感覚。
そんな時、暗闇の中、青い星が放つ眩しい輝きが目に飛び込んで来た。
ひとりちゃんの、あの澄んだ青空のような瞳。
どこか遠くを見つめている、その瞳を見つめているうちに、私の身体の震えは収まって、気持ちが穏やかになっていく。
「あ、あの、喜多さん、どうかしましたか?」
「ううん、何でもないの」
そう、何でもない。
でも、気が付けた事が一つ。
私、あなたのその瞳が、大好きなんだ。
《平穏な日常》#18 2026/03/11
今日は快晴。この時期に降った昨日の雪が嘘みたいだ。
通学途中にある、桜の木を見上げる。つぼみはまだ、それ程膨らんではいない。
3年生が去った校舎は、普段より静かだった。期末試験も終わってて、少し怠い。来年は受験で大変だけど、この瞬間は考えることを許して欲しかった。
午後の授業。英語の発音が流暢な帰国子女の先生が、手を止めて、ハッキリとした日本語でこう告げた。
「黙祷」
目をつぶる。私は直接被災した訳ではないけれども、命を繋いでくれた、多くの人のことを想った。
学校帰りは、仲良しな詠子と寄り道して、マックでソフトクリームを舐める。一緒の高校へ行こう、そう約束してる子だ。二人とも合格したら、気持ちを打ち明けるんだ。そう、決めている。
夜、家族との食事。家族でもう一度、黙祷。
普段は観ない、リビングのテレビを見つめる。今日は、勉強しなさい、とは言われなかった。
お風呂に入り、いつもの時間にベッドの中へ。
おやすみなさい。
そして、明日の朝を、何の心配もなく、好きな人達皆で迎えられることに、感謝します。