《好きじゃないのに》#21 2026/03/26
※『超かぐや姫』二次創作小説
別に、なんとも、思ってなんか。
ノイズカット機能をオンにしたイヤホンを耳に突っ込み、参考書を開くために机にかじりつくその背後で、確かに何かがせわしなく動き回るその気配を肌越しに感じながら…
その存在を無視し続けようとして、失敗していることを悟って、彩葉は深いため息をついた。
あえて伏せていたスマホを手に取り、時刻を確かめる。まあ、確かめるまでもなかった。鼻腔から刺激してくる、食欲をそそる何かの匂い。夕食の時間だ。私が定めたものではないけれど。
ああ、今日は食費がいくら飛んだのだろう。
この先の遠い未来のことは分からない。けれども、この東京で一人で生きていく。誰にも文句を言わせず、完璧に。
私が築き上げてきた、その完璧が、ある日出会った異物によって、少しずつ綻びかけようとしていて。その綻びを、今までの倍の努力で繕っていく。
いつかは分からないけど、この奇妙な同居生活が終わるまで。努力して、努力して、努力して…いつまで、続くの、これ?
そんな私の心配をよそに、我が家の炊事担当(自任)が夕食を知らせる為にか、私の肩を叩いた。
その、手のひらから伝わる人肌に、私はハッとした。
あの日、確かにこの手で抱いた、赤ん坊の温もり。
この災難の始まりであるところの、いと小さき存在は、確かに何かを私に求めていた。
救い?ううん、そんなんじゃない、深い、何か。
私しかいなかった。私だけに求めていた。私だけを、求めていた。
だから、ミルクをやり、オムツを替え、あやして、寝かしつかせて。
好きとか、嫌いとかじゃない。
ただ、愛しい。そう、思ってしまって……
イヤホンを、外す。
「いーろーはー、ごーはーんー」
「はいはい、今行く。今日は、何?」
「ハンバーグ!」
「ハンバーグ?」
「そう!フレッシュラムハンバーグ」
知ってるハンバーグだと思ったら、また知らないハンバーグだった。でも、味は保証出来るはずだ。だから。
「あり、がとう……」
この狭いプライベート空間で、誰かに伝えるはずが無かった、言葉。
「どういたしまして!」
デヘヘ〜と照れ笑いをするかぐやの笑顔を見て、思う。
好きなんかじゃない。
でも……
この私をもってしても、言語化出来ない、想い。
いつか、それを伝えるべき言葉を。
理解する時が、来るのだろうか。
3/26/2026, 9:44:21 AM