細言

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11/25/2025, 5:37:41 PM

『落ち葉の道』
かしゃかしゃ、ぱりぱり。歩くたびにそんな音が響く。広漠とした並木道は、閑散としていて、静か。僕は君と歩幅を合わせながらゆっくり歩く。君は薄白く濁った息を優しく吐いて、口元をマフラーにしまうように俯いた。
君は何も喋ってくれなかった。ずっと足元を、何層にも重なった落ち葉を眺めては、踏み鳴らしていく。それは破滅的でありながら、神秘的だった。赤や黄、茶色、夕日のようなグラデーションなど、地面は秋そのものを描きだしていた。
君はそれを、踏み鳴らして、ぱりぱりっと、奏でていた。
時たま、君は立ち止まる。すると僕も呼応して立ち止まるものだから、世界からは音が居なくなって。君の呼吸、僕の呼吸、布の擦れる音とか、落ち葉の揺れる音とか。僕らの周りだけが、世界のすべてのような感覚になる。君の足音が消えただけで、僕の感じる世界は大きく変わってしまうのだ。君は言葉を発しない。だからこそ、足音がとても大きく聞こえる。君の心臓の鼓動も、吐息も、全部足音に掻き消されて。最早、君という存在は落ち葉を踏み鳴らす足音で構成させてるような。そんな気までしてしまったのだ。
僕は君と落ち葉の道を歩くのが好きなんだ。

11/23/2025, 4:28:27 PM

『手放した時間』
僕は小説を読んでいた。休み時間、次の授業の準備を終えた後の、大体7分程度。
いつからだったろうか、友人とめっきり話さなくなった。孤独だったからだ。どれだけ話しても、親密さに欠けていて、話せば話すだけ孤独を感じた。だから距離を置いた。何もしないと、それはそれで辛かった。側から見ても孤独な人間にはなりたくない。だから小説を読んだ。
以前までは、まぁそれなりに仲も良かった。どこかでこいつとは合わないなと感じながらも、楽しんでいた。それがだんだんと募って、ぷつりと切れてしまった。話の輪に入ろうとしても誰も僕を見てくれない。僕から話を振っても軽く流される。あいつと話してる時は楽しそうなくせに。僕はこの感情を知っている。嫉妬だ。心底嫌いな奴に嫉妬している。無様だ。僕は無様な人間なのだ。死にたかった。
始令が鳴り響き、先生が教室に入ってくる。友人はコソコソと話しながら前を向く。僕は本を閉じる。共同体のようで、隔絶された世界のようだった。
以前までは、一緒に下校していた。まぁ今もしているが。ここ半月ほど、僕は下校時に口を開かなくなっていた。話しかけられないから。話しても取り合ってくれないから。友人と話すこと自体が億劫になっていた。
そんな日が続いて、学校に行きたく無くて、遅刻が増えていた。一限に間に合うくらいの中途半端な遅刻ばかりを積み重ねた。
ある日、他の友人が面接練習とかで、友人と2人きりで帰路に立った。
「お前最近おかしいよ。本読んでばっかりで話しかけづらいし。」
友人が言った。僕は、お前のせいだ。と心では吐き捨てた。
「誰も話してくれなくて、孤独だから本を読んでる」
暗い、地下鉄。駅のホームに反響するどこかを走る電車の揺れ。僕はこんなことを言うつもりはなかった。こいつだけには、弱みを見せたくなかった。嫌いだ。こいつは合わない。過去何度も思い知らされてきた。
それなのに、僕は吐いてしまった。弱みを、孤独を。
「お前メンヘラかよ。」
友人は軽くそう言った。酷い奴だ。僕が生々しく疼く傷口を見せてやったと言うのに、その言い種。でも、それ以上に、少し救われている自分に吐き気がした。

11/22/2025, 7:18:57 PM

『紅の記憶』
赤い。目の前が、真っ赤になってしまった。明暗も濃淡もなく、ただひたすらに赤い。赤がこの世界を作っているような。見えている世界、ではなく、脳が、こころが真っ赤に染まってしまったような。そんな感覚だ。見えるものは赤いばかりなのに、他の感覚は鋭く鮮明だ。誰かの笑い声、肺を潰す圧迫感、誰かの笑い声、布が肌に擦れて熱になる、誰かの笑い声、狭く細い呼吸音、笑い声。

赤い感情、それは色々ある。その中でも僕は、殺意だと思う。初めて明確に殺意を感じたあの時、色をつけるとしたら、それは赤いだろう。
僕はずっと、嫌なことでも「殺したい」よりも「しにたい」が先に来る自責人間だった。何でも僕が悪い、ぼくが死ねば、と思っていた。そんな僕でも誰かに明確に殺意を持ったことがある。今思い返せば、それは拠り所が敵に転化した瞬間だ。僕は苦しいのに、笑っているなんて。友達だと思っていたのに、笑っているなんて。僕はその場にいる笑った奴ら全員に殺意を覚えた。きっと、その手に包丁があれば僕は殺人犯になっていただろう。いや、包丁じゃなくても、一撃で命を奪えるものが側にあれば、僕は死神と呼ばれる第一歩を歩んでいたかもしれない。
赤い記憶。それは殺意だ。血の色を連想するかもしれないが、この赤は、血というよりも絶望だ。

11/18/2025, 4:30:17 PM

『記憶のランタン』
夜の空は綺麗だ。星が静かに輝いて、街を照らして、僕を照らして、とにかく夜というものは綺麗なのだ。
僕は4、5歳の時に父から貰った錆びれたランタンを持って、深夜の街を徘徊する。ランタンの金具をカラカラと鳴らしながら悠々と歩く。
そういえばこのランタンは、父の形見となってしまった。つい数ヶ月前に父は死んだ。案外あっけないと感じた。父が死んでから、昔の記憶をふと思い出すようになった。旅行先で、夜の町を探検するためにこのランタンを買ったこと。その時初めて、火傷をしたこと。探検中に寝てしまって、気づいた時には宿で朝日を浴びていたこと。
だめだだめだ、葬式中は泣けなかったのに、思い出すと泣けてくる。僕は暗く冷たい夜道を走った。夜風が顔面を撫でて涙が吹き飛ぶ。吹き飛んだ先から溢れ出す。目尻から涙が抜けていく。去っていく。叫びたかったけど夜中だから我慢した。
気づくと海岸に着いていた。スマホを取り出して時刻を見ると深夜の2時40分だった。スマホの明るすぎる画面に目が眩みそうになる。僕は砂浜に腰を落として夜空を眺めた。綺麗だ。自然と涙がおさまる。
そうだ。このランタンを海に投げよう。そうすれば、少しは楽になる。そのはずだ。
僕はランタンを握りしめて大きく振りかぶった。錆びついた取っ手はとげとげしていて強く握ると少し痛かった。
ガシャンッ
ランタンは足元の砂の上に落ちた。手が離せなかった。でも、強く打ち付けた衝撃のせいか、ランタンの硝子が割れ、灯は消えてしまっていた。

灯りのない帰路は真っ暗で、二十代後半になっても少し怖いなと感じた。

11/18/2025, 9:12:59 AM

『冬へ』
私は、冬が好き。冬の空気は冷たくて、そっけないけど、でも、あなたを思い出す。
手を伸ばしても、冷たくてひっこめてしまった私の手を思い出す。あなたは、暖かくて、そばにいたら、溶けてしまう。私が、私でなくなりそうで。でも、それもまぁいいかな、なんて思って。でも近づけなくて、
そんな冬を、思い出すから

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