『紅の記憶』
赤い。目の前が、真っ赤になってしまった。明暗も濃淡もなく、ただひたすらに赤い。赤がこの世界を作っているような。見えている世界、ではなく、脳が、こころが真っ赤に染まってしまったような。そんな感覚だ。見えるものは赤いばかりなのに、他の感覚は鋭く鮮明だ。誰かの笑い声、肺を潰す圧迫感、誰かの笑い声、布が肌に擦れて熱になる、誰かの笑い声、狭く細い呼吸音、笑い声。
赤い感情、それは色々ある。その中でも僕は、殺意だと思う。初めて明確に殺意を感じたあの時、色をつけるとしたら、それは赤いだろう。
僕はずっと、嫌なことでも「殺したい」よりも「しにたい」が先に来る自責人間だった。何でも僕が悪い、ぼくが死ねば、と思っていた。そんな僕でも誰かに明確に殺意を持ったことがある。今思い返せば、それは拠り所が敵に転化した瞬間だ。僕は苦しいのに、笑っているなんて。友達だと思っていたのに、笑っているなんて。僕はその場にいる笑った奴ら全員に殺意を覚えた。きっと、その手に包丁があれば僕は殺人犯になっていただろう。いや、包丁じゃなくても、一撃で命を奪えるものが側にあれば、僕は死神と呼ばれる第一歩を歩んでいたかもしれない。
赤い記憶。それは殺意だ。血の色を連想するかもしれないが、この赤は、血というよりも絶望だ。
11/22/2025, 7:18:57 PM