『ふり』
君は殺人鬼だ。君が、笑いながら人を殺していくのを僕は何度も見ている。その顔をちゃんと見たことは、まだ無いけど、秋みたいな君の笑い声は、もう完全に耳の奥にこびりついてしまった。今日もきっとまた居なくなる。君に、殺される。そっけなく笑う君の顔を見れないまま、死んでしまう。それで、君の「ごめんね」とか、「また明日」とか、そういう言葉で目を覚ます。連なった残骸の上で。僕は俯いたまんまで、何事もなかったように歩き出す。僕が殺されていくたびに、君の心も、何気ないふりをして死んでいく。
「ハッピーエンド」
視界がだんだんと明るくなっていく。夜明けのように、ゆっくりと。点々と人影が蠢き出し、少しずつ掃けていく。私は座席に深く座り直す。仲良さげなカップルが、甘ったるいポップコーンの匂いを引き連れて私の前を通っていった。
面白い、と言えばそうだったのかもしれない。それでも私の心は満たせなかった。あの陳腐で使い古されたハッピーエンドは私の目を黒く塗り潰すようだった。その作品を一瞬で使い捨ての娯楽へと変えてしまった。私ならこうはならなかった。なんて言ったところで主人公は答えてくれない。死人には口は愚か耳も無いのだから。私は誰もいないシアタールームで目を瞑り、深く息を吐いた。そして思わず笑いが込み上げてくる。私の人生というものはこんなにも呆気なく、つまらなく、私自身の創作にしかすぎないことを思い知った。息を吐いた後、少しだけ後悔した。
とりあえず、とりあえずはどうでもいいからさ、誰もいない暗い世界で、あなただけに見つめられながら、あなただけに抱きしめられたい。他人だとか僕だとかはどうでもいいからさ、あなたの暖かい両手で、僕をあなたの身体に押し付けて、締め付けて欲しい。あなた以外を吸えないようにして欲しい。誰にも見られないところで,恥ずかしげもなく、あなたの一部になってしまうほどに。
絡んでしまった自意識が
歪な音で軋み始めた
あぁ、震えている
そのゴミ山に向かって彼は言った
がくぶると
か弱い生命のようだ
みるみるうちに小さく潰れる
彼の二倍もあった背丈も
二呼吸の間に
彼は半分の背丈になった
周囲に群がる汚い壁を見上げるほど
小さく成り果て
音も小さくなった
全てが大きく見える
世界が暗んでいる
彼の顔も翳ってしまった
姿も揺らんで
彼の輪郭も
離れて、殖える
彼、等の影
歪な姿も、音も
もう現れなかった
哀れな自意識は潰れてしまった
この世界が怖くて
怖くて
あなたのことをもっと知りたいです。本当になんでもいいんです。好きな食べ物はなんですか、好きな映画はなんですか、家族構成とか、今までの交友関係とか。体はどこから洗いますか、爪はどれくらいの長さで切りますか、好きな体位はなんですか、寝る時はどんな体勢ですか、寝起きの機嫌は悪い方ですか、学校をサボったことはありますか、しょうもない遅刻をしたことはありますか、どれくらいの頻度で自分が嫌いになりますか、死にたいなと思った時はどんな死に方を考えますか、暴力を振るったことはありますか、殺したいと思った人はどれくらいいますか、実際に人を殺したことはありますか、
とか、色々聞いて、あなたのことを全部知りたいです。あなたになりたいです。私とあなたの境界線ごと取っ払ってしまいたいです。私はあなたが大好きだから。あなたのことをもっと知りたいです。