『君を照らす月』
「今夜は月が綺麗ですね」
ありふれた、言葉だね。というか、ありふれすぎて適当な相手に“月が綺麗”と伝えるとき、何と言えばいいのかわからないまである。まぁなんにせよ、そういう場面は生きてれば割と多くあって、心に置いておくときもあれば、「いや、マジで月綺麗!」と勢いに任せて言う時もある。そんなことばかりだと、本命の場でふざけそうで、ちょっと心配である。
ベランダの戸を開けて、夜空が侵入する。夜の空気って美味しいよね。そう、僕は言って、目を合わせずに君の隣でココアを飲む。熱々の甘いやつ。チラッと横を見れば、輪郭が神々しく、いや、案外それほどでもないかもしれないけど、黄色く縁取られている君がいる。月を見ようとして、君に魅せられる。君は月なのかもしれない。そうだ、きっと君はかぐや姫だ。どうりで毎日無理難題を押し付けてくるわけだ。それに可愛い。宇宙一かわいい。君がかぐや姫だとすれば、お母さんは竹になるのか。なんてまぁどうでもよくて。月光に縁取られた君は綺麗で。その月が、少し羨ましい。君をこんなにも、綺麗に彩れるなんて。
僕も、負けてられないな。
ひたひたの影
しゃぼん玉の
中の
虹みたいな
ゆらゆら揺れる
ふらふら触れる
小さくて弱い
あなたの形
光の帯が
すぅっと
めりこむ
心に侵入
あったかい
あなたの言葉
ごめんごめん。また遅れちゃった。
君は笑って、そう言った。僕は優しいから、いいよ。と言って、許してあげるけど。
約束したのは昨日だし、急だったもんね。会うのは久しぶりだし、君は、きっと忙しいもんね。そうだよね。
僕のさ、心を埋めてくれる。そんな人は、君くらいしかいないから、なんでもいいんだ。ほんとうに。君が、君と、君なら、君だけには、嫌われたくないから。
君からすれば、小さな、日常によくある、気を払うのも面倒なくらいの、ささやかな約束かもしれないもんね。そんなものが、僕からしたら、人生の休憩点、オアシス、命。
ごめん、こんな面倒な人に好かれて、嫌だよね。
うん。今日はもういいよ。いつもありがとう
またね、