イルミネーションは嫌いだ。
枯葉が落ちている木も綺麗に飾り付けをされているし
キラキラしたイルミネーションの下にはいい匂いがするケーキ屋さんがある
いつもは大きな瞳を動かしている黒い猫も
イルミネーションを嫌うように小さく丸まる。
イルミネーションは、本当にいいことがない。
「おはよう梨華!」
「おはよう三玖。」
「うわ、見てよこれ。今日は数学が2限目、理科が3限目にある。最悪」
「はあ、(そんなこと分かってる。いちいち言わなくていいのよ。)本当気分最悪って感じ」
「ちょっと!どこ行くの?」
「トイレ。すぐ戻ってくるから待ってて」
「はーい…梨華が居ないと寂しいから早くしてね!」
「はあ…」
あの子は三玖。高校に入ってからできた初めての友達で最初は素直に言葉を伝えてくれる良い子だと思ってたんだけど…正直、最近めんどくなってきた。
「あの子に注ぐ愛はこれくらいでいいわね。
うーん、50ml弱くらいね。」
「梨華!」
「あ!杏奈!おはよう」
「おはよう梨華!トイレの個室の前で何やってるの?」
「いや、なんでも。それより杏奈髪の毛切った?
可愛いね。」
「そうなの!気づいたのは梨華だけ!やっぱり梨華は最高の友達だわ。!!」
「そう?笑ありがとう」
「それよりさっきみゆが呼んでたわよ。早く行った方がいいと思うけど…」
「え!うそ!ありがとう!じゃあまたあとでねー!」
さっきの子は杏奈。可愛くて私に声をかけてくれた優しい友達。けど、あんまり話すことはなくて時々話すくらいの関係。
「あの子に注ぐ愛は100mlで充分!」
「みゆ!おはよ!」
「あーりか!探してたのよ!」
「さっき杏奈から聞いた!どうしたの?」
「昨日言ってたディズニーなんだけど、何時集合にするか決めたくて!」
「あー、じゃあみゆが決めていいよ!」
「んー、11時は?」
「いいよ!そうしよ!」
「分かった!ありがと!」
「ううん!じゃあまたあとで!」
今の子はみゆ!たまに休み時間一緒に過ごしたり休みの日には出かけたりしてる仲なの!
「あの子は大切な友達だから、愛は200mlで良さそう。」
「おっはー!りかー!」
「うっわびっくりしたー!もう渚!まじでやめてよね!笑」
「りかこーゆー系がちで苦手だもんね笑笑」
「とりま渚より優先しなきゃならないことがありますのでさようならー」
「は!?無理無理!ねえりかちゃーん♡」
「きもいって笑笑」
「いいじゃーん!笑」
今の奴はなぎさ!超がつくほどの仲良し!
幼馴染でもあるの!優しくて可愛くて、何より面白い親友!
「渚には350mlの愛をっと…」
「何してるの。」
「?…えっ!?三玖!?」
「戻ってくるのが遅いから、トイレ前で待ってたら気付かずに色んな友達に会って…」
「それで、何それ。愛を注ぐ?私にはたった50mlだったのに?」
「いや…これは…」
「ほんとがっかり。もういいよ。梨華とは友達辞める。裏でランク付けされるよりも辛い。」
「待ってよ!」
「嫌。友達によって愛情の量を変えて注ぐような人とは友達でいられない。さようなら梨華。」
「うそ…そんな、」
私はただ、友達の関係を終わらせずに愛情を注ぎたかっただけなの。
なのに、そんな…
「本当、気分最悪よ。」
皆さんは決して友達によって愛の量を変えて注いだりは、しないでくださいね。_______
まあ、するわけないか。
"愛を注いで"
「あんたみたいな子、産まなきゃ良かった。」
母から言われた言葉だ。
母は昔から愛情が無かった。
笑顔がぎこちなくて、ご飯が温かくなかった。
私が5歳の頃、母は突然変わった。
ぎこちない笑顔すら見せなくなり、洗濯物や料理をしなくなった。
いわゆる育児放棄だ。
私は幼いながらに母を演じた。
一人っ子のふたり家族。
どう考えても母がいなくなったら終わる環境。
父と離婚したのは私が生まれてすぐの話だった。
私の世話を母ばかりしていて父がそれに気づいた頃にはもう遅かった。
父の目の前には、離婚届の一枚の紙と印鑑が置かれていた。
母が夜中に枕を濡らしていたことを知っていた私には、とても良い光景ではなかった。
父が家を出ていってからは早かった。
元々住んでいた家に母と二人で住み、母が私を育ててくれた。
そして5歳の誕生日を迎えた頃には私の目を見る母の姿はどこにも無かった。
「まま、ごはん」
「あ?まま疲れてんの。見て分かんない?
ほんっとあんたって子はだからそんなちっさい脳みそなんだよ!!」
「…ごめんな、さい。」
「謝るんだったら黙ってくれる?また外に出されたくなかったらね」
「……」
私が覚えてる限りはこれが一番長く話した会話だった。
母は2人娘がよかったらしい。
私が生まれてすぐに父が出ていって、男の人を探す余裕もなかった母にはもう1人子を産むのは難しかった。
私と母には会話はもちろん愛情もない。
物心ついた頃には母からの愛情がなかった。
いつでも死と隣合わせの私の人生は、壮大なようで卑小だった。
今、私はもうすぐ19歳になる。
まだ母とは一緒に暮らしているし相変わらず会話はない。母は新しい彼氏が見つかり、家に帰ってくることは稀だ。
父からは連絡もなければ音沙汰もない。
多分、私との間には愛情がないからだ。
母は5歳になるまでは私を愛してくれた。
本当の愛かは理解できないが、それでもおぼろげな愛情を私にくれた。
まだ心にはぽっかり穴が空いたままだけど、この穴を埋めるには愛情以外方法はない。
貴方は、愛情を注げていますか?
私の目を見て、答えてください。
"愛情"
『今日は11月22日「いい夫婦の日」ということで!斉藤さん!最近はご夫婦でどのような生活を送っていますか?』
『そうですねー。最近は夫と一緒に日帰り旅行に京都へ行きましたね。』
『おー!いいですね!はい!ということで本日はいい夫婦キャンペーンを…』
ピッ____
「いい夫婦……?馬鹿馬鹿しい。」
私と夫はもう少しで結婚30年目になる。
子供ももう成人済でこの家は私と夫二人で切り盛りしている。
「おい!何回言ったらわかるんだお前は!!飯はどうした!」
「すみません、今準備しますから。」
「今からだと!?お前な、一家の大黒柱に対してその態度はなんなんだ!!」
「…申し訳ないです。すぐ支度を始めます。」
「ならさっさと動けこのノロマ!!!」
見ればわかる通り私の夫はこのさま。
私はただの召使いのような扱い。
挨拶はもちろん、いただきますも言わないあの人は最初は凄く良い人だった。
沢山尽くしてくれて、子供が産まれてからも十数年は「いい夫婦」をしてくれた。
なのに1番上の子供が15歳になる頃、態度が急変した。
なんとなく想像はできてる。
浮気だ。
いい歳して若い女に騙されて最後までしたらしい。
私が夜暇をしても何も言ってこないのに。
正直、子供が成人してからはもうなんでもいい。
今は子供二人も相手を見つけて、もう少しで姉の方は入籍するらしい。
プルルルップルルルッ____
「…?はい、もしもし?」
「あーもしもしお母さん?ごめんねー急にかけちゃって笑」
「あら凪紗?しばらく話せてなかったから電話番号覚えてなかったわ。笑私ももう歳ねー。」
「だと思ったよー笑お母さんLINE全然見ないんだもんー。」
「お母さんああいうの疎いのよ。笑よく知ってるでしょ?」
「まあね笑」
「それで、どうしたの?急に電話かけきて。」
「いやー、まあ特にこれといった用はないんだけど…元気してるかなって」
「ほら、私もうすぐ入籍するし忙しくなるから今のうちに声聞きたくって笑」
「なるほどね。確かに私も声聞きたかったのよ。
改めて結婚おめでとう。凪紗。」
「え!?ちょっともうやだー笑まだ式も挙げてないっていうのに笑」
「それもそうね。笑それで、凪紗の方は元気してるの?」
「まあぼちぼちだねー。今ほんと一気に忙しくなっちゃって笑たまに体調崩しちゃうよ」
「あら大丈夫なの?また何かあったらいいなさいよ」
「…そうだね。言うようにするよ。」
少し間があった。
「…どうしたの。」
「えっ、?」
「何か含みのある言い方だったから。
それに、凪紗電話苦手でしょう?そんな凪紗から電話がくるなんて何かあったんじゃないかなって。」
「……笑さっすがお母さん。そうだよ」
「当たり前よ。何年母やってると思ってるの」
「単刀直入に言うけど、お母さん、まだ離婚してないの?」
「……えぇ。」
「…そっか。」
「凪紗と紗彩には申し訳ないけど、生涯離婚をするつもりはないわ。」
「…お母さん、昔からそれ言ってるけど一体どうしてなの?」
「あの人、冷めてるしあんなわかりやすい女に騙されて浮気もしたし今もお母さんに対しての扱い酷いんでしょ?なら離婚すればいいじゃん。」
「確かにそうかもしれないけど私があの人を選んだからには最後まで一緒にいるべきだと思う。」
「なんで、どうしてよ!」
「なんでって…それは」
『夫婦だからよ。』
冷たい地面とぼーっとする頭。
「ここ…」
「おはよう」
場所を尋ねる前に聞こえた声。
「だ、だれっ……う、…」
「ふふ、どうしたの?」
「頭が、、痛い…」
「少し身体が冷えたのかも。」
「貴方は…いったい、、?」
「私のことはあとにして、とりあえず毛布かけとくね。」
「あ、ありが…」
「大丈夫。やりたくてやったまでだから。」
まだ意識が朦朧としてる。時々くる軽い眩暈は、私を夢の中へと誘惑する。
「……まだ意識がちゃんとしてないのね。」
「…」
私は軽く頷いた。
「…本当に綺麗な顔ね。」
想像していなかった発言に、思わず目が見開いた。
「あぁ、早く私の元に来て欲しかった…
お迎え遅くなってごめんね。」
何かを企むように微笑む彼女を、私は睨みつけた。
「笑 可愛い…そうよね、酷なことしてしまって申し訳ないわ。」
「……当たり前でしょ。こんな誘拐みたいなこと、すぐに警察に…」
「縛るなんてしたらしんどいわよね。もう少しで縄は解くから少しだけ待ってちょうだい。」
「何を言ってるの?私は誘拐に対して……」
「誘拐??ふふ、あはははは笑!!」
奇妙に笑う彼女が恐怖だった。
「私は宝物を保管しただけ。それが誘拐だなんて、少しマニアックなギャグが好きなのね。ふふ、」
「ギャグって……ふざけてるの!!!?」
「ふざけてなんかないわよ。」
「っ…!」
真剣な低い声で言った台詞は、私の朦朧とした意識に目を覚ませた。
「宝物よ、貴方が。」
「タカラモノ……ばかなこと、いわない……で。。」
「あらどうしたの?笑あんまりしっかりと話せてないようだけど」
「呂律が…まわらな…い。」
「そりゃそうよ。」
「"宝物" は "モノ" よ。ものは喋らないわよね?」
「……」
「はあ、本当に美しい……やっとこんなに近くで保管できる…ふふ笑」
『愛してるわ。私の宝物ちゃん。』
最後に聞こえた言葉は今も私の頭の中に響いている。