彗皨

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「あんたみたいな子、産まなきゃ良かった。」
母から言われた言葉だ。

母は昔から愛情が無かった。
笑顔がぎこちなくて、ご飯が温かくなかった。

私が5歳の頃、母は突然変わった。
ぎこちない笑顔すら見せなくなり、洗濯物や料理をしなくなった。
いわゆる育児放棄だ。
私は幼いながらに母を演じた。
一人っ子のふたり家族。
どう考えても母がいなくなったら終わる環境。

父と離婚したのは私が生まれてすぐの話だった。
私の世話を母ばかりしていて父がそれに気づいた頃にはもう遅かった。
父の目の前には、離婚届の一枚の紙と印鑑が置かれていた。
母が夜中に枕を濡らしていたことを知っていた私には、とても良い光景ではなかった。

父が家を出ていってからは早かった。
元々住んでいた家に母と二人で住み、母が私を育ててくれた。
そして5歳の誕生日を迎えた頃には私の目を見る母の姿はどこにも無かった。

「まま、ごはん」
「あ?まま疲れてんの。見て分かんない?
ほんっとあんたって子はだからそんなちっさい脳みそなんだよ!!」
「…ごめんな、さい。」
「謝るんだったら黙ってくれる?また外に出されたくなかったらね」
「……」

私が覚えてる限りはこれが一番長く話した会話だった。
母は2人娘がよかったらしい。
私が生まれてすぐに父が出ていって、男の人を探す余裕もなかった母にはもう1人子を産むのは難しかった。
私と母には会話はもちろん愛情もない。
物心ついた頃には母からの愛情がなかった。

いつでも死と隣合わせの私の人生は、壮大なようで卑小だった。
今、私はもうすぐ19歳になる。
まだ母とは一緒に暮らしているし相変わらず会話はない。母は新しい彼氏が見つかり、家に帰ってくることは稀だ。
父からは連絡もなければ音沙汰もない。
多分、私との間には愛情がないからだ。
母は5歳になるまでは私を愛してくれた。
本当の愛かは理解できないが、それでもおぼろげな愛情を私にくれた。

まだ心にはぽっかり穴が空いたままだけど、この穴を埋めるには愛情以外方法はない。

貴方は、愛情を注げていますか?

私の目を見て、答えてください。


"愛情"

11/27/2023, 5:29:57 PM