『なあ、俺最近天野のこと気になってんだけど』
『はあ?お前な、天野さんは高嶺の花だぞ?そんなんお前には無理無理(笑)』
そんな会話が聞こえた。
僕のクラスには一人、とても美人なクラスメイトが居る。
それは、天野渚さんだった。
「渚はほんとかわいいよね。羨ましいー」
「そんなことないよ。笑」
渚さんは自他共に認める美人で先生や大人からも気に入られている。
渚さん自身、自分は美人じゃないと思ってるみたいなんだけどそんなとこもモテる要因なんだろう。
「てか渚ってほんと肌白いよねー。透明って感じ。ほんと、なんか居なくなっちゃいそう。」
「そうかな?そこまで白くないよ、私。それに私は居なくならないから。!」
「渚って自分のこと全然可愛いとか言わないよね。こんなに綺麗なお顔してるのにー。勿体ないよ」
「そう?ありがとう。笑」
「はあー。私も渚みたいになりたいなーー。」
渚さんは本当にThe高嶺の花って感じで、嫉妬の対象にもならないくらいの美人っぷりだった。
まあ、僕は男だから女子の裏の事情はよく分からないんだけどね(笑)
肌は有り得ないくらい透き通っていてさっきも言われていたように、本当に居なくなってしまいそうなくらい色素が薄い。目の色まで色素が薄くて天使のようにみえていた。
それとは対照的に黒く長い髪が印象的だった。髪が靡くたびに艶のある黒がよく目立つ。
顔は言わずもがな綺麗で、まるでハーフのような顔立ちだった。
ロシアとギリシャ人の顔を足したような美しい顔立ちで、日本で無駄に過ごすにはすごく勿体ないと皆が思っているに違いない。
そんな容姿が完璧な渚さんは生徒会長に務めるほどしっかりしていて、学力も学年でみても1位に輝くほどだった。
ただ、運動は少し苦手でそういう抜けてるとこも男からはすごく人気だった。
性格も真面目で優しくて、厳しくみえて意外とマイペースで天然なところも渚さんの良いところだ。
そんな全てが完璧な渚さんは
2年前に自殺で亡くなった_____
知らされたのは朝のホームルームでだった。
いつものように皆が席について先生がくるのを待っていた。
教室のドアが開いた時、先生の顔色が悪いのをすぐにクラス中が察知した。
先生の暗いトーンで始まった「おはようございます」は、いつもと違う違和感を感じた。
先生が重い口を開く。
『皆さんに、大切なお話があります。』
そこからはまるで記憶が抹消されたかのように薄れている。
ただ、渚さんが亡くなったという事実だけが全員の心に残っている。
葬式は、あっけなく終わった。
「…綺麗」誰もがそう思っただろう。
白い箱の中に閉じ込められた天使。
今にも消えてしまいそうな白く透明な肌が透き通っていた。
彼女の色素の薄い瞳が安らかに眠っていた。
天使の寝顔は徐々に蓋をされていく。
最後に、彼女の綺麗で美しい瞳が見えた気がした。
"安らかな瞳"
たまには息抜きだって大事じゃない?
けど、息を抜きすぎてもまわりが見えなくなっていつしか友達が居なくなってしまうかもしれませんね。
そう、私みたいに
なんてね。
列車に肩を揺られながら、目を閉じる。
誰も居ない静かな空間で____
「お客さん、終点ですよ。」
「…ああ、ありがとうございます。すみませんね。」
目の前のお客も、運転士も気づいていない。
私はやっぱり、誰からも見えていない。
TikTokを開いた。
もう慣れた手つきだった。
毎日TiktokやSNSを使ってコメントを残す
それが日課だった。
ある日、女子高生が友達6人と流行りの音源で学校の廊下で撮っているのが流れてきた。
早々とスクロールをしていた手が止まった。
「何コレ…」
いつものようにコメント欄を開くと、そこには
" 可愛い!"
" やっぱ△△校の制服は可愛い "
" 仲良さそうwwww "
" 右の子のアカウントどこですか!かわいすぎ! "
などのコメントで溢れかえっていた。
「皆…正気なの、??」
私は、急いでコメントを打ち投稿した。
数分が経った時だった
ありえない速度の通知がきた。
それはもう、鳴り止まないくらいに。
「なになに!一体なんなの!」
ものすごい量の通知をタップし、通知がきた導因を辿ってみた。
原因は、私が数分前に投稿したコメントへの返信だった。
「やっぱり皆共感してるんだ。」
そう思い返信を表示すると、自分が想像としていたものと遥か違うものを目にした。
" 別に楽しんでるんだし良くない? "
" ××××さんが言ってる通り、動画の主さんたちが誰かに迷惑かけてるわけじゃないんだしいいじゃん "
" 友達いなそー "
" やめたれwwwwwww "
" 核心突くなWWWWW "
私は、上へとスクロールする度にでてくる私への罵倒や偏見 反対の意見に驚きと悲しみを隠せなかった。
いや、それ以外にも怒りや歓喜した部分もあった。
" あなた、すごく叩かれてますけど私としてはあなたの意見も取り入れるべきだと思う。あなた自身がどう思ってるかは分からないけれど、私はあなたの意見も尊重すべきだと思った。 "
" あー分かる。結構色々言われてるけど、ぶっちゃけ動画主さんがどう感じたか分かんないんだしうちらが今言ってもねWWWWWWWWW "
" よかった。私がおかしいのかと思った。私も〇〇さんみたいな考えでこの動画のコメ欄開いたから、同じ人いて良かった! "
「味方もいるんだ。。」
ホッと胸を撫で下ろした。
その時、私はある返信に目がいった。
" 賛否両論あるけど私的にはこのコメ主はなーんも考えずコメントしたんだろうなーって。まあコメ主に対してバカにしたりしてる奴らも同類だけど。
コメントは意見言う場でもあるけど、それ以上に誰かが不快にならないようなステキなコメントをする場なんじゃないの?適当に文字打って投稿しても、それって結局はコメ主が批判してるこの動画と同じなんじゃない? "
長くて読む気が失せながらも、私は最後まで目を通した。
「" 同じ "……」
私は学校では友達が居なくて、常にネットばかりを見ていた。それが余計に気持ち悪く感じたのか皆は私を避けて、私の悪口を言うようになった。
ネットは好きなようにコメントや投稿、発信ができるし、匿名だから誰が何を言ったってバレない。
裏垢なら尚更誰も「誰がこのコメントをしたのか」なんて気にしない。
だから私は現実から目を背けてネットに逃げていた。
どこの誰かも分からない人から言われた
" 友達いなそー "これは、私にとって凄く刺さった。
ナイフのように尖っていて凄く心をえぐられたような感覚になった。
良くないってわかってる。
けど、いざ現実に向かおうとすると怖くて汗が止まらなくなる。震えとか寒気がしてくる。
現実よりもゲームやネットの方が楽しいしすごく居て気が楽だ。
やっぱり、ネットはやめられない。
" 現実逃避 "
君は今、何をしているんだろう。
誰と居て、何処で暮らしているのか。
私には分からない。
けど、あの頃のように君を想う気持ちは変わらない。