Theme「みかん」
「いつまでもこたつに潜ってないで、出てきなさい」
そう言われ、渋々こたつから出る。
「全く。たまには外に出てみたら?ずっと家にこもってるじゃない?」
「外出ても別にやることないし、ゴロゴロするのが一番幸せなんだもん」
「これだからナマケモノは……」
冬休みに入り、私は一気に暇になった。特にやりたいこともやるべきことも無い。
これならいっそ学校に行った方がましだと思ってきた。
すると二階から降りてきたお兄ちゃんが。
「みかん食う?」
「なんでみかん……?」
「友達にもらったんだよ。有名なみかんなんだってさ。それに今、冬だしちょうどいいだろ?」
正直みかんは、そんなに好んで食べる訳じゃないけど。
「小腹空いてるし、もらう」
「うい」
お兄ちゃんが投げたみかんは私は受け取る。
そしてみかんの皮をむき、パクッと食べる。
「皮はちゃんと捨てなさいよー」
「分かってるってー」
冬休み。それは暇で暇で退屈な日々。
だけど。
『ピロン♪』
この音は誰かからの連絡だな。
私はスマホをとり、誰からかを確認する。
「あれ?かなでじゃん」
奏(かなで)は中学時代の友達。高校は別々でしばらく連絡は取り合っていなかった。
「『今から遊ばない?冬休み入ってるでしょ?』か」
「どうせ家でゴロゴロしてるんだから行ってきたら?」
「でも楽器持ってくのめんどくさいー」
するとお兄ちゃんが不思議そうに問いかけた。
「遊ぶだけなのに楽器いるのか? 」
「私と奏は吹奏楽部で仲良くなった。奏は優秀な子だから、私と遊ぶ時はいつも練習なの。暗黙の了解みたいなやつ?」
「ふーん。お前も吹奏楽部だからちょうどいいな。行ってこいよ。俺が荷物持ってやるからよ」
「え、いいの?」
普段お兄ちゃんはめんどくさがり屋だから、荷物を持つという言葉に驚いた。
「あぁ、たまには兄らしくな」
「ありがと……」
そして私は残ったみかんを口の中に詰め込み、楽器を背負った。
「いってひます!」
「いってらっしゃい」
「ちゃんと飲み込めよ」
「分はった分はった」
そうして暇で暇で退屈な冬休みに、ちょっとした音色が響くことになった。
追記
今年は元日から大変なことになってしまいましたね。皆さんの無事を心からお祈りします。僕は関東住みなので、少し揺れたくらいですみました。
Thema「手ぶくろ」
私の親は毎年、手袋をくれる。
最初はなんで手袋?と思っていた。
でも手袋をもらって、またもらう頃には、その手袋はボロボロになっている。
もう私にとって毎日手袋をもらうことは普通になった。
でも今年は少し違かった。
手袋は毎年12月にくれるのだが、今年はくれなかった。
私から「手袋は?」と聞いてもいいのだけれど、なんかそれは嫌だった。
仕方なく、今まで使っていたボロボロの手袋を使うことにした。
そして2月。受験の時だ。
私は難関校を志望していることもあって、1年中勉強尽くしだった。
そしていざ、入試当日。
親からの応援の言葉と共に、あれをもらった。
「はい。手袋」
「え?手袋?」
私が不思議な顔をしていたからか、親はすぐに説明してくれた。
「12月に渡すと、もうこの頃には汚れてるでしょ?だから今日みたいな大事な日に渡そうとしてたの」
そして親は最後に。
「頑張ってきなさい」
そう言ってくれた。
そして私も全力で答える。
「行ってきます!!」
入試の会場へと向かう道のりは、すごく寒くて身体が震えてしまう。
でも唯一、手だけは暖かくて……
「ん?」
手袋の手のひらの部分にネームペンで何か文字が書かれている。おそらく文字の感じからしてお母さんだ。
『きっと大丈夫。合格するぞー!(* ˊ꒳ˋ*)』
「あははっ」
思わず笑ってしまった。
「すごく目立つじゃん。これ」
不思議と、その手袋のおかげで私のガチガチの緊張はとけ、リラックスできた。
「合格勝ち取ってくるよ」
そう思い、私は受験会場へと向かった。
Thema「変わらないものは無い」
凍えるように寒い、冬の日。
広大なこの世界に、もう人類は存在しない。
生きているのは、ただ1人。
『エルフ』のみだ。
【孤独のエルフ】
人類が滅亡したのは、もう数千年前の話だ。
正直に言うとあまり覚えていない。
私は『エルフ』だ。昔、人間に捕まったことがある。そこからだ。私の研究が始まったのは。
人間にとっては、何千年も生きる生物は珍しいらしい。というか存在することすら知らなかったらしい。
まぁ、ずっと姿を隠してからか。人に見つかると色々めんどくさい。だから見つからないようにしてたんだけど、ちょっとした油断で見つかってしまった。
そして何十年かは、色々あった。
「お前はどこで生まれた?」
「他にエルフはいるのか?」
「何年生きたんだ?」
質問責めだった。まぁ、それもすぐ終わったけど。
その時は突然訪れた。
「もう出ていっていい。自由にしろ」
って。酷いよね。勝手に捕まえといて、さっさと出てけって。
でも彼らにとって、それどころじゃなかったんだろう。
いつしか人間は、増えすぎた人口を抑えることができず、食糧不足へと陥った。
そしてどんどん餓死していった。
研究者たちも生きていくので精一杯だったんだろうね。
1つ、びっくりしたことがあった。
ある日、私を餓死しそうな子供と勘違いした人がいた。
なんせ私は痩せ細ってるし、背も小さいからね。
その人は言った。
「お前、見た感じだと子供だよな。俺はもう40超えてるんだ。俺が生きるより、お前が生きた方がきっといい。長生きするだろう」
そう言って、彼は最後のご飯を私に渡した。
驚いた。まさか今にもお腹が減って餓死しそうな人間が、持っている最後の食べ物をあげるだなんて。
私はその時、初めて。
「いい人間もいるんだな」
と思った。
そしてそんなことから、数千年前経った。
人間が完全に滅亡し、生きているのは『エルフ』だけ。それもエルフはもともと数が少なく、恐らく生きているのは私だけだろう。
毎日毎日つまらなくて仕方なかった。どこに行っても何もないし、誰もいない。
そう私は『孤独のエルフ』なんだ。
そんな時、ふと思った。
あの時、食べ物をくれた人がいた場所に行こうと。
別に深い意味はない。
ただ、行ってみたかっただけだ。
そして予想通り、そこには何も残ってなかった。
何もかもが壊れていて、腐っている。
その時、私も変わったんだなと思った。
彼の墓を作ってあげようと思った。
あの優しさが、今も心に残っている。
だから私は、彼の墓を作り、あの時の借りを返す。
石を重ねて、色々私なりに工夫して、それなりの墓ができた。
そして私は祈りを捧げる。
「借りを返すのが遅くなっちゃった。ごめん。私は今、生きてるよ」
この世界は何もかも、変わってしまった。
人間が滅亡するなんて思ってもいなかった。
変わるんだな。この世界って。
そしていつか私も変わるのだろう。
私もいつか、彼のいる場所へ旅立つ時が来るのだろう。
「この世界に変わらないものはないもんね」
Thema「クリスマスの過ごし方」
「クリぼっち……」
今頃、都会ではカップルがイチャイチャしてるんだろうな。
それに対して私は家でパソコンをいじっているだけで、普段と何も変わらない。
「なんだかんだ去年もこんな過ごし方してたよな」
まぁ、何も変わらないっていうのは、ある意味平和でいいけど。
すると『ピンポーン』と音が鳴った。
「おっ、きたきた。はーい」
何も変わらない。確かに彼氏はできなかったし、そういう面では何も変わってない。
でも今年の私は変わろうとしてるんだ。
そう。今年は。
「ミニクリスマスツリーを買ってやった」
箱を開けると、高さ15センチくらいのミニクリスマスツリーが。
「せめてこれで、クリスマス気分を」
モニターの近くに置く。
「なんか、ショボい……」
なんか悲しくなってくるな。
1人でクリスマス気分を味わおうとしていると、着信音が聞こえた。
「この音は電話か」
誰だろうと気になり、見ると。
「なんだ、あいつか」
昔からずっと仲良くしている、私にとっての『最高の友人』からだった。
「もしもし?」
久しぶりだったけど、彼女はいつもと変わらない声だった。
『メリクリー!!』
「はは、元気だな」
『私さ、クリぼっちだから電話しちゃったぁ』
「奇遇だね。私もクリぼっちだよ」
そんなこんなで少し話をしていると。
「あれ?もしかして……」
『あぁ!!』
窓の外見ると、空から少しずつ白いものが降ってきた。
「『雪だ』」
そう。私はいつもと変わらない日々を過ごしている。
でもそんな中でも、ちょっと特別を感じることがある。
ミニクリスマスツリーを少しだけクリスマス気分を感じた。
クリぼっちだと思っていたとき、『最高の友人』から電話がきて、会話をして楽しんだ。
そして今年の終わりを感じさせるような『雪』が降ってきた。
こんなクリスマスの過ごし方もいいのかもしれないな。
Thema「イブの夜」
「そういえばお前、結局誘ったの?」
「いいや、勇気出なくってさ。本当に臆病だよな。俺って」
俺には好きな人がいる。
ずっと前から好きだった。
一緒に過ごしているうちに、どんどん魅力にひかれていった。
「クリぼっち、やだなぁ」
「そう思うんだったら、さっさと誘ってこいよ」
1か月前、俺は『好きな人』に「一緒にクリスマス出かけない?」そう言おうと決心した。
ようするにクリスマスデート。
でも結局勇気が出なくて、何も言えなかった。
「もう時間ないぞ」
24日。俺は昔からの親友と2人でクリスマスパーティーをしていた。というか、ただのお話会みたいな感じ。
「ここで言わなかったら後悔するのは分かってる。でもビビって身体が動かないんだよ」
クリスマスデートに誘うというのは、成功すれば最高に嬉しい。けれど断られたら、もう立ち直れないんじゃないかってくらい落ち込む。
だから怖いんだよなぁ。
「知っるか?」
「ん?」
「今、告白をしようかしないか悩んでるとするじゃん」
親友の顔を見ると、それは真剣な表情だった。
「告白して断られて「告白しなければよかったぁ」って後悔するよりも、告白しないで「あの時告白しとけばよかったな」って後悔する方が、よっぽど辛いんだよ」
「……」
「テストやったり時とかさ、早く結果知りたくね?どうなったかなって、ずっとムズムズするじゃん」
「確かに」
「まぁ要するに、挑戦しないで後悔するより、挑戦して砕けて後悔した方がましってことだ」
その言葉で気づいた。確かに今、何もしなかったら今後ずっと後悔する気がする。でもここで勇気を出せば、結果が悪くともスッキリする気がする。
「何もしないでお前自身の青春を終わらせていいのか? 挑戦するのは大事だと俺は思う」
俺は顔に出ていたのかもしれない。
「その顔は覚悟を決めた顔だな」
ありがとう。親友。
「確かあいつ、そろそろ塾終わる時間だったよな? ちょっと行ってくるわ」
「おう、行ってこい」
そして俺は走り出した。
「頑張れよ。お前がリア充になるのを楽しみにしてるぜ」
━━━━━━━
「はぁ、はぁ……」
全力ダッシュしたせいで息切れがひどいな。
時計を見ると、針が10時を示していた。
「そろそろ塾終わる時間だよな」
『好きな人』とは結構話したりしてて、塾の帰りに会うと一緒に帰ったりしていた。だからきっと大丈夫なはず。
「あっ……」
すると塾から出てきた。『好きな人』が。
「え!? どうしてここにいるの?」
驚いた表情をしている。まぁ、当たり前だよな。
「あっ、いやそのな……」
目の前に相手がいるのに、少し言葉が詰まる。
「えーと……」
すると後ろから親友の声が聞こえた気がした。
「頑張れ」
後ろを振り向くと、遠くから静かに親友が見守ってくれていた。
ポケットに手を入れて、寒そうにしている。
その姿を見て、俺は決心した。
ありがとうな親友、今まで俺の恋を応援してくれて。待ってろ。今、言うから。
「あのさ、明日クリスマスじゃん」
「そう、だね」
スゥーっと深呼吸し、君の目をしっかり見て言う。
「明日、一緒に出かけない?」
いや違うな。
もういい。ここまで来たら言っちゃえ、俺!!
「俺とクリスマスデートしてください!!」
頼む頼む!!
こんなに心から願ったことは無い。
君と一緒にいたい。
照れているからなのか、寒いからなのかは分からないけど、君の顔は少し赤くなっていた。
そして君は笑顔で答えてくれた。
「いいよ!!」
視点B
あっ、たぶん今言ったな。
遠くからでも分かる。あの必死の表情。
俺はずっと応援してたよ。お前の青春を。
ほんっとうに。ずっと好きって言っててさ、早く結ばれろよ。とか思ってたりしたよ。
でもそれがいざ、くるって思うと、関係ない俺でさえドキドキする。
「……あれは、」
心から嬉しかった。
あいつも、あいつが好きな人も。
満面の笑みだったんだ。
あぁ、良かったな。本当に良かったな。
「また今度、デートの感想をたっぷり聞かせてもらうとするか」
そうして俺は、心の中で「おめでとう」と思いながら歩き始めた。