強い風が吹いた。
薄い桃色が視界を埋めるほど舞い、踊る。
その瞬間。
4月から通う地元の高校の門を、スケボーに乗りながら出てきた人。
すっと伸びた体躯、意志の強そうな輝きの大きな瞳、ミルクティー色をした短髪。
その全てが花びらとともに私の視界に流れた。
なんて、きれいな。
壊れたごとく瞬きさえ出来ずにただただ見つめる私の横を、つむじ風のように薄桃色の中を通り過ぎたその人を。
あの、全身の血液が熱くなる感覚を。
わたしは今でも鮮明におぼえている。
「胸の鼓動」
幼い日の自分を見ているようだ。
遊びに来ていた息子の友達を見て、いつだったか、ふと思った。
時々する会話が大人びていたり、面白い着眼点をしている。それは感じたことがあった。
けれど帰っていく他の子達をよそに、静かに、誰かがいるこの空間にいる彼は。
きっと、ひとりで家に居るのが嫌だったのだろう。
皆が家に帰る夕暮れ、自転車でどこか家とは逆に。
サッカーボールをカゴに入れ走り去る彼を見た。
そして、仕事が忙しい両親は帰宅が遅いこと。姉が沢山習い事をしているから、休日も姉と母がふたりで出掛けて行くことが多い。と言いながら1度もこちらを見なかったのが頭をよぎる。
きみはきみで、いいんだけどなぁ。
愛されているんだよ、お母さんが話してる姿を見たらわかるもの。だけど伝わるのって難しいんだね。愛情って、難しいね。
息子よりずっと背が高く、何でも出来るから不器用なあの子は。
今きっと、あの時よりもっと、しあわせだと良いな。
そう思いつつ、他の子達と遊ぶ息子越しに赤く染る空を見つめた
「時を告げる」
故郷には海が無かった。
だから若かった私たちは自転車で、制服のまま湖を目指し、浅瀬ではしゃいだ。
何してるの
ふたりでみずうみー
濡れないように携帯で他の子達に話しながら、片手で水中を探る。ちらりと友人を見ると、けらけら笑いながら楽しそうにこちらに水を飛ばしていた。
暑さも、日差しも、透けて見える水中も。
光る水飛沫も、いつも見ていた笑顔も。
思い出に、なった。
tu eres mi media naranja と聞いて、思い出したのは、ずっと一緒だったきみだった。
まるで、ふたつでひとつの貝殻だったように。
いつまでも、一緒だと思っていた。
またね、が永遠に来ないなんて
「貝殻」
流れ星を初めて見た夜。
昔は蓄光して、電気を消したら光る星を天井に貼っていた事を思い出した。
緑色に光る大小の星を、ぼんやりと見つめているといつの間にか眠ってしまう。手を伸ばせば届く星は今もぼくの部屋の天井にあるのだろうか。
手の届かないそれは、あっという間に流れて濃紺より黒い空に溶け込んでいった。
自ら放つ、強い、息を飲むうつくしさ。
あの夜、瞳をビー玉のように輝かせた箒星を。
ぼくは生涯わすれない。
「きらめき」
一期一会。
人生は確かにそうだと思う。
けれど、それなら。悪いところを見つけるより、
素敵なところを見つけたい。
少しでも誰かを、あなたを。
好きで過ごしたい。
いつか会えなくなるかもしれないのなら。
アルバムに残すのは、きらめく方がいい。
それがきっと、宝物になるから。
「些細なことでも」