木綿

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8/23/2023, 12:09:59 PM

世界はとてもひろかった。

成長するまで、きっと、今よりずっとこどもだったぼくらは。箱庭のせかいで優劣を定める、井の中の蛙だった。
それから階段を駆け上がるように進んだせかいは、そのまま世界へ繋がるきらめきを持たない、必要な塩分を持たない水が広がるせかいだった。

そんな、閉鎖的で。ペリーをいつまで待っても来ない水たまりの箱庭を。世の全てと思っていた僕たちは。

幾度も傷を負って痛む手に歯を食いしばり、今までの縁を線で結び、何度も見返してはいかだを作った。

夢、希望、不安、恐怖。いくつもの感情が教科書のページのように風にパラパラとめくれながら、頬を撫でる。
きっと僕らはこの日を。
いつか必ず思い出すのだろう。

いこう、世界へと。進め、これまでの風を捕まえて。

それぞれの、希望の陸地を目指して。


「海へ」

8/22/2023, 7:16:03 PM

きょうだい。だけど全然違う僕と兄。
何をしても、どれだけ頑張っても。
いつだってぼくの上には兄がいた。
いい所を全部もっていったようだと、誰かが言った。

一度でいい、一番になりたい。

ありとあらゆる事で挑んだ。今だから自分の敵は自分自身だと思えるけれど。
ドライアイスのように、もやもやと。
劣等感が全身を包んで、結果を受け入れる度に足先から抜けていく熱意が冷えていった。

いちばんにはなれない。

幼い僕はそれを受け入れ、違う道を歩いた。

そんな事を思い出しながら、ふと大人になった今、呼吸するように尋ねた。なぜいつも、勝てなかったのか。

真面目な兄がそっと、子供のように笑う。

兄としての意地だよ。と

その声は今まででいちばん、優しかった。


「裏返し」

8/21/2023, 1:03:17 PM

時間が流れるから。
日が過ぎるから。
それが普通に明日を連れてくるから。

ぼんやりと。けれども規則的に。
一日を享受して、それぞれの毎日をあるく僕たちは。
本当は、いつだって、自由だ。
自由は楽しくて、全てが自分のものだ。
けれど自由は時としてとても重くて、眠れない夜の静寂より、底の見えない海の紺碧より、ずっと孤独だ。

もしも。もしも。
今では無い、ほんものの自由へ駆けるなら。
きっと光へ向かうのだろう。
夢へと手を伸ばすのだろう。

その背に、唯一の。
自分だけのうつくしい翼を広げて。


「鳥のように」



8/20/2023, 12:09:02 PM

覚えていますか。
あの日、楽しかったことを。
覚えていますか。
あの日、苦しくて辛くて泣いたことを。
覚えていますか。
いつか心に描いた、その夢を。


ありがとう。


覚えていますよ。
あの日の耀く、笑顔を。
覚えていますよ。
悩み苦しむ姿を。その、あふれた感情を。
覚えていますよ。
あなたの、好きなところを。

ありがとう。


また、いつか。どこかで、すれ違うだけでも。
たとえ出会わなくても。

きみがいてくれて。きみに出会えて。
幸せだったこと。

ぼくに、出会ってくれたきみへ。
しあわせを。

ありがとう。


「さよならを言う前に」

8/19/2023, 10:47:23 PM

最後の夏が終わった。
自分が、才能ある選手ではないとわかっていた。
それでも、宙を舞い、刹那に見る空が好きだった。
自分の脚が地を蹴り、全身にかかった別方向の力を。
足先から、重力に逆らって上へ。
たかく、たかく。
自分自身のちからで、空に向かって。

一瞬。

それをまるで、コマ送りのように体感する。
せかいが、自分だけの速さで進む。
刻む時に見える天は、いつも、違って。
僕だけの、今ここだけで見える、色彩だ。

楽しい、だけではなかった。けれど、僕のファインダーが見つめたせかいは。
いつだって、どんな時だって、言葉にするのが勿体無いと思えるほど。

きれいだった。


「空模様」

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