はじめは背中だった。
時間をかけてゆっくりと、生きる姿を。
善し悪しの基準。ものを見る角度。
ひととは、どんなものなのか。
見つめて、知って、幼いそれはぼくに成った。
ふとした事で、誰かが笑う。
表情が反射して、その表情をきみへと綺麗に照らす。
それは瞳を通ってこころへと。
まっすぐに、屈折せず輝きをくれる。
こころは
そのまま心にオーロラをかけるのだろう。
みんな、誰かの言葉や感情越しに
毎日虹色のベールを見ているのだ。
「鏡」
口に手を当てて笑う癖。
人より通る声、才能の存在を体感した日。
劣等感が幕を引いては俯く瞬間。
失いたくないのに、帰らないもの。泣いても、なにも、何一つ変えられない風景。
幸せだと、感じたひとコマ。
愛しているよと、頬を撫でる手の温もり。
きみのえがお。何気なく過ぎた今日という一日。
ご飯が美味しかったとか、誰かの話に笑ったとか、思い返しては小さく笑い、振り返る場面。
続く足跡。綴る軌跡。
全てが細胞のように、新たな僕を作り明日を呼ぶ。
いつだって、ぼくは僕として。
歩いて、笑って、泣いて、怒って。
十二単のように姿を変えて。
たとえ向かい風の中でも
「いつまでも捨てられないもの」
生きる。
日めくりカレンダーのように過ぎる時を。
無造作に、ただ。ただ流れる日々を。
夕焼けが急かして、ぼんやりと飴玉みたいに溶けだした緋を見つめる。
揺れる電車、変わる信号。見つめる、その向こう側。
小さな、かすかな。
目をこらさなければ見えない程の、そんな、自分だけの宝物がそっと、そこに。まぶたにひかる。
些細なことに、笑う誰かの「ありがとう」
それを思い出すと、ふいに唇が弧を描いたのがわかった。
ああ、あれは。
僕だけの、一等星だ。
「誇らしさ」
月が揺蕩う。
水面はこぼれたよるのかけらを、空から拾って
煮詰めた孤独のような黒でゆらゆらと
飲み込んでは、また降るかけらを拾っていた。
静寂に寄せる波が足もとの、砂をさらってはもどす
揺蕩う月が、ほんの少しの光をあつめて
海月のように揺れる。
ああ、この潮の香りに
溶けてしまいたい
そしてこのまま。
このまま。
「夜の海」