あとがき 【落花妃】
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こちらまで目を通してくださりありがとうございます。初めてまして、作者の水蔦まりと申します。
✿【落花妃】について✿
当作は、別名義で某サイトに投稿している作品の、スピンオフとして書き上げたものになります。なかなか筆が進まず、気分転換にこちらを利用させていただきました。
より破天荒に、且つファンタジー要素の要である陰陽師の術なども、もっと丁寧に細かく描きたかったのですが……力及ばず。五十話を目標にしていたので、最後は駆け足になってしまったと反省しています。
リアンも……もうちょっとイケメンになる予定だったんですよ。ジュファの方がかっこよく描けたのは想定内ですが。
リ)「えっ⁉︎」
追加要素を加えて、いつか某サイトでも公開できたらいいなと思います。
リ)「かっこよさマシマシでお願いします」
ロ)「必要なくない?」
リ)「もう十分ってこと⁉︎」
ロ)「もっと面倒になりそうだから本気でやめて」
リ)「みっちゃんお顔が怖いぜ……」
毎日違うお題を戴く中、それに沿ってお話を描くのは思った以上に楽しかったので、またいつか、違うお話を描きに戻ってきたいと思います。
では、最後に小話を一つだけ。
✿ ✿ ✿
「それで?」
「? それで……とは?」
「ポンコツ」
「突然の悪口⁉︎」
「あんぽんたん」
「さらりと出てくる辺り、しょっちゅう呼んでましたね」
「だって、リアンだなんて、私は知らないもの」
「? と、言いますと?」
「私にとっては、今までずっと、良隆は良隆よ」
「……あの頃から何も成長していないと?」
「卑屈になるのもいいけど、いつまでもそうしていていいのかしら」
「またそうやって、僕を弄ぼうとして」
「本当にいいの? 二人ぼっちだけど」
「……?」
「今しかないかもしれないわよ? 気が済むまでできるのは」
「えっ。それって、もしかし」
「はいシンキングタイム終了〜」
「やっぱり弄んでるだけじゃないですか‼︎」
✿ ✿ ✿
素敵な一期一会に感謝を込めて。
またどこかで巡り会えますように。
#二人ぼっち/和風ファンタジー/水蔦まり
最終話 その妃、落花妃也
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「……〜〜〜〜っ‼︎」
突如、真っ赤に顔を染めた馬鹿は、両手で顔面を覆いながら声にならない叫び声を上げた。
「……ジュファ様。一体何したんですか」
しれっと帰ってきたロンには肩を竦めながら、勝手に壊れたとだけ伝えておいた。
「それはそうと、何の話をしていたの?」
「主には今後のことですかね。一先ずは、この“花洛”と呼ばれる国の保護を」
「……その心は?」
「残された人々が、自力で社会に復帰することを望むと」
「また帝みたいなのが現れたらどうするのよ」
「その時は捻り潰すまでですよ」
「あんたもなかなかの悪よねえ」
「あなたほどでは。……ですので、その時はどうぞ、お力をお貸しください」
「その前に嫁と娘ちゃんに会わせなさいよね。あと、飼ってる白いカラスにも」
「ははっ。……ええ勿論」
さて、取り敢えずの方針と自分たちの成すべきことが見えてきたところで。
「それで? 勿論本名くらいは聞いたんだよね?」
「……容量超えてるから、それどころじゃない」
「じゃあ僕が聞く」
「みっちゃん⁉︎ それはズルい――ぐへッ!」
引き留めようとするあんぽんたんを、これでもかと言うほど術で弾き飛ばした陰陽師のロンは、目の前まで来て小さく会釈した。
「不慣れなもので。簡単で申し訳ありません」
「構わないわ。それに……せっかくこうして巡り会えたんだもの。また会う約束も兼ねましょう」
袖の中で両手を合わせたロンは、感謝の意を表すように一度深くお辞儀をした後、片手をそっと差し出した。表情や態度からは、一切の堅苦しさはなくなっていた。
「賀茂 栄光《かも よしみつ》。星の里の長だ」
「改めて、この度は力になってくれてありがとう。あなたがいてくれて本当に助かったわ」
差し出された手を躊躇いなく握ると、彼は少しだけ驚いたような顔をした後、「此方こそ」と年相応の笑顔を返してくれた。
「因みにあいつは、藤原 良隆《ふじわら よしたか》。一応あれでも未来の藤原当主です。改める必要はないでしょうけど」
「ちょっとみっちゃん! 僕からちゃんと言いたかったのに!」
「隅っこで茸育ててるからだよ」
「ジメジメはしてないから!」
「ふふっ。そうね、ジメジメもしてはいないし、よく知ってるから改める必要もないわ」
くすくすと、堪えきれない笑いが治ってから、ふうと一つ、小さく息を吐く。
じっと、此方を見つめてくれている彼等に、最上級の敬意と賞賛、そして感謝を込めて。
「改めまして。私の名前は、橘 葵生《たちばな きき》。橘の末の娘で、幼い頃に罹った結核で死んだことになるまではこの愛すべき馬鹿の許嫁だったけど、こいつの命を守る任務に就いたがために、こうして一つの国を滅ぼす羽目になりました」
「なんか、アレですね。せっかく大仕事を成したんですから、通り名くらい欲しいですよね」
「ちょっと待って⁉︎ 今それよりもすごい大事なこと言ってたよね⁉︎」
「そうだ。“落花妃”なんてどうですか? そのままですけど、わかりやすくて割と衝撃的だし」
「ついでに恐怖心も煽ろうって?」
「流石。よくわかっていらっしゃる」
棒読みでパチパチと手を叩く栄光は、取り敢えずどついておいた。
「互いの真名を教え合ったんだもの。裏切ったら呪い殺すわよ」
「あなたが言ったら洒落になりません!」
「わーこわーい」
「いやそれ、全然思ってないでしょ」
「だって裏切る予定ないし? 今の所はだけど」
「僕だってないわい!」
これがたとえ夢でも……ほんの一瞬でも、何だっていい。
こんなにも幸せな時間を噛み締めることができて、よかった。
……生きていて、本当によかった。
「あの。きっ、……葵生、さん」
「何?」
「一回でいいんで、……抱き締めてもいいですか」
「……なんて?」
「こっ、この、幸せな夢が醒める前に。一瞬でいいんで」
「一体何を言い出すのかと思えば……」
巡り合わせとは不思議なものだ。
まさか、こうして再び関わることになろうとは。
未来というものは、誰にもわからない。
決め付けなければ、無限の可能性があるのだ。
「駄目。というか無理」
「無理⁉︎」
「だから……まあ、後から気が済むまでしたらいいんじゃない?」
「――! ……っ。僕を弄んで、楽しいですか」
「ふはっ。……ええ。とっても?」
これからの未来は不確かだ。
けれど、確かなことが一つだけある。
たとえ、悲しい運命の歯車が回り出したとしても。
たとえ、この先どんな困難が待ち受けていようとも。
「そこで止めるなよ。押せる時に押さなくてどうすんだよ」
「ちょっとみっちゃん! 僕の恋路に文句言わないで⁉︎」
「ふっ。……ほんと、あんたたち仲がいいわねえ」
この絆は、……一生物だということ。
ー完ー
#夢が醒める前に/和風ファンタジー/気まぐれ更新
第四十九話 その妃、破天荒也
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「その前に、せめて返事くらいは聞かせてもらえませんか」
急に肩が重くなる。頬に触れるやわらかな髪がくすぐったい。触れ合う場所が、あたたかい。
何も言わないまま、そっと髪を梳く。僅かに、体が震えた。
もたれかかっていた体が、ゆっくりと離れていく。
それに淋しさを感じる間もなく、今にも触れそうな距離で目が合った。
そうしているうちに、つんと指先が触れ合う。ぎこちなく、遠慮がちに、様子を窺いながら。
きゅっと、指先を握られる。気遣うような強さで。でも、離したくないと、必死さが伝わる強さで。
「……あんたは、本当にいい奴よ。私の我儘にも嫌な顔一つしないし、無茶振りだって叶えてくれたわ」
あんたがどんな人間なのか、なんて。そんなの、誰よりも知ってる。それなのに……。
「ねえ。他にいなかったわけ?」
「いるわけないでしょう」
「物好き」
「……僕では、釣り合いませんか」
「そうは言ってないでしょう」
それを言うなら、此方の方だ。
人として、あんたの足元にも及ばない。たとえお気に入りという先入観がなくても、自慢して歩きたいくらいには、あんたは本当にいい男だ。だから。
「そう言ってくれてありがとう。でも、あんたが求めてる関係にはなれない。……ごめんなさい」
「謝らないでください。結果はわかってましたし、僕にとって重要なのは、そういうことではないので」
「? どういうこと?」
ふっと泣きそうな顔で笑いながら、彼は静かに手を離す。
「あなたが生きていてくれた。……そのことが、僕にとっては何よりも大切で、心の底から嬉しいんです」
離れていった手を、高鳴る胸の衝動のまま追いかけた。
「じ、ジュファ様?」
「馬鹿じゃないの」
あの日、自分の存在を消した時から、全てを諦めた。彼に、全てを捧げるために。
その目に映ることも、話をすることも、触れることさえ、もう叶わないと思っていた。
でもそれは、決め付けていただけに過ぎない。現に父や兄たちは、妹の存在を取り戻してくれた。
結局は、諦めたらそこで終わりなのだ。
なら、……何が何でも諦めて堪るもんですか。
「不確かなことは言えないわよ」
「……はい」
「それでも、いいのね」
「……言ったじゃないですか。僕は、あなたが――」
あなたが生きていてくれたら、それでいいのだと。
そう続く言葉ごと飲み込んでから、強引に掴んで引き寄せた胸倉をそっと離した。
「なら、精々私が迎えに行くまで、いい子で待ってなさい」
「…………え?」
「いいわね」
「え。いや、今……え?」
「返事」
「は、はい⁈」
そもそも、性分じゃないのよ。
ぐだぐだうじうじして、こんなのらしくないじゃない。
「因みに私は、生きてるだけじゃ全然足りないから」
「へ?」
お望み通り、存分に振り回してあげるわ。
“破天荒”らしく、この人生全てを賭けてね。
#胸が高鳴る/和風ファンタジー/気まぐれ更新
第四十八話 その妃、告白される
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「――好きです」
幸せな瞬間に浸っていたというのに、まさかその本人がぶっ壊しにかかるとは。
「ずっと、あなたのことが好きでした」
約束の内容について、全く察しがつかなかったわけではない。でも、流石に今ではないと思っていた。
こんな戦場跡地で告白?
普通に考えて、有り得ないでしょう。
「……あんた、他に何か言うことあるんじゃないの」
たとえば、任務のことについて。
たとえば、死んでいなかったことについて。
そもそも今も昔も、自己紹介すらまともにしてないことを、何も思わないのか。
「それは勿論あるんですけど、改めて聞かなくてもいいかなって」
「理解できないわ」
「……今回のことで多分、僕は今まで知らずにいた“点”を沢山知ったんだと思うんです。だから時間が経てば、それもいずれ“線”になるのかなって」
「それまで待つ神経が、私には考えられないのよ」
「やっぱり待てなかったら、少しずつ聞かせてもらいたいなとは思ってます。でも、知れることは自分で知りたいなと」
「暇人」
「でも、傍にいてくださるんでしょう?」
「……は? いつ、誰がそんなこと言ったのよ」
「さっき父が、当主の座につくまではいてくれると……」
(あんの糞義父め……)
面倒なことにならないよう、約束を聞いたらさっさと影に身を潜めようと思っていたのに。
「え? まさか、さっきの話は嘘だったんですか……」
そんな悲しそうな顔をされては、放っておくことなどできはしない。
「……当主につくまでの話よ。でも、私のことがあんたにバレた以上、もしかするとすぐにでも任を下ろされるかも知れないわね」
これは、可能性の高い話だ。
残念だが、まだこの国には不条理な人々が多く残されているのが現実。国が滅亡の一途を辿るのであれば、彼等が普通の社会で暮らしていくための人員は、多いに越したことはないだろう。内情を知っている人物であれば、その分対応も早くできる。
だから、きっと寂しがるだろうと思っていた。
「それならそれで仕方がありません」
「……は」
「御上の決定は絶対ですし、配下になった以上あなたは逆らえないでしょうから」
「……あんたねえ……」
どうしてそこで、あっさり諦めるのよ。
ここで男気出すわけ?
いつもベタベタ引っ付いてくるくせに!
(そんな風に言ったら、私がそれを求めてるみたいだから絶対言わないけど)
それに、懸念が全くないわけではないのだ。
「……ジュファ様?」
「あんたも見たでしょう」
国の中枢を担っていた輩は、逃げ惑いながら警察の人間たちに捕まえられた。その中には勿論、全てを諦めたかのように呆然と降参した奴等もいる。……しかし。
『こんなに楽しめたのは久々だった。感謝する』
『そう思うならさっさと豚箱にぶち込まれてろ』
『ハハッ。……この礼は、いつか必ず返そう』
『結構よ』
全ての元凶である帝は、まるでそれも知っていたかのように笑っていた。
「悪いけど、あんたの守護の任は下りるわよ。やらなきゃいけないことができたから」
「……帝が、何かをするかも知れないと」
「それもあるけど、今一番問題なのはそうじゃない」
騒ぎに乗じて逃げられぬよう、ロンの結界は十二分に施していた。爆発で逃げ道も封じた。だから、ほぼ全ての人間を捕まえることができたのだ。
……ただ一人、百舌宮の妃を除いては。
「初依って名前も本名じゃないだろうし……」
この国の人間は、俗世から離れるために、本名を捨てる習慣がある。それに加え、呪術などを恐れているからか、近しい者にしか真名は打ち明けないという。
「ならこれからは二人で、その妃を捜しましょう」
「足を引っ張る人間は必要ないわ」
「決め付けないでくださいよ」
「渡した十の守り雛の内、無傷は何人だったのかしら?」
「……も、黙秘します」
「せめて自分の身くらい自分で守れるようになってから出直しなさい」
落ち込む彼の頭をポンポンと撫でながら、自分の言葉を心の中でもう一度反復する。
(自分の身は自分で……ね)
無理矢理持たされた、同じ数の守り雛。雑魚たち相手に必要はないと思っていたが、手持ちの一つだけ、無惨にも首を落とされていた。
前回も同じだった。全く、気が付かない間に。
……百舌妃がいつ逃げたのかも、全く気が付かなかった。
「はあ。次の任に就く前に、山に籠った方がよさそうね」
今度こそ全員、捕まえるために。
そして、……大事なお気に入りに手を出してくれた礼を、きっちり払うためにも。
#不条理/和風ファンタジー/気まぐれ更新
第四十七話 その妃、再会の抱擁を
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過ぎた事を思い返すのは性に合わないが、各所で不規則に爆発が起きる度、正直肝が冷えた。
守護の力に多少覚えがあるとはいえ、両手の数の守り雛だけでは、あのポンコツが自身を護り通すには不足だと感じていたからだ。
それ以前に、彼があそこまで他人を煽るとは思わなかった。似せたのか、それとも本音だったのかは、敢えて聞きはしないが。
でも、それも全て杞憂に終わった。
元々はロンが身バレをしないようにと、提案した入れ替えの術。それがまさか、蓋を開けてみればこうなるとは誰が予想したことか。
『どうしても譲りたくなかったようですよ。あなたを護るのは自分だと』
何はともあれ、立候補しただけのことはあった、ということで。今は、仲間たちに感謝をしよう。
「……それで? まさかとは思うけど、泣いてるの?」
御上たちと、報告のついでに幾らか言葉を交わした後、彼等はロンを連れてあっという間に立ち去っていった。
大半の人間は捕縛していたが、その他色々と後処理があるのだろう。現場は類を見ない程に悲惨だから。
その背中を見送っていると、隣からは鼻を啜る音が聞こえ始める。暫く待っても止まりそうにないので、思わず問い糺したのだ。
「な、泣いてないです」
「じゃあ今から泣くのね」
「泣かないですよ!」
その気持ちが、全くわからないわけじゃない。斯くいう自分でさえ、思わず胸が詰まったのだから。
“藤の花”は、御上の右腕である“藤原”の家紋を示すもの。そして“橘の花”は、左腕である“橘”の家紋を示すもの。
つまり、御上の側に支えていたのは、藤原と橘の当主――我々の実の父親に他ならなかった。
『積もる話もあるだろう。それくらいの時間ならやらんでもないさ』
五分だけだぞと、ひらひら手を振る相変わらずの御上に苦笑を浮かべていると、藤原の当主が一歩前へと踏み出す。
『何だこの有様は』
その一言で、隣の男は身を縮こませた。自分に向けられたものだと思ったのだろう。
『早期に問題を解決しただけに過ぎませんわ』
『だから、これだけの爆弾を使う必要があったと』
『ええ。大事な御子息を護るには必要だったので』
『そういう割には、息子の頬に傷がついているように見えるが』
『傷ではなく汚れですね』
『血がついているように見えるが?』
『何かの染料ですよきっと』
だから、完全親馬鹿発言に頭がついていかないのだ。そもそも大事でなければ、守護の依頼など来るわけがないというのに。
まあ、守られていること自体知らないのだから、それも無理ない話か。
喧嘩になりそうなところへ、今度は実の父親が割り込んで止めに入る。それはいつもの光景だった。
『無事で、……っ。よかった』
『……お、とう、さま……?』
それが崩れたのは、“父親としての五分”を御上がわざわざ与えてくれたからだ。
『お前は、いつも無茶ばかりする』
『性分ですから』
『私や兄たちの心臓を、少しは心配しなさい』
『ふふ。善処致しますわ』
父親を抱き締め返す腕の中で、そっとその隙間から隣を覗くと、今までずっと抱えていた張り詰めていたものが、ゆっくりと解けていくのが目に見えてわかる。反対を見ると、嬉しそうに微笑むロンと目が合った。
それは、愛すべきお馬鹿な彼が、ようやく愛されているのだと、実感できた瞬間だった――。
#泣かないよ/和風ファンタジー/気まぐれ更新