水蔦まり

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第四十七話 その妃、再会の抱擁を
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 過ぎた事を思い返すのは性に合わないが、各所で不規則に爆発が起きる度、正直肝が冷えた。
 守護の力に多少覚えがあるとはいえ、両手の数の守り雛だけでは、あのポンコツが自身を護り通すには不足だと感じていたからだ。

 それ以前に、彼があそこまで他人を煽るとは思わなかった。似せたのか、それとも本音だったのかは、敢えて聞きはしないが。


 でも、それも全て杞憂に終わった。

 元々はロンが身バレをしないようにと、提案した入れ替えの術。それがまさか、蓋を開けてみればこうなるとは誰が予想したことか。


『どうしても譲りたくなかったようですよ。あなたを護るのは自分だと』


 何はともあれ、立候補しただけのことはあった、ということで。今は、仲間たちに感謝をしよう。




「……それで? まさかとは思うけど、泣いてるの?」


 御上たちと、報告のついでに幾らか言葉を交わした後、彼等はロンを連れてあっという間に立ち去っていった。
 大半の人間は捕縛していたが、その他色々と後処理があるのだろう。現場は類を見ない程に悲惨だから。

 その背中を見送っていると、隣からは鼻を啜る音が聞こえ始める。暫く待っても止まりそうにないので、思わず問い糺したのだ。


「な、泣いてないです」

「じゃあ今から泣くのね」

「泣かないですよ!」


 その気持ちが、全くわからないわけじゃない。斯くいう自分でさえ、思わず胸が詰まったのだから。





 “藤の花”は、御上の右腕である“藤原”の家紋を示すもの。そして“橘の花”は、左腕である“橘”の家紋を示すもの。

 つまり、御上の側に支えていたのは、藤原と橘の当主――我々の実の父親に他ならなかった。



『積もる話もあるだろう。それくらいの時間ならやらんでもないさ』


 五分だけだぞと、ひらひら手を振る相変わらずの御上に苦笑を浮かべていると、藤原の当主が一歩前へと踏み出す。


『何だこの有様は』


 その一言で、隣の男は身を縮こませた。自分に向けられたものだと思ったのだろう。


『早期に問題を解決しただけに過ぎませんわ』

『だから、これだけの爆弾を使う必要があったと』

『ええ。大事な御子息を護るには必要だったので』

『そういう割には、息子の頬に傷がついているように見えるが』

『傷ではなく汚れですね』

『血がついているように見えるが?』

『何かの染料ですよきっと』


 だから、完全親馬鹿発言に頭がついていかないのだ。そもそも大事でなければ、守護の依頼など来るわけがないというのに。
 まあ、守られていること自体知らないのだから、それも無理ない話か。


 喧嘩になりそうなところへ、今度は実の父親が割り込んで止めに入る。それはいつもの光景だった。


『無事で、……っ。よかった』

『……お、とう、さま……?』


 それが崩れたのは、“父親としての五分”を御上がわざわざ与えてくれたからだ。


『お前は、いつも無茶ばかりする』

『性分ですから』

『私や兄たちの心臓を、少しは心配しなさい』

『ふふ。善処致しますわ』


 父親を抱き締め返す腕の中で、そっとその隙間から隣を覗くと、今までずっと抱えていた張り詰めていたものが、ゆっくりと解けていくのが目に見えてわかる。反対を見ると、嬉しそうに微笑むロンと目が合った。


 それは、愛すべきお馬鹿な彼が、ようやく愛されているのだと、実感できた瞬間だった――。






#泣かないよ/和風ファンタジー/気まぐれ更新

3/17/2024, 4:02:09 PM