第四十八話 その妃、告白される
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「――好きです」
幸せな瞬間に浸っていたというのに、まさかその本人がぶっ壊しにかかるとは。
「ずっと、あなたのことが好きでした」
約束の内容について、全く察しがつかなかったわけではない。でも、流石に今ではないと思っていた。
こんな戦場跡地で告白?
普通に考えて、有り得ないでしょう。
「……あんた、他に何か言うことあるんじゃないの」
たとえば、任務のことについて。
たとえば、死んでいなかったことについて。
そもそも今も昔も、自己紹介すらまともにしてないことを、何も思わないのか。
「それは勿論あるんですけど、改めて聞かなくてもいいかなって」
「理解できないわ」
「……今回のことで多分、僕は今まで知らずにいた“点”を沢山知ったんだと思うんです。だから時間が経てば、それもいずれ“線”になるのかなって」
「それまで待つ神経が、私には考えられないのよ」
「やっぱり待てなかったら、少しずつ聞かせてもらいたいなとは思ってます。でも、知れることは自分で知りたいなと」
「暇人」
「でも、傍にいてくださるんでしょう?」
「……は? いつ、誰がそんなこと言ったのよ」
「さっき父が、当主の座につくまではいてくれると……」
(あんの糞義父め……)
面倒なことにならないよう、約束を聞いたらさっさと影に身を潜めようと思っていたのに。
「え? まさか、さっきの話は嘘だったんですか……」
そんな悲しそうな顔をされては、放っておくことなどできはしない。
「……当主につくまでの話よ。でも、私のことがあんたにバレた以上、もしかするとすぐにでも任を下ろされるかも知れないわね」
これは、可能性の高い話だ。
残念だが、まだこの国には不条理な人々が多く残されているのが現実。国が滅亡の一途を辿るのであれば、彼等が普通の社会で暮らしていくための人員は、多いに越したことはないだろう。内情を知っている人物であれば、その分対応も早くできる。
だから、きっと寂しがるだろうと思っていた。
「それならそれで仕方がありません」
「……は」
「御上の決定は絶対ですし、配下になった以上あなたは逆らえないでしょうから」
「……あんたねえ……」
どうしてそこで、あっさり諦めるのよ。
ここで男気出すわけ?
いつもベタベタ引っ付いてくるくせに!
(そんな風に言ったら、私がそれを求めてるみたいだから絶対言わないけど)
それに、懸念が全くないわけではないのだ。
「……ジュファ様?」
「あんたも見たでしょう」
国の中枢を担っていた輩は、逃げ惑いながら警察の人間たちに捕まえられた。その中には勿論、全てを諦めたかのように呆然と降参した奴等もいる。……しかし。
『こんなに楽しめたのは久々だった。感謝する』
『そう思うならさっさと豚箱にぶち込まれてろ』
『ハハッ。……この礼は、いつか必ず返そう』
『結構よ』
全ての元凶である帝は、まるでそれも知っていたかのように笑っていた。
「悪いけど、あんたの守護の任は下りるわよ。やらなきゃいけないことができたから」
「……帝が、何かをするかも知れないと」
「それもあるけど、今一番問題なのはそうじゃない」
騒ぎに乗じて逃げられぬよう、ロンの結界は十二分に施していた。爆発で逃げ道も封じた。だから、ほぼ全ての人間を捕まえることができたのだ。
……ただ一人、百舌宮の妃を除いては。
「初依って名前も本名じゃないだろうし……」
この国の人間は、俗世から離れるために、本名を捨てる習慣がある。それに加え、呪術などを恐れているからか、近しい者にしか真名は打ち明けないという。
「ならこれからは二人で、その妃を捜しましょう」
「足を引っ張る人間は必要ないわ」
「決め付けないでくださいよ」
「渡した十の守り雛の内、無傷は何人だったのかしら?」
「……も、黙秘します」
「せめて自分の身くらい自分で守れるようになってから出直しなさい」
落ち込む彼の頭をポンポンと撫でながら、自分の言葉を心の中でもう一度反復する。
(自分の身は自分で……ね)
無理矢理持たされた、同じ数の守り雛。雑魚たち相手に必要はないと思っていたが、手持ちの一つだけ、無惨にも首を落とされていた。
前回も同じだった。全く、気が付かない間に。
……百舌妃がいつ逃げたのかも、全く気が付かなかった。
「はあ。次の任に就く前に、山に籠った方がよさそうね」
今度こそ全員、捕まえるために。
そして、……大事なお気に入りに手を出してくれた礼を、きっちり払うためにも。
#不条理/和風ファンタジー/気まぐれ更新
3/18/2024, 3:33:00 PM