この目で見た物しか信じない。
この耳で聞いた物しか信じない。
嗅いで、味わって、触れたものしか。
だから形の無い『愛』は信じられないが、
キミの紅潮した頬と俺の手を握った手の震えと、上擦った声は信じてやろうと思う。緊張しすぎて言葉になってないけどな。
「俺も愛してるよ」
『五感を信じる』
……顔が赤いのはアルコールのせいなんかい。
(私の名前)
作者の自我コーナー
いつもの。私の名前ではないです。
離れていても空は繋がっている。よく聞くフレーズが俺にはずっとピンと来なかった。
個人の仕事だからといって俺に何も告げずに地球の裏側まで行ってしまったあいつ。言われたとて、「そうか」としか言いようがないのだが、俺以外は知っていたということが拍車をかけて苛立たせる。
『え、伝えられてへんの?』と三者三様に驚く顔。『まぁ、ドンマイ』って、別に落ち込んでへんわ!
こいつらのようにお土産を渡し合う訳でもない。土産話をする程仲良しでもない。仲が悪いってこともない、空気のようなものだ。そこに居るのが当たり前、だから居ないと調子が狂う。
寂しい、とは違った感情のように思う。
「まぁ、空は繋がってますし」
なんの慰めかムードメーカーがそんなこと言って、なんだかんだ寂しがりのあいつに青空が入った俺たちの自撮り写真を送ると、すぐに写真が返ってきた。
ドアップの顔と窓が写っている。人のこと言われへんけど自撮り下手くそやねんお前。目が更に強調されてるから、写真ですら目逸らしてもうたやんけ。
ドアップだから肌質まで分かる。
向こうの食が合っていないのか肌が荒れていた。
最近やっと綺麗になってきてたのに。
「真っ暗やな」
ポチポチと何かを調べていた子があっ、と声を上げた。
「向こうとこっち時差が半日ある!」
起こしてもうたかなぁ、と心配する優しい子。
現在時刻はお昼過ぎ、ということはあっちはド深夜か。
心配する彼には悪いが、返信が早かったということは起きていたということだ。あいつ寝れてへんねん。最悪、寝なくても大丈夫だとか考えているのだろう。というか、
「なんか光ってへん?」
寝れないんだろう、あのナリで怖がりだから。
部屋が同室の時、何度布団に包まって怖がるあいつを見たか。
目を涙と一緒に溢してしまいそうなくらいうるうるさせるから、俺はため息をついてしゃあないなぁ感を装って、自分の布団に招き入れたのだった。泣いてる子の慰め方なんて、抱きしめるか頭ポンポンしか思いつかなかった。あとキスとか。
阿呆な餓鬼がしたことやから、大目にみたってくれ。時効や。
強くなった、と思っていたがそういう所は変わっていないらしい。勝手な意見だが辞めてほしいなと思う。俺の中のお前の輪郭がブレていくから、俺がいないとダメなあの頃のお前が今もいるんじゃないかと期待してしまうから。
また腕の中に閉じ込めて、キスをしたら、へにゃりと安心した顔をして眠ってくれるんじゃないかって。
でもそれを試すことすら出来ない。
「……ちゃうやんけ」
離れていても同じ空の下?繋がっている?――全然違う。
季節も天候も違う、見ている空の色が違う。
それでも同じなのか?そんなの納得がいかない。
同じ世界に生きている、それだけで満足なんて殊勝な考えは持ち合わせていない。少なくとも、あいつに関しては。
俺は、手放す気など毛頭ないのだ。
「あいつ、いつ帰ってくるん?」
「ほんまになんも聞いてへんの?」
「あと1週間後くらい?」
「……絶対メシ誘うなよ」
「おっ、ついに?」
「どういう心境の変化?」
「フリ?」
「ちゃうわ!なんやねんよってたかって!」
「おかんと仲良うしてなぁー」
「誰がおとんやねん!!」
「「言うてへん笑」」
空を見上げて心に浮かんだこと
(隣に君がいなきゃ意味が無い)
作者の自我コーナー
いつもの。強欲な彼の話。
最近はサボり気味だったのですが、夫婦の記念日だけは書きたかった。油断するとセリフばかりになりますね。
作者の自我コーナー番外編
小学生の頃、私の全ては友だちでした。まだ趣味も何も持っていない頃、私には友だちしかありませんでした。
ひょうきんな子でした。勉強が苦手で、かと言って運動が出来るわけでもなく、可愛いわけでもない。
カーストで言うと下の中くらいの位置の子。
でも愚かな私にはあの子がすべてでした。
あの子に新しい『お気に入り』が出来たら、酷く焦りましたし、その『お気に入り』がどれだけ私に懐いてきても疎ましくて仕方がありませんでした。
今でもその子は私を慕ってくれるのですが、幼い私には見る目がありませんでした。大嫌いでしょうがなかった。
あの子を私から奪うそれが。
私の学校生活はあの子の機嫌を損ねないようにするというミッションだけで成り立っていました。拗ねると面倒くさいから。
よく回る口で詰ってくれたらいいのに、あの子は口を閉ざすのです。そうして周りの子と示し合わせたように私の存在を教室から消去するのです。
人を居ないものにするのが上手な子でした。ちょっかいを出してみても、目の前に手をチラつかせてみてもなーんにも反応しませんでした。
そうしてしばらく透明人間になった私をいきなり見つけてくれるのもあの子でした。私の存在の有無はあの子の気まぐれ。
2度大きな喧嘩をしたことがあります。と言ってもやっぱり一方的に存在を消されただけなのですが。
2週間ほど私は授業中以外は透明人間でした。でも運動会の練習中コケて、血だらけになった私にあの子は真っ先に近づいてくれました。
喧嘩は有耶無耶になって、またいつも通りに戻りました。それが良くなかったのかもしれません。
私とあの子は一度も向き合うことが出来なかったから。
2度目の喧嘩のときも同じように私は怪我をしました。
別に、故意にした訳ではありません。でも、駆けつけてくれたのはあの子じゃなくて、疎ましくて仕方なかったあの『お気に入り』でした。
それから私はあの子の視界から消えたまま。同じように『お気に入り』もあの子の視界から消え、私の元に来てくれました。
でも、私が欲しかったのは。
未だに同じ名字や名前の子に出逢うと身体が強ばります。
人を信用するのが怖くなりました。心の内を見せられなくなりました。あの頃馬鹿みたいにさらけ出していた心の内を今度は馬鹿みたいに頑丈な檻に仕舞い込むようになりました。
なのにあの子、人の気持ちが分かるようになった。って
じゃあ私は人じゃなかったのかもしれない。
これが私の最初で最後の『友だちの思い出』です。
ここではないどこか、今ではないいつかでお会いしましょう。と言ったっきり彼は居なくなってしまった。
彼がいた証は、文字しかない。しかしデジタルタトゥーというものは凄いもので、世界が彼を消しても世間は彼を残してくれた。同じ話題、同じ声色、同じ風景。
彼の言葉をなぞれるようになって、彼が帰ってこないことを理解した。
ある日彼は帰ってきた、同じ声色、同じ趣味、でも違う姿形。
話題がそっくりだって、趣味がそっくりだって、思考がそっくりだって、似たような言葉選びだって、聞きたかった言葉は聞こえない。
『彼ではないだれか』
作者の自我コーナー
お題を見たときにあの胡散臭い声と顔が思い浮かびました。今のあの人も好きだけど、やっぱり求めているのは別物。
こんな1年後を誰が想像しただろうか。
1年前に計画された時から大幅に狂った1年後。色んなものが変化した1年後。何を信じればいいのか分からなくなった1年後。
対面には異様な高揚感に包まれた彼が、マイクに齧り付くように叫んでいた。長年一緒にいるのに初めて見る彼の姿。
酸欠で回らない頭はてんで役に立たなくて、紡がれる言葉はとても正直で単純な『楽しかった』。謎のテンションでみんなを置いていく、MCとしてはグダグダだ。
それでもいい、そういう時の為に俺がいるのだ。
そうやってバランスを俺たちは取ってきたのだから。
先日の借りはこれで返済やな。
マイクを口元に持っていく。
ああ、幸せだ。まさかこんな1年後が待っているなんて!
『うちのーー』
(手を繋いで掲げよう、俺たちは最高で最強だ)
作者の自我コーナー
いつもの。タイムリーな話題だったので。
この前書いた話と対っぽくなっているといいな。
楽しそうな彼等を見れて幸せな日々でした。