回顧録

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離れていても空は繋がっている。よく聞くフレーズが俺にはずっとピンと来なかった。



個人の仕事だからといって俺に何も告げずに地球の裏側まで行ってしまったあいつ。言われたとて、「そうか」としか言いようがないのだが、俺以外は知っていたということが拍車をかけて苛立たせる。
『え、伝えられてへんの?』と三者三様に驚く顔。『まぁ、ドンマイ』って、別に落ち込んでへんわ!

こいつらのようにお土産を渡し合う訳でもない。土産話をする程仲良しでもない。仲が悪いってこともない、空気のようなものだ。そこに居るのが当たり前、だから居ないと調子が狂う。

寂しい、とは違った感情のように思う。

「まぁ、空は繋がってますし」

なんの慰めかムードメーカーがそんなこと言って、なんだかんだ寂しがりのあいつに青空が入った俺たちの自撮り写真を送ると、すぐに写真が返ってきた。
ドアップの顔と窓が写っている。人のこと言われへんけど自撮り下手くそやねんお前。目が更に強調されてるから、写真ですら目逸らしてもうたやんけ。
ドアップだから肌質まで分かる。
向こうの食が合っていないのか肌が荒れていた。
最近やっと綺麗になってきてたのに。

「真っ暗やな」
ポチポチと何かを調べていた子があっ、と声を上げた。
「向こうとこっち時差が半日ある!」
起こしてもうたかなぁ、と心配する優しい子。
現在時刻はお昼過ぎ、ということはあっちはド深夜か。
心配する彼には悪いが、返信が早かったということは起きていたということだ。あいつ寝れてへんねん。最悪、寝なくても大丈夫だとか考えているのだろう。というか、
「なんか光ってへん?」
寝れないんだろう、あのナリで怖がりだから。


部屋が同室の時、何度布団に包まって怖がるあいつを見たか。
目を涙と一緒に溢してしまいそうなくらいうるうるさせるから、俺はため息をついてしゃあないなぁ感を装って、自分の布団に招き入れたのだった。泣いてる子の慰め方なんて、抱きしめるか頭ポンポンしか思いつかなかった。あとキスとか。
阿呆な餓鬼がしたことやから、大目にみたってくれ。時効や。

強くなった、と思っていたがそういう所は変わっていないらしい。勝手な意見だが辞めてほしいなと思う。俺の中のお前の輪郭がブレていくから、俺がいないとダメなあの頃のお前が今もいるんじゃないかと期待してしまうから。
また腕の中に閉じ込めて、キスをしたら、へにゃりと安心した顔をして眠ってくれるんじゃないかって。
でもそれを試すことすら出来ない。

「……ちゃうやんけ」

離れていても同じ空の下?繋がっている?――全然違う。
季節も天候も違う、見ている空の色が違う。
それでも同じなのか?そんなの納得がいかない。
同じ世界に生きている、それだけで満足なんて殊勝な考えは持ち合わせていない。少なくとも、あいつに関しては。
俺は、手放す気など毛頭ないのだ。

「あいつ、いつ帰ってくるん?」
「ほんまになんも聞いてへんの?」
「あと1週間後くらい?」
「……絶対メシ誘うなよ」
「おっ、ついに?」
「どういう心境の変化?」
「フリ?」
「ちゃうわ!なんやねんよってたかって!」
「おかんと仲良うしてなぁー」
「誰がおとんやねん!!」
「「言うてへん笑」」

空を見上げて心に浮かんだこと
(隣に君がいなきゃ意味が無い)


作者の自我コーナー
いつもの。強欲な彼の話。
最近はサボり気味だったのですが、夫婦の記念日だけは書きたかった。油断するとセリフばかりになりますね。

7/17/2024, 6:10:13 AM