回顧録

Open App

作者の自我コーナー番外編


小学生の頃、私の全ては友だちでした。まだ趣味も何も持っていない頃、私には友だちしかありませんでした。
ひょうきんな子でした。勉強が苦手で、かと言って運動が出来るわけでもなく、可愛いわけでもない。
カーストで言うと下の中くらいの位置の子。

でも愚かな私にはあの子がすべてでした。
あの子に新しい『お気に入り』が出来たら、酷く焦りましたし、その『お気に入り』がどれだけ私に懐いてきても疎ましくて仕方がありませんでした。
今でもその子は私を慕ってくれるのですが、幼い私には見る目がありませんでした。大嫌いでしょうがなかった。
あの子を私から奪うそれが。

私の学校生活はあの子の機嫌を損ねないようにするというミッションだけで成り立っていました。拗ねると面倒くさいから。
よく回る口で詰ってくれたらいいのに、あの子は口を閉ざすのです。そうして周りの子と示し合わせたように私の存在を教室から消去するのです。
人を居ないものにするのが上手な子でした。ちょっかいを出してみても、目の前に手をチラつかせてみてもなーんにも反応しませんでした。
そうしてしばらく透明人間になった私をいきなり見つけてくれるのもあの子でした。私の存在の有無はあの子の気まぐれ。

2度大きな喧嘩をしたことがあります。と言ってもやっぱり一方的に存在を消されただけなのですが。
2週間ほど私は授業中以外は透明人間でした。でも運動会の練習中コケて、血だらけになった私にあの子は真っ先に近づいてくれました。
喧嘩は有耶無耶になって、またいつも通りに戻りました。それが良くなかったのかもしれません。
私とあの子は一度も向き合うことが出来なかったから。
2度目の喧嘩のときも同じように私は怪我をしました。
別に、故意にした訳ではありません。でも、駆けつけてくれたのはあの子じゃなくて、疎ましくて仕方なかったあの『お気に入り』でした。
それから私はあの子の視界から消えたまま。同じように『お気に入り』もあの子の視界から消え、私の元に来てくれました。

でも、私が欲しかったのは。



未だに同じ名字や名前の子に出逢うと身体が強ばります。
人を信用するのが怖くなりました。心の内を見せられなくなりました。あの頃馬鹿みたいにさらけ出していた心の内を今度は馬鹿みたいに頑丈な檻に仕舞い込むようになりました。

なのにあの子、人の気持ちが分かるようになった。って
じゃあ私は人じゃなかったのかもしれない。



これが私の最初で最後の『友だちの思い出』です。

7/7/2024, 6:50:47 AM