何度も否定しようとした。
気のせいだと、勘違いだと思おうとした。
何度も相手を他に作った、違う人を愛そうとした。
何度も諦めようとした。
どうせ叶わないと、捨てようとした。
持っていたってどうしようも無いのだから。
だけど、お前が俺の名前を呼ぶだけで、
俺と目を合わせるだけで、笑っているだけで、
ただそれだけのことで
またお前に不毛な恋をする、してしまう。
『何気ないふり』をまた、俺は繰り返す。
ーーこの恋が、消え失せるまで。
作者の自我コーナー
いつものショートです。久しぶりにタイトル通り独白。
冷めるじゃなくて消失がポイントです。
何年かぶりに同郷の先輩から会えないかと連絡が来た。
会いたいのは山々だが海外出張中だったので、
向こうからの要望でビデオ通話になった。
デスクトップを立ち上げ、外付けのマイクとカメラを起動する。この4、5年で慣れた動作だ。
昔なら面倒くさかったが、これが当たり前になっている今は
重宝している。
招待がかかった。リンクを開くと逆さになった先輩が写った。
「先輩逆さになってます」
『え逆さ?これどうやって治すん?うわっ、左右反転なってもうた!』
相変わらずのパソコン音痴っぷりだ。俺に実害がないからだろうか、ほっとする。世間は変わってもこの人は変わらない。
オンラインミーティングとかそれで出来たんだろうか?
その疑問はすぐに解消されることとなる。
『うわどうしよ壊したかな……しんじさーん!画面が反対なってんけどどないしたらいいんやろ〜』
誰を呼んでいるんだろうか、確か先輩は一人暮らしだったはず、結婚したとか?なるほど話したかったことはそれか。
『どうした?ああ、カメラの向きが逆だな』
どこかで聞いたことのある男性の声がする。
いや、でもそんな訳ないよな。ここは職場では無いし。
カメラを調整しているのか映像が切られて音声だけになる。
『本当にきみはスライドショーの扱いといい、機械苦手だね』
『だから俺、営業の方が向いてるって言うたやん!』
…………そんなまさかがあった。あれは部長の声だ。
え、部長と先輩一緒に住んでるのか?それにしても先輩思いっきり部長にタメ口……というか、名前を呼んでいた気が。
『すまなかったね、見苦しいところをお見せして』
映像が復帰したと同時に先輩とは違う、眼鏡を掛けた男性が現れた。
部長だった、左手の指輪がなくなっていたが、確かに部長だった。
「ご無沙汰しております、部長」
『堅苦しい挨拶は抜きにしよう、今日はプライベートの場だろう?』
「は、はい」
とは言え直属の上司に対して寛げる訳もない。先輩が戻ってくるのを今か今かと待っていると何やら箱を取りだした。
『ごめんなぁ、忙しいのに付き合わせて』
「いやいや俺も連絡取りたかったんで……、でお2人って…」
『気づいた?』
「誰でも気づきますよ、こんなの。……やっぱり今日の電話って」
『それはそうなんやけど、それだけとちゃうねん今日は、お前に証人になってほしくて』
「『証人?』?」
声が重なる。部長も首を傾げている。
おい、報連相どうなってんだ。
『信治、いや村山信治さん。俺と家族になってください』
『…………え、』
箱を開くと腕時計が飾られていた。
あ、先輩も同じのつけてる。ペアウォッチって奴か。
なかなか洒落たことするなぁ、先輩。
部長はなかなか状況を把握しきれていないようだ。
才気煥発、泰然自若な部長にしては珍しい。
こういうのも先輩にとってはツボなんだろう。腹立つくらい顔緩んでるし。
『俺で、いいのか?もっと将来のある若い子とか、きみは子ども好きだし……引く手あまたなのに、俺なんて…』
『あんた以外いらん』
バッサリ切り捨てた、うわ、この人こんなカッコいいんや。
『子どもは好きやけど、信治さんも面倒見ええから手かかるん好きやろ?やから要らん。恋人が出来たら離婚するんやったやろ?それでしたやん。奥さんよりも添い遂げたい人が出来たってことやろ?それが俺なんやろ!俺も一緒や?離婚するまでずっと待っとってん、それ今更手放さんわ』
撤回する。この人想像上のガキに嫉妬するヤバい人で、
相当重たい愛の人だ。
でも部長はときめいてるっぽい。どこに?全然分からん。
『…こちらこそよろしくお願いします』
『よっしゃ、聞いてた涼?』
「あ、はい」
『おっし、じゃあ今日はありがとうな!また何かあればよろしく!』
言いたいことだけ行ってホストが退出した。
あ、部長から連絡入ってる後で確認しようっと。
にしても、先輩公開プロポーズってなかなかやるなぁ。
男だし、部長だし。なんで証人俺だったんだろう。
部下だから?俺なら偏見を持たないと思ったのだろうか。
離婚もまあまあのニュースだった。
てことは今、先輩と部長同棲してるのか?
あの感じベッド一緒だろうな……これ以上考えるのはやめておこう、鳥肌立ってきた。
何はともあれ、お幸せに。
『ハッピーエンド』
作者の自我コーナー
実はこちらもいつもの二人原型留めてないパロ。
必ず登場人物誰か一人は関西弁にしたい病。
ハッピーエンド至上主義者なので、お題にされると逆に難しかったです。割と難産。
あれ?でも本人たち幸せそうならいっか!って話。
ちなみにメリバはハッピーエンド派です。
その茶色い瞳に見つめられると、どうすればいいか分からなくなる。あんたと俺の視線は交わらないのが普通で、あんたの瞳の中に俺がいるところなんて、もう20年は見ていないのではないだろうか。なぜならあんたは照れ屋だから、俺が見ていない時はじいっと俺を見る癖に、一度俺が目線を向けると逸らしてしまう。
あまり俺たちのことを知らない世間様からは不仲だなんて取り沙汰されたが、これが俺たちの普通なのだ。寧ろ、ただでさえ照れ屋なあんたが特に俺に対して大袈裟に顔を赤くするのは気分がいい。一瞬視線がかち合っただけなのに、バッて逸らしたり、その癖人の一挙手一投足独り言をよく見ている。
俺のことを意識しすぎでは?目は口ほどに物を言うとはよく言ったものだ。あんたの場合は目線が物言ってるけど。
ところが最近目が合うようになってきた。普通なら目が合うことを喜ぶのだろうが、俺は心が冷えたような気がした。
ーーもう俺では照れなくなくなってしまったのだろうか。あんたの特別にいると思っていたのは俺だけだった?もうドキドキしない?俺のことなんてどうでもよくなっちゃった?
そんなしみったれた考えが湧き出してくる。
俺にとってもあんたは特別だったのかもしれない。
「最近はお前の方が目逸らすな」
「あんたに見られるの落ち着かんねん」
「お前でも照れることあんねんな」
「それぐらいするわ…なんやと思ってんねん……」
「俺の目見てや、なあ」
ヒヤリとした手が頬に当てられる。
なんのスイッチ入ったんだろうかこの人。
大人しくそのまま目の前の人物に目線を合わせる。
にらめっこでもするつもりか?
従ったというのに何も無い無言の時間が流れる。
何がしたいねん。ただ時間を浪費されたことに舌打ちした。
「8秒、」
「はぁ?」
「8秒目逸らさへんかったら好きやねんて相手のこと」
「しょーもな、そんなんインターネットの眉唾もんやろ。第一俺の目ぇ見ぃ言うたんはそっちやんか」
「お前はな」
綺麗な顔がニヒルに笑う。面倒くさい、まどろっこしい、
いつも汲み取ってくれると思ったら大間違いやぞ。
「俺も8秒目逸らさんかった。わからん?」
「……わからん……やってそんなん、ずるいわ」
「俺が狡いくらい知ってたやろ」
「あんた、最近目合うやん」
「照れてたらいつまでも変わらんからな」
「俺に飽きたんかって……」
「お前には一生飽きひんよ。不安にさせてごめん」
親指が目の縁を拭う。
自分の意志に反して零れるねん、もう歳やなぁ。
「俺アホやな、早くお前の目見れるようになればよかった。
俺の事見てるヒナこんなに可愛いのに」
「そもそも意識しすぎて目見られへんようになったんがアホやねん。避けよって……小学生か!」
「いやお前このくりくりきゅるきゅるした目に耐えられると思ってるんか!?お前この目に見つめられてないから言えんねんそんなこと!ほんま今の今までよお手出さんかったわ!」
「手出すって……嘘やん」
信じられない。逆ギレ同然でとんでもないことを言いやがる。
この人めっちゃ俺のこと好きやん。まどろっこしいことしてへんと俺も素直になればよかった。
「……出してもええよ」
「えっ、いやそれは、アカンやろ……」
「ヨコ!」
一喝して黙らせる。
自分の言うことに従ってるだけやと思ってるやろ、あんた。
あんたの中の俺はいつもあんたに従順で何でもする。
そんな訳が無い。
あんたは知らんだけ、あれはただの利害の一致。
顔を両手で掴んで額同士がくっつくまでの距離に寄せる。
ヨコの瞳を介して俺の瞳の中にいるヨコと目が合う。
こんなに近いとここまでくっきり見えるものなのだな。
「確かに俺の目めっちゃくりくりしてんな」
「人の目ぇ鏡代わりにすんなよ」
「でもあんたの目の方が好きやわ」
柔らかい唇の方が好きやけど。チュッといつもあんたがするように音を立てて唇を離す。
「こいつの反対、わからん?笑」
「……そんなに煽られるともう手を出すしかないんですけど」
「うはは」
「こんなキスじゃ足りひんけどかまへん?」
隣に座ろうとしたら膝に乗せられて、視線が絡む。
すらっとした指が俺の髪を撫でるように梳いた。
ちょっと俺達にしては甘ったるくてくすぐったい。
おそらくあんたも恥ずかしいやろ?らしくなくて。
少し赤くなった耳元に手を当ててかまへんよと囁いた。
『見つめられると』どうすればいい?
『見つめられたら』キスすればいい!
作者の自我コーナー
いつもの。やっぱり関西弁が書きたいだけ。
照れ屋君より珍しく照れ屋なきゅるきゅるちゃんの話。
でも結局いつも通り。可愛いは強い。
ときどきこうやって照れ屋が逆転していてほしい。
最近二人で目を合わせてること多くないですか?
広いこの屋敷には、一人娘だった私と執事の朔夜しかいない。
両親は幼い私に多額の財産だけを遺して先立ってしまった。
召使いや侍女達は忽如と姿を消した。
私だけ取り残されてしまったようだった。
そこに現れたのが朔夜だった。雨でもないのに傘を指していたのが印象に残っている。
一人で眠れない私を朔夜は毎日寝かしつけてくれた。
冷たい体で抱きしめて眠ってくれた。
両親からの愛を満足に受け取れなかった私に、
沢山愛を注いでくれたのだ。
近頃女の人が襲われる事件が発生しているらしい。
亡くなった女性はみんな血が無いから吸血鬼殺人事件と巷では囁かれているそうだ。
そういえば私の両親も血が抜かれていたとそんなことを刑事さんが言っていたようなーー
「おや、お身体が震えていますよお嬢様」
「……少し冷えたのかしら」
「温かいお飲み物をお淹れしますね」
「朔夜が温めてくれてもいいのよ?」
「それは……また、夜に」
今夜も彼の腕の中で眠る。朔夜の体は冷たくて、これじゃどちらが温めているのかしらとクスリと笑うと、寝苦しくもないでしょう?と少し拗ねて返された。
「お嬢様の身体がお熱いんですよ。蕩けてしまいそうな程。
ふふ、また一段とお熱くなられましたね。冷ましてさしあげましょうか」
朔夜の冷たい唇が首筋に触れる。
ドクンドクンと期待で鼓動が高鳴った。
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「ねえ、朔夜」
「……なんでしょう、お嬢様」
「私もう長くないのよ。貴方と同じにしてくれないかしら」
「……知っていたのですか」
「最近ねあの夜のことを思い出したのよ、ちょっと早めの走馬灯かしら」
「そんな縁起でもないことを……おっしゃらないでください」
「ね、貴方ともっと一緒にいたいの。貴方にとってはやっと自由になれるのかもしれないけれど」
「そんな訳……!そんな簡単に言わないでください」
「疎ましいのなら、お父様やお母様のようにしていいから」
「出来ません」
「これは命令よ!」
「クソッ……!」
手首をグイッと引っ張られて抱き寄せられたかと思うも首筋に激痛が走った。力が抜けていく、意識が白んでいく。
嗚呼、お父様とお母様は苦しまずに逝けたのね。
ーー最期、愛しき吸血鬼が何かを呟いた気がした。
パチリと目を覚ますと、あの夜に見た彼が居た。
私は彼に本当に愛されていたのだなと気づいた。
「おはよう、朔夜……あ、私が眷属になったのだから、御主人様とお呼びした方がいいかしら」
「朔夜がいい。お嬢様に呼ばれるなら」
「もう私はお嬢様じゃないのだけど」
「ぐ………ヒナ」
「吸血鬼でも照れたら顔は赤くなるのね!どういう仕組みかしら」
血液を送り出すポンプはないのに。人体の不思議ならぬ吸血鬼の不思議。そもそも吸血鬼自体不思議か。
「良かったわ、私ちゃんと貴方に愛されていて」
「疑っていたのですか、心外です」
血のように赤い唇を尖らせて朔夜が拗ねる。意外と子どもっぽいのよね。そういう所も好きだけど。
「好きじゃなきゃ1人の人間にここまで肩入れしませんよ。それがちゃんと解るように教えこまないといけませんね」
そう言って朔夜がベッドに乗り上げる。
もう期待で高鳴る心臓はないけれど、
じゃあドキドキしてるのはどこなのかしら。
『My Heart』
作者の自我コーナー
いつものパロ、実はいつもの方達なんです。
こういうお題で何を題材にするかが性格に出る気がします。
Heartを心臓と捉えるか心と捉えるかもよりますし。
私の場合は『My Heart』が無いとされている吸血鬼を題材にしました。本当はもっと切ない話にするつもりだったんですけどこのお嬢様がかなり好奇心旺盛でシリアスになりきれませんでしたね。
俺には可愛い恋人がいる。
年上の幼なじみで、一目惚れだった。
何度も何度も幼い俺は拙いプロポーズをし、彼女は困った顔をしながら、「大きなったらね」と頭を撫でてくれた。
そんな様子を見ていた俺にとって兄のような人ーー彼女の兄の苦い顔を忘れられない。
いつものように彼女を部屋に招き、紅茶を入れてあげる。
彼女のお好みは無糖のアールグレイ。俺も彼女もあまり甘いものが得意じゃないので、お茶請けはカカオ75%のチョコレート。
チョコレートを1粒食べると彼女がため息をついた。
「また女の人ちゃうかった……」
「また?2日前の人とちゃうん?」
「ちゃう、身長全然ちゃうかった……ヒール履いておにいと身長変わらんかったもん」
「モテるなぁ、女途切れたことないんちゃう真島くん」
「たつくん、口が悪いで」
そりゃ、お家デート中に他の男の話されたら機嫌も悪くなる。
他の男って兄でしょ?と思われるかもしれないが、俺にとってはライバルなのだ。
「でもほんまの事やん。大学入ってからますます女遊び酷なったよな真島くん」
「うちも真島やねんけど……。昔はキミくんキミくん言うて懐いとったのに……いつからこんな反抗的になったんやろか」
『うちも真島』で結婚した後もついつい苗字で呼んでしまって、もうお前も同じ苗字やろ?みたいなくだりが頭に過ってイラついた。彼らは兄妹なのだから当然なのだが。末期だ。
「ひなちゃんはひなちゃんやし。それに絶対に『倉橋』にするからええの」
「就職するまではあかんで?」
「そんなカイショーナシとちゃいます」
いつか、俺は王子様からお姫様を奪うのだから。
ーーひなちゃんは実の兄に恋している。
そして、二人は両想いだ。これは俺だけしか知らない秘密。
もちろん言うつもりなんてない。言ったところで幸せになんてなれないのだから。
ひなちゃんはきっと喜んで幸せを投げ捨ててしまうだろう。
それは真島くんも俺も望んでいない。同じ人を愛してしまった同士だから分かる。
真島くんも自分じゃ幸せに出来ないことを知っている。
だから俺は託されたのだ彼に、愛する人を。
なぁ、きみくん。ひなちゃんのことを堂々と女性として愛せる俺が羨ましい?キミくんが女の子取っかえ引っ変えしてしてるコトをひなちゃんに出来る俺が憎い?
ひなちゃんな、キミくんに新しい女が出来た話する時、
失恋したみたいな顔するねん。恋人の前で。
ベッドの中で抱きしめてキスして愛してるって言ったら、うちも好きやでって言ってくれるねん。好き、やねん。
俺は愛してるって言わんでも、女の子取っかえ引っ変えしてても、幸せに出来なくてもひなちゃんの心を独占してるアンタが殺したい程憎い。
『ないものねだり』
作者の自我コーナー
いつもとは似て非なるもの
やっぱり関西弁が大好き。
ここに王子様はいない気がします。騎士と悪い魔法使い。
でもお姫様は女の敵になりそうな兄を案じているだけってオチ