回顧録

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俺には可愛い恋人がいる。
年上の幼なじみで、一目惚れだった。
何度も何度も幼い俺は拙いプロポーズをし、彼女は困った顔をしながら、「大きなったらね」と頭を撫でてくれた。
そんな様子を見ていた俺にとって兄のような人ーー彼女の兄の苦い顔を忘れられない。

いつものように彼女を部屋に招き、紅茶を入れてあげる。
彼女のお好みは無糖のアールグレイ。俺も彼女もあまり甘いものが得意じゃないので、お茶請けはカカオ75%のチョコレート。
チョコレートを1粒食べると彼女がため息をついた。

「また女の人ちゃうかった……」
「また?2日前の人とちゃうん?」
「ちゃう、身長全然ちゃうかった……ヒール履いておにいと身長変わらんかったもん」
「モテるなぁ、女途切れたことないんちゃう真島くん」
「たつくん、口が悪いで」

そりゃ、お家デート中に他の男の話されたら機嫌も悪くなる。
他の男って兄でしょ?と思われるかもしれないが、俺にとってはライバルなのだ。

「でもほんまの事やん。大学入ってからますます女遊び酷なったよな真島くん」
「うちも真島やねんけど……。昔はキミくんキミくん言うて懐いとったのに……いつからこんな反抗的になったんやろか」

『うちも真島』で結婚した後もついつい苗字で呼んでしまって、もうお前も同じ苗字やろ?みたいなくだりが頭に過ってイラついた。彼らは兄妹なのだから当然なのだが。末期だ。

「ひなちゃんはひなちゃんやし。それに絶対に『倉橋』にするからええの」
「就職するまではあかんで?」
「そんなカイショーナシとちゃいます」

いつか、俺は王子様からお姫様を奪うのだから。

ーーひなちゃんは実の兄に恋している。
そして、二人は両想いだ。これは俺だけしか知らない秘密。
もちろん言うつもりなんてない。言ったところで幸せになんてなれないのだから。
ひなちゃんはきっと喜んで幸せを投げ捨ててしまうだろう。
それは真島くんも俺も望んでいない。同じ人を愛してしまった同士だから分かる。
真島くんも自分じゃ幸せに出来ないことを知っている。
だから俺は託されたのだ彼に、愛する人を。

なぁ、きみくん。ひなちゃんのことを堂々と女性として愛せる俺が羨ましい?キミくんが女の子取っかえ引っ変えしてしてるコトをひなちゃんに出来る俺が憎い?

ひなちゃんな、キミくんに新しい女が出来た話する時、
失恋したみたいな顔するねん。恋人の前で。
ベッドの中で抱きしめてキスして愛してるって言ったら、うちも好きやでって言ってくれるねん。好き、やねん。

俺は愛してるって言わんでも、女の子取っかえ引っ変えしてても、幸せに出来なくてもひなちゃんの心を独占してるアンタが殺したい程憎い。


『ないものねだり』



作者の自我コーナー
いつもとは似て非なるもの
やっぱり関西弁が大好き。
ここに王子様はいない気がします。騎士と悪い魔法使い。
でもお姫様は女の敵になりそうな兄を案じているだけってオチ

3/27/2024, 6:17:19 AM