回顧録

Open App

何年かぶりに同郷の先輩から会えないかと連絡が来た。
会いたいのは山々だが海外出張中だったので、
向こうからの要望でビデオ通話になった。
デスクトップを立ち上げ、外付けのマイクとカメラを起動する。この4、5年で慣れた動作だ。
昔なら面倒くさかったが、これが当たり前になっている今は
重宝している。

招待がかかった。リンクを開くと逆さになった先輩が写った。

「先輩逆さになってます」
『え逆さ?これどうやって治すん?うわっ、左右反転なってもうた!』

相変わらずのパソコン音痴っぷりだ。俺に実害がないからだろうか、ほっとする。世間は変わってもこの人は変わらない。
オンラインミーティングとかそれで出来たんだろうか?

その疑問はすぐに解消されることとなる。

『うわどうしよ壊したかな……しんじさーん!画面が反対なってんけどどないしたらいいんやろ〜』

誰を呼んでいるんだろうか、確か先輩は一人暮らしだったはず、結婚したとか?なるほど話したかったことはそれか。

『どうした?ああ、カメラの向きが逆だな』

どこかで聞いたことのある男性の声がする。
いや、でもそんな訳ないよな。ここは職場では無いし。
カメラを調整しているのか映像が切られて音声だけになる。

『本当にきみはスライドショーの扱いといい、機械苦手だね』
『だから俺、営業の方が向いてるって言うたやん!』

…………そんなまさかがあった。あれは部長の声だ。
え、部長と先輩一緒に住んでるのか?それにしても先輩思いっきり部長にタメ口……というか、名前を呼んでいた気が。

『すまなかったね、見苦しいところをお見せして』

映像が復帰したと同時に先輩とは違う、眼鏡を掛けた男性が現れた。
部長だった、左手の指輪がなくなっていたが、確かに部長だった。

「ご無沙汰しております、部長」
『堅苦しい挨拶は抜きにしよう、今日はプライベートの場だろう?』
「は、はい」

とは言え直属の上司に対して寛げる訳もない。先輩が戻ってくるのを今か今かと待っていると何やら箱を取りだした。

『ごめんなぁ、忙しいのに付き合わせて』
「いやいや俺も連絡取りたかったんで……、でお2人って…」
『気づいた?』
「誰でも気づきますよ、こんなの。……やっぱり今日の電話って」
『それはそうなんやけど、それだけとちゃうねん今日は、お前に証人になってほしくて』
「『証人?』?」

声が重なる。部長も首を傾げている。
おい、報連相どうなってんだ。

『信治、いや村山信治さん。俺と家族になってください』
『…………え、』

箱を開くと腕時計が飾られていた。
あ、先輩も同じのつけてる。ペアウォッチって奴か。
なかなか洒落たことするなぁ、先輩。
部長はなかなか状況を把握しきれていないようだ。
才気煥発、泰然自若な部長にしては珍しい。
こういうのも先輩にとってはツボなんだろう。腹立つくらい顔緩んでるし。

『俺で、いいのか?もっと将来のある若い子とか、きみは子ども好きだし……引く手あまたなのに、俺なんて…』
『あんた以外いらん』

バッサリ切り捨てた、うわ、この人こんなカッコいいんや。

『子どもは好きやけど、信治さんも面倒見ええから手かかるん好きやろ?やから要らん。恋人が出来たら離婚するんやったやろ?それでしたやん。奥さんよりも添い遂げたい人が出来たってことやろ?それが俺なんやろ!俺も一緒や?離婚するまでずっと待っとってん、それ今更手放さんわ』

撤回する。この人想像上のガキに嫉妬するヤバい人で、
相当重たい愛の人だ。
でも部長はときめいてるっぽい。どこに?全然分からん。

『…こちらこそよろしくお願いします』
『よっしゃ、聞いてた涼?』
「あ、はい」
『おっし、じゃあ今日はありがとうな!また何かあればよろしく!』

言いたいことだけ行ってホストが退出した。
あ、部長から連絡入ってる後で確認しようっと。

にしても、先輩公開プロポーズってなかなかやるなぁ。
男だし、部長だし。なんで証人俺だったんだろう。
部下だから?俺なら偏見を持たないと思ったのだろうか。
離婚もまあまあのニュースだった。
てことは今、先輩と部長同棲してるのか?
あの感じベッド一緒だろうな……これ以上考えるのはやめておこう、鳥肌立ってきた。

何はともあれ、お幸せに。


『ハッピーエンド』



作者の自我コーナー
実はこちらもいつもの二人原型留めてないパロ。
必ず登場人物誰か一人は関西弁にしたい病。
ハッピーエンド至上主義者なので、お題にされると逆に難しかったです。割と難産。
あれ?でも本人たち幸せそうならいっか!って話。
ちなみにメリバはハッピーエンド派です。

3/29/2024, 6:50:31 PM