回顧録

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3/20/2024, 5:20:25 PM

眠っているとおい、と名前を呼ばれた。
最近は名字にさん付けというかなり他人行儀な呼び方なのに珍しいこともあるものだと目を開けると逆さまになった黒髪の男が俺の顔を覗き込んでいた。

ここで合点が行く。これは夢だ。
今の彼は髪をキラキラとした金に染めている。
顔も整っているからどこかの王子のようだ。柄は悪いのに。

「なに寝ぼけとんねん」
「ん…?やっぱり黒でもカッコイイなぁ思て」
「いきなりなんやねん!」

彼の顔が一瞬で赤くなる。
夢の中でもこの人はトゥーシャイシャイボーイだ。
これ以上褒めると(イジると?)拗ねてしまうのでいつもならここで留めておくのだが、今回は夢である。
俺の夢、明晰夢。つまり好きにしてもいいのだ。

「金髪もキラキラしてて好きやけど、黒のあんたもええなぁ」

うわ、耳まで真っ赤だ。彼の顔を下から覗き込む。
彼は俯いて手で顔を覆い隠した。
そういう反応するから余計に弄りたくなるのだが。

「あ、茶髪も好きやで?銀も似合ってたな」
「おっ前マジで黙ってくれ……」
「照れんなって〜」

手を退けさせようとしたら、逆に手首を掴まれた。
調子に乗りすぎた?夢の中でもこの力関係は覆せないのか。
ぐいと引っ張られて、すっかり赤みが引いた彼の顔が真正面に来る。この距離平気なの?いつもなら目を逸らすくせに。
夢の中だからか。なら今すぐに醒めてほしい気分だ。
なんせ俺はこの綺麗な顔に弱い。

「おたくはいつまでも、可愛いですね。
……ふ、ははっ、照れんなって〜」

腹の立つドヤ顔。挙句意趣返し。でも何も言い返せない。
いつもと違う距離と言葉にさっきまでの手のひらを返して、もうちょっとこの夢を満喫していたいと思ってしまう。
別に可愛いと言われたかった訳ではないけど、可愛がられていた幼い頃が恋しくなることはある訳で。
懐かしいなぁと同時にもう夢でしか聞けないと思うと、
切なくなった。

「お、おい!なんで泣くねん!泣くなって!」

ぽろぽろと涙を流す俺をおろおろとしながら彼が慰めようとする。情けない声で懐かしい名を呼ぶ彼にまた涙が溢れ出した。

『夢が醒める前に』










蛇足

「おはよぉー、え何この状況」
「分からん、急に泣き出してん……」
「どないしたん?」
「ゆめ、さめんとってほしっ……て」
「夢?なんの事?なんか知ってる横山君」
「知らん。急に俺の事かっこいいって言い出して…」
「えっ、急に惚気て来たこの人」
「ちゃうわ!!」
「あれ、……たつくんめがね、…これゆめ、ちゃうん?」
「夢とちゃうよ。ほっぺたつねってみる?」
「かわいいって、いわれたん現実?」
「そんなんいうたん?……やるやん横山君」
「もう黙っとけ!!」




作者の自我コーナー
いつもの2人。
夢が醒める前に(現実だと気づく前に)
黒髪さんは見た目が全く変わらないので、金から黒にしたことを知らない泣き虫ちゃんが夢だと勘違いした設定です。
泣き虫ちゃんが説明した通りいつもだったら弄り過ぎないところを(夢だと勘違いして)弄りまくったので、黒髪さんがキャパオーバーして吹っ切れてしまった故の意趣返し。

解釈は委ねたいと思っているのですが!でも僕の考えも知ってほしいと思ってしまう複雑な作者心……

3/19/2024, 5:31:20 PM

いつも雛鳥のように俺の後ろを付いて歩いたあの子。
隣できみは凄いなぁと目を輝かせていたあの子。
目が合ってはニコッと笑ってくれるあの子。
俺の事を無条件に信じては、くだらない嘘に引っかかり泣いていたあの子。
かわいいかわいい俺の雛。

幼い頃からの刷り込みのせいで、未だにお前は俺の事を凄いと思っているし、何度裏切っても無条件に俺の事を信じる。
水分量の多い銀河のような瞳から、星屑がキラキラと溢れ落ちてもそれでもお前は従順で。

そんなお前に対して俺は、俺だけがお前を好きに扱える優越感と独占欲にいつの間にか支配されるようになった。
他の人間をお前が賞賛するとドス黒い感情が湧き上がる。
その度に俺はお前に無理難題を突きつけては困らせる。

今だって、困った顔をして、ああ、目が潤んでいる。
泣きそうだな、目が零れてしまいそうだ。
でもお前はきっとーー

『胸が高鳴る』

かわいいかわいい俺だけの雛




作者の自我コーナー
いつもの(定期)

胸が高鳴るって期待や希望で興奮する様子を表す言葉なんですけど、それでこんな仄暗い期待の話を書いた自分に引いています。

彼は自分だけが雛鳥を好き勝手していいと思ってるし、
どこまで自分に従順かを定期的に試していると思います。
それで一線越えちゃってそうですよね。
彼らのことを好きな人間から見ても引くことがある関係性。

3/18/2024, 6:26:42 PM

色んなことがあった嬉しいことや辛いこと、しんどいこと。
これまでを振り返れば、ほとんどが後者だった気がする。
夢を叶えられただけで十分と欲のない彼奴なら言いそうだが俺はそうは思えない。その夢だって望んだ形ではなかった。
何かを切り捨てなきゃダメなら俺は、叶わなくなって良かったんだ。

この世界に身を置いている立場で言えることではないが。

何度も辞めることが頭をよぎった。
もしあそこで働いていたら、あの時あの子と結婚していたら。ーーこの世界から身を引いていれば。
大それた夢なんてなくたって、それなりに幸せに暮らせていただろう。

でもその度に俺は彼奴を思い出す。
決して弱音を吐かずに、俺たちに発破をかける彼奴。
でも2人になると一緒に愚痴を吐いて、最後には必ず「大きくなってアイツら見返してやろう」と誓った日の彼奴。
涙を流さなくなった彼奴。
共に泥水を啜ってきた、俺の……なんやろうな、相方になるのか?
最早長い間一緒に居すぎて言葉では表せない。そんな奴。

俺がその手を離してしまうと、きっと彼奴は俺を責めることなくそれを受け入れてしまう。
それがどうしようもなく癇に障るから、
俺はこの不条理な世界を選んでしまうのだ。

幸せなんかより、お前を。

『不条理』


作者の自我コーナー
いつもの2人。お前と書いて不条理と読みます。
相手のことなんて気にしませんみたいなスタンスのくせに、相手に気にされなかったら切れるのもなかなかに不条理(理不尽)だと思います。
でもその相方さんもそんな理不尽な方を選ぶんだろうなぁ。

3/17/2024, 6:08:24 PM

彼と俺は正反対らしい。自覚はないけれども。
繊細な彼、ガサツな俺。
インドアな彼、アウトドアな俺。
人見知りでシャイな彼、物怖じせずに誰とでも話せる俺。
泣かない彼と泣き虫な俺。

今はもうお互い大分と涙腺が緩くなって、ベタに家族とかスポーツのドキュメントとかで感動してしまうけど。

「二人って泣く場所も真逆やん!おもろ」

人にそう言われたことがある。確かに、言われてみれば。
単純に琴線が彼と俺は違うということもあるのだと思う。
俺が泣いた時、そんなぶっさいくな顔で泣かれたら、泣くに泣けないと呆れながら慰めてくれていたことを思い出す。
あの頃の俺は自分のことしか見えてなくて、
辛いしんどい苦しいとよく泣いていた。
そんな俺を受け止めてくれていた彼が俺にはお兄さんのように見えていた。今では俺もすっかり可愛げのない同い年のおっさんになってしまったが。
それはつまりあの頃の彼だって同じように泣きたかったことがあったということだ。俺ほど泣き虫で腐ってはいなかったと思うが。彼にだって零したかった弱音があったはずなのだ。俺が泣いていたせいでそれを飲み込むしかなかったが。

だから罪滅ぼしという訳でもないが俺が泣いてしまった分、彼にはいっぱい泣いてほしい。
『ええかっこしい』だから素直に泣いてくれないだろうけど泣くに泣けない状況にはならないと思うので、俺はもう

『泣かないよ』


作者の自我コーナー
またもやモデルがいる話。
多分これからもですが連動してます。
時々出てくる方言の匂わせは多目に見てください。
正反対でお互いの背中を預けていても、進む方向は同じ二人が好きです。

3/16/2024, 4:15:55 PM

夜になると寂しがりで怖がりな君は枕を持って
ひとりじゃねれない、って僕の部屋を訪ねてくる。
可愛い妹が自分を頼ってくれることが嬉しかったけど
仕方ないなって顔して、僕は彼女を布団に招いた。
背中をとんとんとたたいてやっていると、
穏やかな寝息が聞こえてくる。僕だけの時間だった。

君は今日も変わらずに、
『お兄ちゃんと一緒じゃなきゃ眠れない』
と言って、ベッドに潜り込んでくる。
本当はもうひとりで眠れるのに、
まったく甘え上手な、妹だ。

かわいい、いもうと。
そんな君に触れるのが、俺はとても、こわい。

『怖がり』



作者の自我コーナー
僕と俺を使い分ける人が好きです。
助詞とか句読点の位置にかなりこだわりがあります。

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