何十年か先、ふとこの瞬間を思い出す日が来るだろう。そしてきっと、それが私の青春だったと……そう思う日が来るのだろう。
何となくそんな気がした。そんな日の出来事だった。
***
「引越し?」
「……うん。夏休み明けからは違う学校」
親友の由佳から出たのは、思いがけない言葉だった。
同じアパートのお隣さん。幼稚園からの付き合いの由香とは幼馴染であり、親友だった。何をするのも何処へ行くのもいつでも一緒。だから、同じ習い事をするのだって必然だった。
小学校に上がって始めたダンス教室。子供の運動能力とリズム感を上げる事を基礎としていて、ジャンルに囚われない様々なダンスを教えてくれた。
その中でも私達が特にハマったのは社交ダンスだった。本来は男女のペアになるものだが、女子ばかりのダンス教室では、必然的に同性同士のペアとなる。大会に出る訳ではない。せいぜい街のお祭りや発表会で披露する程度。その為、私はダンスを習い始めてからこれまで、ずっと由佳とペアを組んできた。中学に上がり、本格的に社交ダンスを始めても尚それは変わらない。私にとっての由佳は幼馴染であり、親友であり、そしてパートナーだった。
「引越し……急だね」
「うん。でもお父さんはもう来月にでも引越しするって。お父さんのお母さんが病気になっちゃって……それで、お父さん実家のお店継ぐ事にしたから、家族みんなでお引越しするんだって」
「由佳のおじさんの実家って確か……」
「九州だよ」
「九州……遠いね」
「そうだね」
ここは関東。日本地図では真ん中辺りに位置してはいるが、やはり九州となると遥か遠いものに感じる。ましてや中学生の私にとって、九州なんてのは未知の領域だった。行き方もわからない、遠い遠い国に行ってしまうような感覚。
まだ6月が始まったばかりなので、夏休みの終わりとは言っても時間はある。そうは言っても2ヶ月もすれば由佳は居なくなってしまうのか。そう思うと次第に悲しくなる。いつも当たり前に隣に居た親友に会えなくなってしまうのだ。
気付けば溢れ出した涙が頬を伝っていた。
「泣かないでよ〜。まだ先だよ?」
「そうだけど……そうだけどさ、もう2ヶ月もないんだよ」
「知ってるよ…。私だって、本当は行きたくないし……昨日言われて、まだ自分の中でも整理出来てないんだから」
「ずっと……ずっと一緒だと思ってた。高校も、東校一緒に行こうねって、言ってたのに」
「行きたかったよ!私だって、莉乃と東校行きたかった!修学旅行だって行きたかったし、学祭も今年は発表で金賞目指したかった。体育祭……今年こそは優勝しようねって……」
話しながら、次第に由佳の瞳にも涙が溜まっていく。2人でやりたかった事、やろうとしていた事、2人一緒だからできた事、未来の話も思い出話も…話始めたらキリが無かった。この先の未来にお互いが居る事が、当たり前だと思って過ごしていたから。
どれ位泣いただろうか。ポケットティッシュは底をつき、泣き疲れて声も涙も枯れ果てた頃徐に立ち上がった由佳は袖で涙を拭いてこちらに手を差し伸べた。
「踊ろ」
「踊る?」
「うん」
「ここで?」
「ここで」
「……」
「踊ろう。思い出だよ。うちらって言ったらやっぱこれしかないじゃん」
「確かに」
由佳の言葉に、私も涙でぐちゃぐちゃの顔をタオルで拭く。もう拭いているのが涙なのか鼻水なのかわからない。
「私と踊ってくれませんか?」
改めて差し伸べられていたその手に、私は自分の手を重ねた。
「喜んで」
浜辺の公園。学校帰りの放課後。帰宅部の2人が夕日をバックに踊っていた。
音楽なんてオシャレなものはない。6時を知らせるチャイムがけたたましくなっていて、カラスの鳴き声が歌声だった。
笑いながら、しかし涙は溢れていた。きっとこれが青春なのだと、この瞬間を忘れる事はこの先も無いと思いながら、私達は示し合わせもなく大好きなあの曲を踊ったのだった。
いつか見た映画のワンシーンの様に。
#いつかの思い出 【踊りませんか?】
夕立に降られ足止めを食らった放課後の教室。窓の外を眺めながらボヤく美鈴の横顔を私はチラリと見てから携帯に視線を戻した。
指先を素早く動かしてフリックを続ける。今やスライドで簡単に打てるこの文字も、昔は一回一回打って移動して変換してを繰り返していたんだから、今の時代にJKをしている事がありがたい。
なんて言っても、お姉ちゃんは当時長いネイルでスライド携帯の文字盤を器用に押していた。あの速さは今私がスマホでやっても勝てないと思う。要は慣れなのかもしれない。あの頃のお姉ちゃんは今では見なくなった所謂コギャルで、金髪にルーズソックス、派手な服装と携帯には重たそうなキーホルダーを大量に付けていた。私は今の時代の高校生も可愛いくて好きだし、自分が今の時代でJKをしている事に満足だが、やっぱりああいう時代のJKも可愛いと思う。
それもあって、私が書け携帯小説のキャラ設定はいつも平成ギャルばかりだ。キャラのイメージはお姉ちゃんとその友達。幸いお姉ちゃんは携帯を持っていたし、大量に写真を撮る人だったので当時の雰囲気がわかるものは沢山ある。ギャルのくせに物持ちも良く、何でも大事に取っておく人だから、10年以上経った今でも日記帳や卒アルなんかが綺麗に残っている。私はそれらを見て情報を集めながら、周りの子の恋愛事情なんかを当てはめた小説を書くのが密かな趣味である。
今時携帯小説?と思われそうだが、おわかりの通り全ては歳の離れたお姉ちゃんの影響だ。お姉ちゃんが当時携帯小説の大ファンだった事もあり、その時買った横書きの本なんかも家にはある。今でもたまに読んでは泣いてるのを見ると、あの世代の人間にはいつまで経っても刺さるんだななどと思いながら見ているのだ。私からすると、感動ポイントはわかるが今風では無いというのが私の感想である。
それなのに何故平成を題材にした小説を書くのか。それはズバリ姉を泣かせたいのだ私の小説を読んで泣いた姉を見てみたい。その一心で始めた小説はすでに20本を超えている。おかげでフォロワーも増えたし、私の作品を楽しみにしているとコメントを残してくれる人まで増えてきた。嬉しい。だが、携帯小説を始めて早1年が経とうとしているのに、お姉ちゃんという存在は全く泣かないのだ。過去の作品ではあんなに泣いていたのに。
それがどうも悔しくて、悔しくて。私は今日もこうやって放課後の教室に残り1人執筆活動をしようとしていた所に入ってきたのが美鈴だった。
美鈴とは中学が一緒だったが、中学時代接点が無く話した事も殆ど無かった。高校で同じクラスになってからは別のグループではあるが良く話をする友人の一人と言った所だろう。
私は携帯小説執筆にあたり、クラスの女子は勿論他クラスの女子にまで恋愛事情を聞き込んでいた結果逆に相談される事も増え、仕舞いには恋愛相談の母とまで呼ばれる存在になってしまったのだ。最近では、恋愛の悩みを持った男子までが訪れるようになり「○○は俺の事をどう思っているか」や「△△の事好きなんだけど、告ったら成功するかな?」等々、今や一年生全員の恋愛事情を把握していると言っても過言では無い。
悲しい事に私自身にそういう気配は全く無く、聞かされるのは他の女子の名前ばかり。自分の容姿は特別良くも無いが悪くも無いと思って居る。しかしこればっかりは見た目じゃ無いんだろうな。学年の恋愛事情を把握し、果ては恋愛マスターなんていう呼び声まである私と付き合うのはハードルが高いのだろう。「デートに点数付けられそう。あとでダメ出しの指摘されるのが怖い」「恋愛の仕方に文句言われそうだな。こっちの頑張りを冷めた目で見られそうで緊張する」などという声は実際に届いている。なので私がモテないのは決して見た目が悪いとか、性格が悪いとか、所詮恋愛対象からは外される良い人止まりなどじゃ無いと。自分に言い聞かせる日々だ。悲しい事だが、それが事実。しかしその悲しみも携帯小説のネタになると思うと美味しい展開である。
そういえば、美鈴には少し前彼氏が出来たはずだ。今日は先に帰ったのか、一人ここに残って居るなど珍しい。
美鈴を題材に書いていた夢小説を一旦閉じてから、私は話し掛けることにした。気の所為か、心なしか横顔が哀愁漂う感じがする。
「美鈴、今日は彼氏と帰らないの?置き傘あるんじゃ無かった?」
「彼氏ね……フラれちゃた」
そう言って笑う美鈴は哀しげではあるが、冷めた印象がある。夕立を見る横顔から漂う哀愁は気の所為だったのか。
「フラれたって……先週付き合ったばっかじゃなかった?えっと確か水曜だったよね。今日が火曜だから……水、木金……丁度1週間て事?」
「そだよー。今フリ〜」
美鈴は笑顔で手振っている。フリー?あの美鈴が?私は状況が飲み込め無いまま唖然とする。そして、折り畳んだ指の数を開き、再び日数を確認し、美鈴と交互に見比べた。美鈴が振られた…それも驚きだが、美鈴が今フリーである事が更に驚きだった。
美鈴は確かに恋多き女だ。付き合っては別れ、付き合っては別れ、二股三股当たり前。しかしそこが良いと寄ってくる男が後を経たないのも事実で、常に誰かと付き合って居た。
1人切れても、もう1人居る。常にそんな感じなので、フリーの期間なんてのはゲームで言うとこのSSRというやつだ。私はまだフリーの状態…つまりはSSRを引いてない。今目の前に居るのがSSRの美鈴……これをネタにしない訳にはいかないではないか。
そう思った私は、慎重に美鈴から話を聞く事にした。夕立はまだ止みそうに無い。今がチャンスだ。
「美鈴が1週間でフラれるなんて珍しいね。いつも最低2週間は続いてるのに」
「そうなんだよね〜。でも今回は完全に当て馬にされたって言うかぁ〜、ちょっと私としても腹立たしくはあるんだけど」
当て馬!美鈴が!?全学年の男子を弄んでいる美鈴を当て馬にする男など存在したというのか。いや、美鈴だからこそ本命相手には丁度良い当て馬だったのか……。何にせよ予想外の展開に、面白い話が書けそうである。
「はなから美鈴目当てじゃなかったんだね、その人」
「そうなんだよ〜!酷くない?美鈴の事好きって言ってくれてたのにだよ?」
「男心と秋の空って言うからね。秋は恋が移ろいやすい季節なんだよ、きっと」
「男心……?女心じゃ無くて?」
「元は男心と秋の空って言葉だったらしいよ。今では女心に例える方が主流だけど、平安時代……とかだったかな。遥か昔は男心のが主流だったって」
「へぇ〜。知らなかった」
「私も課題で調べるまで知らなかったよ。時代の移り変わりで男女の立場や価値観が変わった事で、言葉も変わっていくんだろうね」
「なるほどね〜。美鈴も、変わるんだよ?知ってた?」
私の豆知識を一通り聞いた後、こちらまで歩み寄ってきた美鈴は小首を傾げている。所作の一つ一つが可愛らしいが、男子にウケても女子ウケはしないのはこういう所なのだろう。裏でぶりっ子、キモい、あざとさを全面に出し過ぎて痛い。なんて事を言われているのも耳にする。
「美鈴ね〜、誰とでも付き合うの辞めたんだ。今まで、告白されたらみんなと付き合ってたし、可愛いって言われたら好きって思ってたし、みんなに愛される美鈴の事が大好きだったんだけど」
「うん」
美鈴のいつもの自分語りに私は相槌を打つ。こういうのが始まるのはいつもの事で、結局また複数の男を作るのが関の山。美鈴と知り合ってから、そういう子なのだという事はわかっている。
中学時代も噂は沢山あった。他校の子と付き合っている、高校生に恋人が居る、この前人気の○○君と歩いてた、パパ活をしている……等々。パパ活に関しては、噂が教師の耳に入り一時問題となったが、後に別居中の父親だった事がわかり、事なきを得た。
中学時代から男の子達との噂が絶えない美鈴が、1人に絞るなんて事が出来る訳もなく。毎回聞かされるこの話は一過性の風邪みたいなものだと私は認識していた。
「今まで沢山の男の子と付き合ってきたんだけど、美鈴の事可愛い!好き!って言ってくれて……嬉しかったけど、やっぱりなんか物足りないってゆーかぁ……コレジャナイ感?ってゆうの?があってぇ」
「うん、うん…」
似た様な話は別れるたびに聞いている。○○君はやっぱり相性が悪かった。なんか合わないんだ〜なんて事は散々聞かされている。それでも私が話を聞くのは、小説のネタになる事は勿論だが美鈴という子が嫌いになれないからだろう。
美鈴は割と本気でそう思って言っている節がある。フラれた腹いせや言い訳に使うのでは無く、純粋に心からそう思っているのだ。ちょっと頭が弱いと言ってしまえばそれまでなのだが、天然なのか素直なのか、人を疑う事を知らずに付き合っている。
だから、好きと言われたら自分も好きな様な気になり付き合い、2人、3人と股を掛ける男が増えていく。側から見てると面白いが、自分が男なら付き合いたく無いタイプだ。
「それで〜私気付いたの!私男の子が好きなんじゃ無くて、私を好きって言ってくれる人が好きなんだなぁって!」
「うん…そうなんだ」
「それでね……じゃあ、私が好きって思った人誰かなぁ?って考えたの。そしたら、別に男の子じゃなくても良いじゃん!ってなってぇ〜」
そこで美鈴の目が私の目を真っ直ぐ捉えて笑った。
「結衣!私貴女と付き合いたい!!結衣は私の事好きでしょ?私も結衣が好きなの!」
「はぁ…………はぁ!?」
この流れでまさか自分が告白されるとは思わず、二度見で返事をしてしまう。私が美鈴を好きとは、どっからその自信が湧いてくるのだろう。
「いや、好きって……好きじゃ無いけど……」
「えぇ〜!今日だって好き!可愛い!って言ってくれたのに!嘘だったの?」
「嘘っていうか、それは友達としての話で、恋愛的な意味では……」
「そんなのわからないじゃん〜。付き合ってみたら好きになるかもだよ?それに……私は結衣となら、そういう事も出来ると思うんだ……」
美鈴の綺麗な長いまつ毛が近づいてくる。私は思わず顔を背けた。こういう事を冗談ではなく、毎回本気で言ってくる美鈴だから誤魔化しがきかなくて厄介である。
「ねぇ……ダメ?結衣は美鈴と付き合いたくない?」
「女の子と付き合うとか、考えた事無いし……いきなりそんな事言われても……」
「……美鈴は、結衣の事結構ガチで好きなんだけど」
恥ずかしそうに顔を赤らめながら、真面目なトーンで発するその言葉に思わずドキッとしてしまった。まさか自分が女の子相手にときめく事があるなんて……。
その時、お姉ちゃんが読んでいた携帯小説の本の存在を思い出す。お姉ちゃんの泣いていた本は、確か女の子と女の子の悲恋話だった。当時はよくわからなく、最近は一人暮らしで家を出たお姉ちゃんが本を持っていってしまったので詳細はわからないが、確か「女の子同士は結ばれない運命なのよ」というセリフがあったはず。お姉ちゃんはいつもそこで泣いていた。だからそのセリフだけ覚えている。何故忘れていたのか……忘れようとしていたのか……。
私は誰かと付き合った事が無い。誰かを本気で好きになった事も、恋をした事も無い。だけど、今ここで目の前に居る美鈴と付き合えば、同性の恋愛のネタも手に入り、お姉ちゃんを泣かせるような小説が書けるかもしれない。
そう思うと私の答えは一つだった。
「いいよ。付き合おっか」
卑怯だと思うだろうか。それでも良い。私は私の目的を果たす為なら何でもするんだ。それに相手は美鈴。どうせすぐに飽きるだろう。
女心と秋の空。秋の恋は移ろいやすいもの。高校生のお遊び恋愛に付き合うのも悪く無いかもしれない。
#男心と秋の空【秋恋】
「恋した事ある?」
「あるよ」
夕暮れ時の教室で、日直日誌を書きながら適当に答える。目の前の彼女は目を輝かせながら、次から次へと質問をしてきた。女の子というのは本当にこの手の話が好きらしい。かという私も女なのだが、他人の恋バナを聞いて何か楽しいのかわからない。
花の女子高生なんてのは、大人が付けた勝手なイメージでしかない。JKは無敵とか意味のわからない事を宣言し、巻き上げたスカートに校則違反の短いソックスを履いているような子達を本当に花の女子高生と言えるのだろうか。そんなお淑やかな女子高生は今や絶滅危惧種と言えるだろう。
目の前の彼女もその1人。薄手の半袖シャツには薄っすらと下着が透けている。丈の短いキャラクターの描かれた靴下が、踵を踏んだ上履きから覗いている。膝上の短いスカート。指定外のリボンに、明るい茶髪にパーマの髪。毎日しっかりと施されたメイクに、甘い香水の匂い。ここまでしっかりギャルな女子高生最近は見掛けないが、女子高生という存在を楽しんでいる事に間違いはない。自分にない要素に少し羨ましさを感じる程だ。
自分はというとつまらない人間だある。指定のシャツに指定のベスト校則に則った靴下ときちんと履いた上履き。髪は黒で1つに纏め、メガネがガリ勉を物語っている。それでも少しはJKに憧れ、スカートを1つ折ってみたものの、恥ずかしくて膝下から膝にかかる程度に上がっただけで、殆ど変わらない。垢抜けとは縁通そうだ。
目の前のギャルは同じ日直だというのに、日誌に興味は示さない。自分より私の方が字が綺麗でしょと程よく押し付けられた気もするが、断るのも面倒で引き受けてしまう。どちらにせよどちらかが書かなくてはいけないものだ。それよりも、今はギャルの興味が私の恋バナに向いてる事の方が問題なのである。私は人に自分の恋愛を語った事は無いし、語るつもりもない。決して友達が居なかったわけではなく、ただそういうジャンルの話をしない友人関係だったというだけの話。そもそもギャルという人のプライバシーゾーンに容易く立ち入ってくる存在自体未知の生物のようで私は苦手だ。そう、苦手なのだ。私はギャルという存在が。彼女自身が。苦手なはずなのである。
「それでそれで、それはいつの話〜?あ、パパとかっていうのは無しだよ!身内はダメ〜。私も初恋はパパだったし、そのあと好きになったのはいとこの歳上のお兄ちゃんだったんだけどね。そういうんじゃないちゃんとした恋の話が聞きたいの!で、相手はどんな人?誰?私の知ってる人?」
私が日誌を書いているのに、目の前のギャルの口は動き続ける。
青みがかったピンクのリップが塗られた艶々な唇がよく動く。こういう色が似合う人はブルベとか言うんだったか。これでもオシャレになりたいと雑誌を買って読んでいる。店で買う勇気はなく、全部電子書籍なのだが、こういう時デジタル社会に生まれて良かったとさえ感じる。自分のようなダサい格好な人間が街でオシャレ雑誌など買うなと、想像しただけで顔から日がでそうだ。一生懸命オシャレな雑誌をで勉強しようとしたのが丸わかりである。
そんな恥ずかしさに耐えられる訳も無く、電子書籍ですら親に見られないよう部屋でこっそりと見ている私は、そのオシャレを取り入れる勇気は無かった。目の前のギャルの様に、自分に正直に生きていられたらどんなに楽しいか。もっと素直に生きたい。
「ちょっと〜聞いてる?もしもーし。日誌とかさ、適当で良いじゃん。それより恋バナしようよ、恋バナ!今は好きな人居るの?」
人の話をまるで聞いてない。自分のペースで話し続けるギャルはいつでも楽しそうで羨ましい。私だってこんな面倒な日誌を真面目に書くのはバカらしいと思っているが、雑に書く勇気もない。結局内申点に響くから、こういう細かい所で地味な点数稼ぎをしているだけなんだ。
みんなと同じが良いし、真面目と言われても直線の上からはみ出すようなのは怖くて出来ない。勇気が無いだけ。それだけに、彼女のような人間が眩しくて、私の手には届かない。気付けばその光に惹かれてしまっていたと気付いたのはいつだったか。
「好きな人……居るよ」
「え!うそ!誰!?同じクラスの人!?」
「うん」
「ガチで〜!?やば!!聞きたい!誰?山田とか?みんなアイツの顔良いって言ってるし、それとも斉藤?あ、高橋!高橋とよく話してるよね。高橋か!ねぇ、ねぇ、誰?どれ?今言った中に居た?」
好きな人が居る。と言っただけでこのテンションの上がり様、こんなにも感情のジェットコースター………殆ど上がりっぱなしだが、になる人間も珍しい。いや、ギャルという生物はこういうものなのか。私からすると、ギャルはそもそも別の生き物という認識で生態がわからない。わからないから面白く、もっと知りたいと思うのはきっと知的探究心によるものだ。
そう、これはあくまで知的探究心。だから、これから言うのも彼女の反応が知りたくて言うだけの事。私が本当にそう思っているなんて事は……無いんだ。
「好きな人、そんなに知りたいの?」
「知りたいよ〜。気になるじゃん、私はもっと仲良くなりたいし!」
「そっか、じゃあもっと仲良くなれるかもね」
「ん?うん……?」
「私の好きな人って言うのは……貴方の事だから」
日誌から顔を上げて、見つめた彼女の顔は見た事ない程に赤く染まっていた。
それが夕陽の所為なのか、照れていただけなのか。後者だといいなと思った自分に驚きながら、彼女の反応を楽しんでいた。
ドキドキしている胸の鼓動も、新しい事を発見できた高揚感によるもので、決して恋なんてもんじゃないんだと私は自分に言い聞かせていた。
#夕陽に染まる 【本気の恋】
この街には「時を告げる鐘」と呼ばれる鐘がある。鐘なのだから時を告げるのは当たり前だと思うだろうが、この鐘はいつ鳴るかわからないのだ。そして、何の為に鳴っていて誰が鳴らしているのか。それすら誰も知らない不思議な鐘だ。
その鐘は街の中心にある塔の上にあった。塔は誰でも出入りすることが出来るが、鐘のある所までは登れない。途中にある展望台が最上階もなっていて、その上に位置する鐘の所には誰も立ち入ることが出来ないのだ。
塔には大きな時計が付いている。これは規則正しく回っている時計で「この時計の裏側の調整をするところから鐘の所にも行ける」という噂があるが、実際は時計の裏側にしか行けないらしい。
塔に付いている大時計の管理をしている父でさえ、この鐘に辿り着く入り口は知らないのだ。
そもそもこの塔自体、誰が何の為に作ったのかは知らない。僕が生まれるよりもずっとずっと前。おじいちゃんとおばあちゃんが赤ちゃんの頃よりもずっと前。数100年前から存在していると言われている。その頃から大時計の管理は僕の家が代々受け継いできた。そして今日から、僕が次の担い手として大時計の管理を手伝う事になっている。
そもそも何故僕の家が時計の管理をするようになったのか。それもわからないらしい。昔この街一体が焼ける大火災が起きたという。その時に家に伝わる大事な書類なんかも全て燃えてしまったらしい。その為何故僕の家が代々大時計の管理をしているかも、この塔の歴史や鐘の秘密も何処にも残っていない。誰も知らない秘密の塔になってしまった。
一つだけわかっているのは、その大火事が起こった日は、朝から鐘が鳴り響いていたという。
***
初めて入った大時計の裏側は、少し埃と油が混じった古臭い匂いがした。
煉瓦造りの塔の入り口から入り、僕達しか知らない秘密の部屋に入ると、目の前には螺旋階段。そこを登った頂上に大時計の裏側はあった。
沢山の歯車が噛み合って、カチ…カチ…と時を刻んでいる。この時計も不思議な事に狂う事が無いのだ。いつでも正確にこの街の時を教えてくれる。大時計にはこちらも大きな鐘の付いた振り子が付いていて、お昼と夕方には大きな音で知らせてくれる。街に響くその音を聞いて、みんなはお昼を取ったり家に帰ったりするのだ。
そう。この塔には鐘があるのに振り子がついている。時間を告げるのはあくまで振り子の音なのだ。では塔のてっぺんにある鐘は何の為に付いているのか。
大時計の管理などと言っても、実際やるのは掃除位なものだ。なんせ狂わない時計なのだから、管理の必要が無い。たまに油を差してやる事位はするらしい。
大時計の歯車と振り子をハタキで叩き、雑巾やモップを使って磨く。裏側の部屋の掃除と、展望台の掃除。時計の管理などと言っても、やるのはこの程度。
時計の管理に関わるお金は街から出ている。お給料もそこから。とは言っても食べていける程のお金は出ない。
僕の家は代々続く街の時計職人なので、本業はそっちだ。だから時計の管理を任されたのかと思っていたのだが、どうやら時計の管理を任されるようになってから時計職人になったらしいというから驚きだ。
大火事の前のことなのに何故わかるかと気になるだろう。実はこの家事で焼けた資料というのは、塔に纏わる事柄だけなのだ。大事な資料の殆どは地下に隠していた為に無事だったらしいのだが、何故か大火災の時は塔に纏わる資料をそこにしまっていなかった。そのせいで燃えてしまったと聞いている。
不思議なことに、図書館や資料館でも同じ事が起こっていて、そのせいで今や塔に関わる歴史や秘密のあれこれを知っているものは誰も居ないというわけである。
果たしてそれは偶然なのか。
***
僕が大時計の管理を引き継いで数ヶ月経ったある日の事だ。その日塔の上の鐘が鳴った。
僕が生まれてからこの鐘の音を聞いたのは2回だ。1回目は僕が生まれた日。僕が生まれたのは朝日が昇る頃だったらしいが、その時鐘が鳴り響いたという。両親は「この街が貴方の誕生を祝ってくれている」と言っていた。この街に祝福された子供だと、理由はどうであれ悪い気はしなかった。
2回目はこの街に盗賊が現れた日。あれは僕がまだ12か13歳だった頃だ。最近巷を騒がせている盗賊団が居るという話で街も持ちきりだった。近くの街でも出たから、今度はこの街では無いかと言っていた最中に本当に現れた。
僕は現場を目撃した訳では無いが、新聞によると子供が人質に取られ盗賊団に襲われそうになった時、鐘が鳴り響いたという。あまりの大きな音に盗賊が驚いた隙を付いて警官が逮捕した。
その後盗賊団は「あの音は頭が割れるように痛かった」と言っていたらしい。僕達にとってはうるさい音でも無ければ、心地良い響きに聞こえていたから、盗賊達が薬でもやっていたのだろうという事で方がついた。
そして今日が3回目。今度は何の目的で鐘が鳴っているのだろう。
鐘の音に耳を傾ける。すぐ上で鳴っているのに不思議とうるさく無い。心地良い音が響いているようにしか感じないのだ。
僕は鐘の音に耳を傾けて壁に寄りかかる。その時だった。手に当たる煉瓦の感触がほんの少しだけ違う事に気がついた。もしかして……と思い、手に持っていたモップを投げ出し煉瓦を押してみた。案の定動いた煉瓦は半分程入った所で止まった。カチリと何かのスイッチが入ったような音がする。円形になっている煉瓦の壁をぐるりと周りながら変化してないから見回すと、押した煉瓦の反対側辺り足元の煉瓦が浮き出ている事に気づいた。今度はその煉瓦を押す。するとまたカチリという音がして、今度は続いてズズズと重たそうな石が動く音と同時に目の前の煉瓦が動いて入り口が現れた。僕は思わず生唾を飲み込む。これは僕がずっと探し求めていた鐘へも続く入り口では無いだろうか。
高鳴る胸の鼓動を抑え、恐る恐る入り口へと足を踏み入れた。
***
中は壁沿いに螺旋階段が続いていた。雰囲気は下から大時計まで上がる階段と同じである。違うのは薄暗いという事だけ。大時計に行くまでには塔の淵にある窓のような穴のお陰で陽が出ていれば暗く無い。しかし、今登っている階段は塔の大時計の裏から鐘の所まで続く円形の柱の中にある為、全方位が壁となっていて真っ暗だ。上に上がれば上がる程光は無く、足元もよく見えない。僕は壁に手を付けて一段一段慎重に登っていく。こんな状況でも、恐怖心より好奇心のが勝っていた。この先にあるあの不思議な鐘の所まで行けると思うと、足取りはどんどん軽くなる。
かなりの段数はあったと思う。大時計から鐘の位置までは結構離れている上に螺旋という構造上、どうしても段数が増えてしまう。しかしそんな事を感じさせない程に、僕の好奇心は高まっていた。
最後の段を登り終えた所で、天井にある扉を開ける。蝶番が付いた上開きのものだ。鍵はかかっていない。人1人がやっと通れる位のサイズで、小柄な僕でもギリギリだった。
まず目に飛び込んできたのは大きな鐘。下から見て想像していたよりも遥かに大きい。煤けた黄金の重厚感漂う鐘がまだ鳴り響いている。しかし、驚く程にうるさくない。今目の前で鳴っている筈の鐘の音なのに、全く煩く無いのだ。
僕は入ってきた扉を閉めて辺りを見回した。展望台から眺める景色よりずっと良い。街の端までよく見渡せる。
鐘は天井から吊られていた。部屋の構造は思った通りで特に変わった所は無い。高い天井は三角になっていて塔のてっぺんの形をしている。四方は柱で支えられているだけで風が良く通り、重たい鐘が右に左に揺れ動き「ゴーン」「ゴーン」と低い鐘の音が一定の間隔で鳴り続ける。
「一体誰が……なんの為にこの鐘を鳴らしているんだろう」
鐘のある場所まで来たが、誰がいる訳でも無かった。それどころか、鐘を鳴らす装置すら見当たらない。これでは鐘が意思を持って自ら鳴り響いてるようでは無いか。
そんな不思議な事がある訳も無いと頭を振ったその時だった。「バサバサッ」と大きな翼が羽ばたく音がした。鳥だろうか。それにしては音が大きい。近くだからと言っても、こんなに大きな羽音を立てるような鳥がこの辺りに居るだろうか。
僕が音の方に振り返るとそこに居たのは大きな翼を生やした人間だった。
***
「おや……君は……」
長くふわふわとした髪。薄い色の瞳に透き通る様な肌。そのどれもが白く本当に透けてしまいそうなその人間は少女とも男性とも取れる、年齢も性別もわからない見た目をしていた。
身長は僕と変わらない位だろうか。細くしなやかな腕が袖口から見えている。柱の間を囲う手摺りの上に立っていたその人は音もなく僕の方へと近づいて来た。近くで見ると尚のこと白く美しい見た目をしている。そして全く生気を感じさせなかった。
「君はこの塔の管理者か?」
中性的な声。抑揚は無いのに温かみを感じる不思議な声。
「え……あ……はい……。大時計の管理を任されてる者です」
「あぁ……そうか。君が……成る程……」
その人は僕の爪先から頭のてっぺんまでをゆっくり見てから「大きくなったね」と言って微笑んだ。
「僕を知ってる…んですか?」
「無理に敬語を使わなくて良いさ。あぁ、知っているとも。この街の事なら全て知っている。それに君を祝福したのは私だもの」
祝福という言葉でふと頭に過ったのは、僕が生まれた日に鳴ったという鐘のことだ。この目の前の羽の生えた人……天使とも呼ぶべきこの存在があの日鐘を鳴らしたのか。
「君の思う通りさ。あの日鐘を鳴らしたのは私だよ。君の誕生を祝してね。君たちの一族は長い事この地に根付きこの塔を管理してくれている。時計の管理も……本当は必要無いのだけどね。だけど人の手が入らないと建物も道具も朽ちてしまう。だから君たちにお願いをしたんだ。この塔を守ってくれと」
「塔の管理ですか?時計の管理ではなく」
「あぁ。元は塔の管理だったんだよ。あの大火災があり、全て失われてしまっていつの間にか時計の管理になってしまったがね。それでもこの塔を管理してくれている事に変わりは無いから、私としてはどっちでも良かったのだけど」
「そうだったんだ……」
「聞かないのかい?私が何者でこの鐘がなんの為にあるのか」
この人はなんでもお見通しらしい。僕が聞かなくても答えてくれるように、頭の中まで読まれているようだ。
「聞いて良いんですか?」
聞いてしまったら、謎が解けてしまったら全てが終わってしまうような気がした。しかし、この好奇心を抑える事も出来ない。知りたい。知りたくて知りたくて仕方ない。だけど知ってしまったら、もう僕の興味がこの塔へと向かなくなってしまう怖さもある。
そんな事は当に見越している目の前のその人は、楽しそうに微笑みながら「大丈夫。君はこの塔から離れる事は出来ないさ」と言った。
「えと……。じゃあ、この塔ってなんの為に出来たんですか?鐘は誰が鳴らして、なんの為に鳴って居るんですか?貴方は何者?天使なんですか?あとあの火事で燃えてしまったのは本当に偶然で……」
全てを言い切る前に人差し指で口を塞がれる。
「一気に言ったらわからないだろ?」
「す、すみません……」
「君は本当に好奇心が旺盛だね。君のお母さんにそっくりだ」
「お母さんを知ってるの?」
「あぁ、勿論だとも。君のお母さんと私は友達だよ。彼女はもう忘れてしまったと思うけどね」
そう言うと寂しそうな顔をした。
母はこの家の一人娘で、お父さんは婿養子だ。足の悪い母に変わって父がこの塔の管理をしている。昔は良くこの塔に遊びに来ていたと言っていた。足が悪くなったのは大人になってからで、最近は歩くのもやっとになってしまい、塔からは足が遠のいていた。
「母は……忘れて居ないと思います」
僕は小さい頃母から聞いた物語の事を思い出す。この街は天使に守られていて、あの鐘は天使が来る時に鳴るのだと。誰かを誕生を祝福し、誰かを守り、誰かの死を悲しむ為の時計だと言っていた。
小さな僕があの塔を怖がらない為に作った物語だと思っていたが、あれは本当の事だったのだと目の前の天使を見てそう悟った。
「そうか。あの子は私の事を覚えて居てくれていたんだね……」
嬉しそうな顔を見て、僕も嬉しくなる。母の話をもっと聞きたかった。
「質問の答えがまだだったね。とはいえ、君はもう知っていたようだ」
その言葉でやはり母のしてくれた御伽話が嘘で無かった事になる。あれはこの家に代々伝わるものなのか、それとも同じ様にこの鐘の所まで来た母が直接この天使から聞いた事なのか。
恐らく後者だろう。この天使の表情と、幼少期お転婆娘だったという母の印象からそうとしか思えない。
「君は聡明な子だね。私が何も言わなくても自分で答えを見つけられる」
「僕の頭を覗いたの?」
「いや。覗いたわけでは無いさ。わかるだけだよ」
「わかるだけ」というのがよくわからないが、きっとこの天使はその答えを教えてはくれないだろう。そういう所の察しだけは良いのだ。
「この鐘は……私達天使が鳴らしているのさ。この街の平和の為にね。この街は天使によって守られているということまでは知っているね。では何故この街を天使が守っているか知っているかい?」
その質問には首を振る。そもそもこの街が天使によって守られていると知ったのは今だ。そんな事考えた事もない。
「そうか。ではその答えを探したまえ。真実はこの塔にあるよ」
「この塔に…?教えてはくれないの?」
「私の口から言ってしまったらつまらないだろう?それに君だって、答えを探したくてうずうずしている筈だ」
言わるまでもなく、僕の心臓は高鳴っている。新しい謎、新しい真実。目の前の天使という不思議な存在ですらもう既知の過去の存在に成り下がってしまった。
「好奇心は誰にも止められない。君には謎を解いて貰いたんだ。まだ誰も知らないこの街の真実、この塔の秘密、そして私達天使の事を」
「貴方達の事も?」
「あぁ。この塔にはまだ私の知らない秘密も沢山眠っているって事さ。君の知りたい大火災の事だって、この塔には真実が眠っている筈だよ」
「天使も知らない真実が……ここに……」
いいしれぬ高揚感が湧き上がる。まだ謎はこの塔に沢山眠っているのだ。天使も知らない秘密を暴いたなら、この世で最初にその真実に辿り着いた存在になるという事ではないか。
僕はもうその謎を探したくて、秘密を暴きたくて、すぐにでも真実を探しに行きたい気持ちになっていた。
自分ではわからないが、顔に出ていたのだろう。そんな僕の様子を見ていた天使がクスクスと笑っている。
「本当に君は……面白い子だね。祝福した甲斐があったというものだよ。君なら……あるいは僕達の真実にも辿り着けるかもしれないね」
「天使の真実?」
「フフッ。これは私から君へのプレゼントだ」
そう言うと懐から輝く懐中時計を取り出して僕に手渡した。掌サイズのそれは開けると歯車が見える仕様のごく普通の時計だった。
「ヒントは時計の裏だよ」
「時計の裏……?」
そう言うとふわりと浮き上がりまたバサバサッと翼を羽ばたかせ空へと飛んでいってしまった。
僕は地面に落ちた一枚の羽を拾い時計と共に握りしめた。
鐘の音はいつの間にか静まっていた。
***
これはこの街の真実を綴る僕の手記である。
ここまでが第一章、僕と天使との出会い。そして今これを綴っているのはその時拾った天使の羽で作った羽ペンだ。
その後謎が解けたのか、この街の真実が何だったのかは、この先のお楽しみだ。
僕の記憶の記録共にこの街の謎を解き明かしていって欲しい。
#【鐘のある街】時を告げる
些細なことだと思うだろう
その小さな綻びをどうするかで人間関係は変わってくる
ほんの少しの歪みが
人と人との距離を広げ繋がりを壊す
なんて事ない一言や
少し引っかかる態度
違和感を感じる行動
その一つ一つにどう向き合っていくか
どうでも良い相手なら
放っておけば良い話
でもどうせ出会った相手なら
話して見つめて向き合いたい
そう思う事は悪い事ではないだろう
時には目を瞑り
飲み込み
忘れる事も必要かもしれない
しかし大半がそうでないのなら
小さな綻びが大きな穴となる前に
修繕し繕っていきたいと思うのだ
そうして繋いできた人間関係が
今では大切な宝物として
私の誇りとなっている。
#繕 【些細なことでも】