シャノン

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12/4/2024, 5:44:31 PM

【夢と現実】


嫌な夢を見た。

尊敬する、憧れの先輩から、
本物の先輩からは信じられないような、
そんな、酷い暴言をぶつけられた。
激しく罵られた。

夢の中の先輩は、知らない人なんじゃないかと、
別人なのではと思いたくなるほど、怖かった。

(今日、練習日だ…。)

夢は所詮、夢だ。
そうわかっていても、怖かった。

―――

あっという間に練習の時間が訪れる。

先輩はお仕事がお休みだったのか、
いつもより早い到着だった。
楽器を運びながら、先輩の背中に声をかける。

振り向いた先輩は、見慣れた笑顔を浮かべていた。
私が知っている、優しい声。
いつもと同じように、"重いだろ?"と言いながら、
楽器の運搬を手伝ってくれる。

(よかった。先輩は先輩だ。)

同級生にこの話をしたら、
"疲れているんじゃない?"とか
"先輩をなんだと思ってるんだ…"とか
"内容はどうあれ、ついに夢を見るようになったか"とか…。
心配してくれたり、いつも通りに軽口を
叩いてからかったり、反応は三者三様だった。

優しい先輩に愉快な友人たち。
彼らがいるこの現実が、私はたまらなく好きだ。

12/4/2024, 3:40:28 AM

【さよならは言わないで】


ついに向かえた、市民合同演奏会当日。

足りない人数でパートを分担して、
限られた時間の中で必死に練習して、
なんとか曲を仕上げられた。

そして本番の演奏も、無事に終えることができた。

「お疲れさん。」
『お疲れ様です。ありがとうござました。』
「いや、こちらこそ。いい経験をさせて貰った。」

どうしても人手が足りなくて、ダメ元で高校時代の先輩に、
エキストラ出演のお願いをしてみたら、快く了承してくれた。
お仕事の都合上、合奏練習にはなかなか参加できなかったけど、
それでも、ゲネプロ前には完璧だった。

『お忙しい中、本当にありがとうござました。
先輩にお願いできてよかったです。』
「あぁ俺も、久しぶりにお前たちと演奏できて楽しかったよ。」

昔から先輩は優しかった。
同級生からは、"後輩に甘い"なんて言われていたらしいけど…。

『また、お願いしても、いいですか?』
「ああ、もちろんだ。…まぁ仕事の都合が付けば、だけどな。」

今回の1回で終わらせたくない。
また、先輩と一緒に音楽がしたい。
だから、…。

「じゃあ、またな。」
『はい。また、よろしくお願いします。お疲れ様でした。』

"さよなら"でなんか終わらせない。

12/3/2024, 6:27:00 AM

【光と闇の狭間で】


社会に出てから、2年と数カ月が過ぎた。
今日は高校時代の友人と会う約束があった。

お気に入りの服に着替えて、
いつもより時間をかけてメイクもした。
出かける準備はバッチリだ。

…だけど、そこから、身体が動かない。

LINEグループでは、連絡が飛び交っている。
私も返信しなければ…とは思うものの、
何をどう返せばいいのか、わからない。
既読をつけてしまうのが怖い。

そもそも、私が遊びに行っていいの?

気心の知れた仲だけど、だからこそ、怖い。
何が?何が怖いの?この感情は本当に恐怖?
なんで自分のことなのにわからないの?
私は、今、何を考えているの?

思考がグルグルと悪循環していたとき、
電話がかかってきた。

(…電話。せめて、電話くらい出なきゃ。)

意を決して、画面をタップする。

「よう。そろそろ出発だけど、大丈夫か?」
『…ごめん、今日…行けない。』

ちゃんと話さないといけないのに、
声の震えを抑えられない。視界がぼやける。

「おい大丈夫なのか?」
『うん…、大丈夫。』
「そうか。……無理、するなよ。」
『…うん。ほんと…ごめん。』
「気にするな。大丈夫だから。な?
 今日はゆっくり休め。」
『うん。…ありがと…ごめん。』
「ああ。それじゃ、またな。」

"また"…か。
連絡もまともにできなくて、
当日にドタキャンするような、
電話口で泣き出すような面倒なやつに、
"また"の機会なんて、あるのだろうか。

一度悪い思考に囚われてしまうと、
そう簡単には抜け出せない。
自分はなんて弱い人間なんだろう。

―――

いつの間に眠っていたんだろう。
気が付くと、外は既に暗くなっていた。
スマホで時間を確認して、
そのまま何となく動画を漁ってみる。

少しすると、LINEの通知が表示された。


"調子はどうだ?"
"今、家の近くなんだが
 少し会えないか?"
                    "今朝はごめんね
                       もう大丈夫"
                  "どれくらいで着くの?"
"5分もかからないと思う"
                    "了解、待ってるね"


やり取りを終えて、外に出てみる。
夜風は冷たく、雲がかかって月も見えない。

真っ暗な空を見上げていると、
遠くから眩しい2つの光が向かって来た。

「なんだ、外で待ってたのか?寒いだろ。」
『うん、平気。』

車を停めて駆け寄って来る。
吐き出される息は真っ白だった。

『中、入る?』
「いや、今日はコレ渡しに来ただけなんだ。」
『なに?』

そう言って手渡された紙袋。

「甘いの好きだろ?みんなで買ったんだ。」
『うん。…ごめんね、わざわざ「謝るなよ。」…ごめん。
 …ありがとう。』
「おう。」
『中、見ていい?』
「あぁ、もちろんだ。」

中に入っていたのはバウムクーヘン。

『…米粉?』
「そうだ。米粉のバウムクーヘン。ショッピングモールで
 出張販売してたんだ。3種類あるぞ。。」
『へぇ〜、美味しそう。』
「それなりに日持ちするから、少しずつ食べろよ。」
『うん、ありがとう。』
「…やっと笑ったな。」
『ん?何?』
「いや、何でもない。」

暗闇に独り、取り残されてしまったような気持ちと共に、
曇っていた空も晴れていく。
満月が辺りを明るく照らす。
あなたの優しさが、私に光を宿してくれた。

12/1/2024, 2:26:29 PM

【距離】


こんなに、近くにいるのに。

同じ部活で、すぐ隣で
一緒に練習しているのに。

とても、追いつけそうにない。

元々の経験値が違ったから、
簡単に追いつけるとは思っていない。

でも、それでも…。
あまりにも遠いところにいる気がする。
自分で独りだけが、置いていかれている気がする。

(もっとリズムに合わせて、テンポを保つ 。)
(もっと音を聴いて、音程を合わせるんだ。)

((少しでも近づくには、まだ練習が足りない。))

今日は部活動もお休みの日。
それでも2人は、同じ教室で自主練習に励む。

遠く感じていても、すぐ近くにいる、お互いに負けないように。
これからも、肩を並べていられるように。

11/30/2024, 3:21:25 PM

【泣かないで】


先輩方が引退されてから、早数ヶ月。
近々行われる合同演奏会に向けての練習中、
同級生のあいつが泣いているのを見つけた。

「…グスッ…。」

平気な顔をしようとしていても、
目が充血しているうえに潤んでいる。
誰が見ても、泣くのを我慢しているとわかる。

更に、既にわかっていること。
それは、こいつは"大丈夫か?"と聞くと
必ず"大丈夫"と答えること。
本当は大丈夫じゃなくても、そう言えないやつだ。

『なぁ、セッティングの確認をしたいんだが、少しいいか?』
「…うん。」
『よし。ここだとうるさいから、場所を移すぞ。』

人が集まりつつある部室を出て、誰も来ない楽器庫へ向かう。

「…わざわざ鍵まで開けて…。」
『いいだろ。この部屋は俺たちの管轄なんだ。』
「まぁ…そう、だけど…。」

ほんの少しの躊躇いの後、室内へと足を踏み入れる。
…合奏が始まるまで、まだ時間はある。

『で?何があったんだよ。』
「…何が?」
『…話しにくいなら、話さなくてもいい。
だけど、無理だけはするな。』
「…。」


お前が泣いていても、
俺は、何もしてやれない。

先輩みたいに、笑わせてやることはできない。
気の利いた言葉をかけてやることも、俺にはできない。

お前が落ち着くまで、側にいることしかできないんだ。

だから、頼む。


――泣かないでくれ…。

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