【もう一歩だけ、】
もう一歩、踏み出す勇気があれば
もっと違う未来が待っていたかもしれない
あの人みたいに強ければ
もっと沢山の選択肢があったのだろう
弱い私には、何も選べない
【やさしさなんて】
“やさしさ”なんて求めてない
お願いだから放っといて
あなたがくれる“やさしさ”は
わたしにとっては毒だから
貴方が優しくしてくれる度、私の心は弱くなってしまう。
貴方の優しさに慣れてしまったら、別れた後が辛くなる。
このままでは私は、一人で生きていけなくなってしまう。
この先、貴方と一緒に生きていけないことはわかってる。
だから、おねがい。
わたしにやさしくしないで。
【どこにも行かないで】
【届かないのに】
✿
あの人はいつでも自分に厳しい。
決して現状に満足することはない。
あの人は“守られてばかりの弱い奴は気に食わない”と言っていた。あれ程自分に厳しいのだから、そう言うのも納得でしたし、彼らしいと微笑ましくすら思えた。
そんな彼に少しでも近づきたくて、強くなろうと鍛錬に明け暮れた。身体のつくりが違うのだから、どんなに頑張っても、私があの人に追い付くことはできない。
それでも、諦められなかった。
あの人が、“強くなったな”と言って笑ってくれるから。例え追い付けないとしても、それを理由に諦めたくなかった。停滞なんてしている場合ではない。
強いあの人に相応しくありたい。
隣に立つことが出来なくても、あの人に認めて貰えるだけで、私は救われるのだから。
だから私は、届かないとわかっていながら、
今日も鍛錬に身を入れるのだ。
【君だけのメロディ】
✿
あの人との出会いは思いがけないものだった。
どちらかというと、望まない出会いだった。
それでも、見つけてしまったものは仕方ない。
彼女を見殺しにすることはできなかった。
あの人は近寄り難い雰囲気を醸し出していた。
感情の起伏がなく、何を考えているのかもわからなかった。
だがそれも最初の頃だけだった。
会話を重ねる内に、意外と単純で素直な阿呆だと思い知った。
あの人の本質がわかり始めてからは、案外すぐに親しくなった。
彼女も心を開いてくれていたように感じた。
どんな物事が好きなのか、逆に嫌いなのか。
そんな初歩的なやり取りが出来るようになった。
あの人が奏でる音楽は、いつ聴いても不思議な気持ちになる。
あの感情をどう言い表せばいいのか、今でもわからない
初めて聴くはずなのに、何故か懐かしく感じた。
そして何故だか、まるで自分自身を表したような曲だと感じた。
あの人の旋律は不思議だ。
だがそれと同じくらい心地良い。