【好きだよ】
「お疲れ」
「おう、お疲れ。久し振りだな」
半日シフトの仕事終わりに、友人とランチの約束をしていた。
お互い仕事で忙しく、会うのは1ヶ月ぶりだろうか。
「ほんと久し振り。休み全然合わなかったもんね」
「そうだな。ほら、早く行こう。話聞いてやるからさ」
「うん、ありがとう」
今日はただのランチ会ではない。仕事で積もり積もったストレスの発散も兼ねていた。
本当は、お互いの休みが重なる日に会う予定だった。しかし、あまりにも色々と“酷い”新人のおかげで、私の精神が限界を迎えていたのだ。そこで、「半日だけでも予定が合う時に会っておこう」と提案してくれたのだ。なんとも有り難く、頼もしい友人だ。
そうこうしている内に店に着き、注文を済ませる。
「それで?例の新人さんは、今度は何をしでかしたんだ?」
「無断で早退した」
「は?」
「何もしないで10分以上突っ立ってやがると思ったら、何の断りもなしに帰りやがった」
「なんだそりゃ。何があったんだよ」
「うーん…。3ヶ月も働いてればさ、何がどの程度必要かってわかるじゃない?」
「まぁ、日によって変動しなければな」
「でしょ?で、用意する物は沢山あるのに随分ゆっくり作業しているもんだから、声かけたの」
「どんな風に?」
「それじゃ全然足りないけど大丈夫?って。…前科があるから、この時点でもうイライラはしちゃってたかも」
「それで、なんて返ってきたんだ?」
「あぁ…って」
「あ?なんだよそれ。そいつ後輩なんだよな?」
「そうだよ。んで、今までもそんな舐めた口の利き方するもんだから、もう我慢できなくなって怒っちゃったの。そしたら、“なんでそんなに怒られなきゃいけないの?”だって」
「…とんでもねぇ奴だな」
「挙句の果てには“正社員じゃないんだから…”なんて言い始めてさ。正社員レベルの仕事なんてさせてないし、高校生でも務まる程度の仕事しか任されてないやろがい。ふざけやがって」
「それは…災難だったな。で?また不貞腐れちまったのか?」
「そう。で、そのまま帰った」
「なる程な」
「仕事覚える気がないならさっさと辞めちまえよ」
今までの鬱憤が爆発する。
ただ仕事ができないだけならまだしも、そもそもやる気がないような人間になんて、優しくしてやれない。働く気がないなら帰ってしまえ、と思ってはいたが、断りは入れるのが筋だろう。最低限の筋も通せない人間なんて、とても許せそうにない。
「お前も苦労するな。この前も、1から製作し直しになったんだろ?その件は大丈夫だったのか?」
「一応間に合ったけど、謝罪の言葉は一切なかったね」
「なんだよそれ。その新人って学生じゃないんだろ?」
「もうとっくに社会人だよ。だから余計に腹が立つの」
「とはいえ、出来ないとわかってる相手に厳しくしすぎちゃったのかな、とも思ってるんだよね」
「…程度がわからんから何とも言えないが、」
【桜】
〈お久し振りです!今回、お手伝いに来て頂けると伺いました。
またよろしくお願いいたします!〉
〈久し振りだな。こちらこそ、よろしく頼む。
皆んな元気か?〉
〈相変わらずの馬鹿ばっかです!〉
〈そうか笑 また会えるのが楽しみだ。〉
〈そちらに行く頃には、桜も咲いているだろうから
また皆んなで花見にでも行こう。〉
〈行きましょう!是非!〉
〈いつでも行けるように準備しておきますね!〉
先輩方とお花見だなんて、いつ振りだろう。
今から楽しみで仕方がない。気が早いと呆れられるだろうか?
まぁこの際、そんなことはどうだっていい。
まずは何を用意しようか?
レジャーシートはまだあったかな?
いやでも、あの公園はベンチ付きのテーブルがあるから…
そもそも場所の候補は他にないのか?
あぁ、考えがまとまらない…。
〈【速報】先輩からお花見のお誘いあり!〉
〈場所どうする?何持ってく??〉
〈気が早すぎるわバカタレ〉
〈桜が咲き始めるのはまだ先だぞ〉
〈でも、先輩たちと会えるの楽しみだね!〉
案の定。こんな返しが来るだろうとは思っていたさ。
想定の範囲内だ。
この“いつも通り”がこの上なく嬉しい。
これけら先も、ずっとこのままでいられますように…。
【君と】
太陽のように明るい君と歩いた道
負けず嫌いな君と励んだ朝練
完璧な君と取り組んだ課題の山
穏やかな君と過ごした休み時間
優しい君と語り合った放課後
馬鹿真面目な君との帰り道
思い出に満ちた君との時間
これが私の宝物
【七色】
「イメージカラー?」
「そう!定期演奏会のパンフレットで恒例だっただろう?」
「打楽器パートだけな」
「部室の安寧を守る戦隊だったか?」
「まぁ、そんな感じ?」
「でも、あれは好きな色を選んでるだけだから…」
「イメージカラーとは違うかもね」
「そこはいいんだよ!ほら、僕らはアンサンブルチームなんだし」
「あー…言いたいことわかったわ。そういうことね」
「たまに先輩方も参加されるから、違う色にしないとな」
「先輩は確か…黄色、白、青だったな」
「で、赤でしょ?」
「ああ。お前は紫だな」
「なぜだ?」
「毒々しいから」
「面白い冗談を言うようになったな」
「君は緑だったよね」
「うん、何となく」
「何となく?」
「強いて言うなら緑かな〜って感じだったから」
「緑は僕も好きだよ」
「お前の方が緑っぽいかもな」
「じゃあこいつは?」
「何色だろうな」
「他に好きな色は?」
「ワインレッドとか、藍色とか?パステルカラーも好き」
「極端だな…。」
「オレンジはどうだ?お前に似合うと思うぞ」
「あ〜確かに!雰囲気に合うかもね」
「ピンクじゃないんだ」
「そんなガラじゃないだろ」
「何、喧嘩売ってる?」
「おいそこ、じゃれるな」
「じゃあ、それぞれの色も決まったことだし…」
「ふふ、楽しみだね」
さて、何を作ろうか
【あの日の温もり】
ある冬の日の寒い夜
君と入ったコンビニで、
一緒に買ったホットドリンク
並んで歩いた帰り道
明るい月に照らされて
よもやま話に花が咲く
着いてしまった分かれ道
お別れするのが寂しくて
歩みを止めて話し込む
それじゃあまたねと手を振った
すっかり冷めたホットドリンク
それでも心は温かった